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第2話

作者: ショコラビス
「もういいでしょ、時間を無駄にしないで。中に入りましょう」

私は苛立ちを隠さず、透子の言葉を遮る。

この七年間、私は何度も透子と顔を合わせてきた。彼女は表面のように無垢で愛らしい女ではない。十年も芸能界で生き残ってきた女が、そんなに単純なはずがない。

だから私は彼女の芝居を見る気にもなれず、そのまま背を向け、中へと歩き出す。

思いもよらず、透子も後を追ってくる。

そして彼女の視線が離婚届に釘付けになっているのを見た瞬間、ようやく気づく。

――彼女は監視役として来たのだ。

市役所に離婚届を出す前、私たちは離婚協議書を交わしてきた。

以前の離婚協議書では、深司が「俺は全てを置いて出ていく」と書き残し、それが私の唯一の安心材料になっていた。

だが今回は違う。出ていくと書かれていたのは、私の方だった。

深司は言った。もし自分の資産に動きがあれば、上場を控えた会社に影響が出ると。

私がその条件に同意の印を押したのは、彼を信じたからじゃない。ただ、もう争う気力が残っていなかっただけだ。

手続きを終えたあと、私は市役所の前でタクシーを拾う。

深司が駆け寄り、腕をつかむ。

「お前の両親の家にはどれくらい滞在するんだ?住所を教えてくれ。手土産でも持って挨拶に行きたいんだ」

「必要ないわ」

私は冷ややかに答える。

今度の私は本当に違う――そう悟ったのか、彼の手が無意識に強くなる。

「薫……俺たち、また一緒になれるんだよな?」

その時、透子が駆け寄ってきて、慌てた声を上げる。

「深司、子どもが熱を出したの!どうしよう!」

私はそっと彼の手を振り解き、二人に向かって言う。

「撮影、うまくいくといいわ」

そう告げてタクシーに乗り込み、振り返ることなく走り出す。

車が動き出した瞬間、涙はもう止められない。

手の中に残った、受理印の押された離婚届の控えを見つめながら、何度も経験してきたはずなのに、胸は針で刺されるように痛む。

――私はあの時、彼への愛という渦に自ら飛び込み、逃げ道を一つも残さなかった。

大学時代、同室の友人が忠告してくれた。

「バツイチ男なんて、信用できるとは限らないよ。そんなに信じ切らない方がいい」

私は強く言い返した。

「深司は違うの。本当に私を愛してくれてる。

あなたはきっと言うでしょうね。こんなに優れた男の周りには女が尽きないって。でも大丈夫、覚悟はできてる。私は彼に伝えたの。男が外で気まぐれに遊ぶことくらい理解するって。心の中に私がいれば、それで許せる。

この一生、私は彼を選んだの」

――七年の青春を捧げたはずなのに、残ったのは粉々に砕けた心だけだった。

タクシーを降りると、そのまま両親の豪邸へ足を踏み入れる。

門を押し開けた途端、母が笑顔で駆け寄り、いたずらっぽく言う。

「薫、目を閉じてみて」

私は素直に目を閉じ、母に手を引かれるまま歩いていく。

「……さあ、開けて」

目の前に現れたのは真っ赤なフェラーリ。そしてその横には、知也と父が立っている。

父が笑いながら口を開く。

「大事な娘への贈り物、本当は父さんが渡すつもりだった。けど、知也がどうしてもサプライズにしたいって言うからね。だから父さんからはこっちだ」

そう言って、背後からまるで手品のように取り出したのは――青く輝くサファイアのネックレス。

つい数日前、ニュースで【謎の人物が数億円で落札した】と報じられていたあのサファイアだ。

まさか、それが私への贈り物だったなんて。

目頭が熱くなり、目の前で笑う三人を見つめながら、胸の奥に言葉にできない痛みが広がっていく。

――これも天の采配なのかもしれない。

愛を失った代わりに、親と友の愛情で私の心の空白を埋めてくれる。

昼食を済ませると、知也は仕事があると言って会社へ戻っていく。

母は私をソファに座らせ、声をひそめる。

「薫、知也はきっとあんたを大事にしてくれるわよ。お父さんも人柄を褒めてるし、事業も順調だって。あんたも離婚したことだし、考えてみてもいいんじゃない?」

私は思わず笑い出す。

「やだ、やめてよ。知也は女の人に興味ないんだから」

母は意味ありげに笑みを浮かべ、それ以上は何も言わない。

翌日、私は新しい車のハンドルを握りしめ、胸いっぱいに感慨を覚える。

深司と付き合い始めた頃、彼の会社はまだ立ち上げたばかりで、小さな規模にすぎなかった。

私は彼の苦労が分かるから、贅沢は望まなかった。高価な贈り物も断り、彼のお金を使うこともなかった。

大学を卒業すると同時に彼と結婚し、そのまま彼の会社に入り、客先との交渉や雑務まで全部手伝い、アシスタントとして彼を支え続けた。

彼の苦労を知れば知るほど、自分のためにお金を使う気にはなれなかった。

彼が「車を買ってやろうか」と言ったこともあったけれど、私は即座に首を振った。
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