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第3話

작가: 清水澪
反論することも、騒ぎ立てることもしなかった。

莉乃がさらに何度か急かすと、蒼真の私に対する我慢も完全に底を突いたようだった。

彼は振り返ることもなくその場を立ち去り、去り際に冷淡な声で言い捨てた。

「泉緒、毎日お前をなだめるのにもほとほと疲れ果てた。頼むから、少しは聞き分けを持ってくれないか」

蒼真と喧嘩になるたび、彼はいつもひどく疲れた顔をしてこの台詞を口にする。

すると私は胸を痛め、自分がわがままだったのではないかと反省し始める。

そうやって自分を納得させては、またこの何の価値もない感情の泥沼に沈んでいく。

高級なスーツに身を包んだ蒼真と、オートクチュールのドレスを纏った莉乃。

肩を並べて歩き去る二人の姿は、皮肉なほどにお似合いだった。

遠ざかっていく彼らの背中を見つめながら、私も心を落ち着け、自分の荷物をまとめ始めた。

この九年間で、私と蒼真は数え切れないほどの思い出を残してきた。

昔の私は、彼が私を愛してくれていると固く信じていた。

邸宅の内装はすべて私の好みに合わせてくれた。

彼は窓ガラスのない開放的なバルコニーを好んだ。将来は子供と一緒にひなたぼっこをしたいから、と。

けれど、子供を授かるどころか、彼は私への愛さえも失ってしまった。

まだ家政婦も雇っていなかったあの頃、私の胃が弱いのを知っていて、蒼真は毎日自ら栄養満点の手料理を振る舞ってくれた。

だが、そんな温かな日々も、今では遠い記憶の彼方へと霞んでしまっている。

かつての彼は、私が通勤途中で寒がるのではないかと心配し、私に内緒でこっそりマフラーを編んでくれたこともあった。不器用な編み目だったけれど、そこには確かな愛情が宿っていた。

「他の人が持っているものは、お前にも持っててほしいからね」

彼は私にマフラーを巻いてくれた後、頬にキスを落とした。

私の頭を優しく撫で、猫がじゃれつくように私の首筋に顔をすり寄せて甘えてくる。

「仕事が終わったら早く帰っておいで。心配するからさ」

いったいいつからだろうか。蒼真が私たちの関係に飽きてしまったのは。

初めて私からプロポーズした時、蒼真はこう言った。俺たちはまだ若すぎるし、早くに結婚すれば他の夫婦みたいに、すぐにお互い顔を合わせるのも嫌になるだろう、と。

二度目のプロポーズでは、サプライズを用意していたが、思いがけず彼と友人たちの会話を耳にしてしまった。

「泉緒への新鮮味はもうなくなったな。つまらない。でも俺に尽くしてくれるから、別れたくはないんだ。

女からプロポーズしてきてるのに、男がこれだけ無反応なんだぞ。俺が愛してないって、本当に気づかないのか?」

そして最後の一回……

私は自分のすべてを懸け、彼の両親の前で蒼真と結婚したいと申し出た。結納金すらいらないとまで伝えた。

しかし、その場にいた莉乃がそれを知り、嫉妬して腹を立てた。

蒼真は目に見えて狼狽した。かつて私に注いでくれた愛も、誰にも私を傷つけさせないという誓いもすべて忘れ去り、あろうことか自らの手で私を階段から突き落としたのだ。

幾度となく拒絶され、現実に打ちのめされて、ようやく悟った。蒼真が心の底で待ち続けていたのは、いったい誰だったのかを。

目尻から不意に溢れた涙が、使い古されたマフラーにポツリと染み込んだ。

乱暴に顔を拭い、私は深く息を吸い込む。

業者を呼び、あの開放的だったバルコニーに窓を取り付けさせ、完全に塞がせた。

この九年間、蒼真のためだけに書き綴ってきた日記を無残に引き裂いた。

あのマフラーも、ライターで火をつけ、灰になるまで燃やし尽くした。

それから一週間、蒼真からは一度も連絡が来なかった。

私も早々に、邸宅からすべての荷物を運び出していた。

蒼真は私がただ機嫌を損ねているだけだと思い込み、気にも留めなかったようだ。

しかし時間が経って、ようやく私という存在を思い出したらしい。

出国まであと三日という日、珍しく蒼真から電話がかかってきた。

「泉緒、十周年の記念日が近いな。レストランを予約したから、ゆっくり話し合おう」

言葉と同時に、彼から場所を記したメッセージが届いた。

そのレストランは、私と蒼真が恋人として付き合い始めた思い出の場所でもあった。

いつもと変わらず、私は今年の記念日にも蒼真へのプレゼントを用意していた。
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