เข้าสู่ระบบそのすぐ横では、伊織がハルくんと一緒に大量のカラーブロックを広げていた。
「ハルお兄ちゃん、ここのお屋根は青色にするの」
「おっ、センスいいねぇ伊織! じゃあ、お兄ちゃんはこっちの壁を作るよ。これ、絶対超大作になるぜ!」
「うん! おっきなお城作ろうね!」
ハルくんはオレンジ髪を揺らして、5歳児と本気でブロック遊びに熱中している。
さらにその奥のソファでは、セナさんが厚い洋書を開いていた。「伊織、茉莉。お城が完成したら、こちらの絵本を読みましょう。……『Once upon a time, in a faraway land...』」
セナさんは、流麗な発音で英語の絵本を読み上げる。
それに合わせて、伊織と茉莉が「わぁ……」と目を輝かせた。茉莉はパパの背中から飛び降り、伊織もブロックを放り出してセナさんの両脇に座った。
夢中になって英語の絵本を覗き込んでいる。 セナさんの先ほどまでペントハウスで、おおはしゃぎで馬乗りになって遊んでいた5歳児の面影は、どこにもない。 背筋をピンと伸ばし、周囲の大人たちに圧倒されることなく堂々とした足取りで進む。「おはようございます。伊織です。よろしくおねがいします」「茉莉です。きょうはがんばります!」 2人揃って、スタッフたちに向かって綺麗な角度で一礼する。 その完璧な挨拶に、現場の大人たちから「おおっ」と感心のどよめきが漏れた。 密着カメラのディレクターが、呆然と口を開けて呟く。「信じられない……さっきまでパパ馬に乗ってキャッキャ笑ってた子たちと、同一人物ですか!?」「ふふっ、うちの子たちはすごいでしょう?」 おっといけない。つい自慢が出てしまった。 すぐに衣装室へ案内されて、着替えを済ませた2人が撮影ブースの前に現れた。 今日の衣装は『ストリート・モード』。 伊織は黒のレザージャケットにダメージジーンズ、首元にはシルバーのチェーンネックレス。 茉莉は赤いタータンチェックのセットアップに、黒い編み上げブーツというエッジの効いたスタイルだ。「よし、伊織くん、茉莉ちゃん。テスト撮影からいくよ!」 カメラマンがレンズを構える。 シャッター音がスタジオに響き渡った。 カシャッ。 その一音を合図に、2人の『オンの顔』が完全に覚醒した。 伊織はレザージャケットの襟を片手で軽く掴み、もう片方の手はジーンズのポケットへ。 あごを少し上げ、見下ろすようなクールな視線をレンズへ突き刺す。 その瞳には、5歳児とは思えないほどの凄みが宿っていた。 カシャッ、カシャッ。 茉莉は対照的に、セットアップのスカートをひるがえして軽やかにジャンプした。 空中で振り向きざまに、小悪魔のような挑発的なウインクを飛ばす。 着地と同時に唇を尖らせて、アンニュイな表情を作ってみせた。 ええぇ……?
「よし、完璧」 私はカモミールとミントをブレンドした温かいハーブティーをポットに淹れて、大きなお盆にフルーツサンドと共に並べた。「あの、スタッフの皆様。少し休憩にしませんか?」 私がカメラの横にそっとお盆を差し出すと、ディレクターたちが驚いたように振り返った。「えっ、これは……」「特製のフルーツサンドです。マスカルポーネチーズを使っているので、甘すぎなくて食べやすいと思います。ハーブティーと一緒にどうぞ。リラックス効果がありますよ」 私が裏方として微笑みかけると、スタッフたちは恐縮しながらもサンドイッチを手に取った。「い、いただきます……うおっ!」 一口食べた瞬間、カメラマンの男性が目を見開いた。「何これ!? めちゃくちゃ美味いっすよ! クリームが全然くどくない!」「本当だ……フルーツの酸味とチーズのコクが絶妙です。疲れが吹き飛ぶ……」 音声スタッフの青年も、目を細めてハーブティーをすすっている。「いやあ、美味しいです。こんな素晴らしい差し入れをいただけるなんて。紬さん、プロの料理人みたいですね」「いえいえ、ただの栄養管理スタッフですから。皆さんが少しでもリフレッシュできたなら嬉しいです」 私は深々と頭を下げた。 現場の空気を作るのも、裏方の大切な仕事だ。 スタッフの胃袋と心を握ってしまえば、現場の空気は格段に円滑なものになる。 実家の定食屋で培ったオカン気質が、こんなところで役に立つとは。 ディレクターはすっかり表情を緩ませて、「午後からのスタジオ撮影も、この調子で頑張らせていただきます!」と気合を入れ直してくれた。「あっ! ママのフルーツサンドだ。茉莉も食べるー!」 茉莉が目ざとくサンドを見つけて、駆け寄ってきた。「ぼくも、ぼくもー!」 伊織も負けじと走ってくる。「はいはい、みんなの分もありま
そのすぐ横では、伊織がハルくんと一緒に大量のカラーブロックを広げていた。「ハルお兄ちゃん、ここのお屋根は青色にするの」「おっ、センスいいねぇ伊織! じゃあ、お兄ちゃんはこっちの壁を作るよ。これ、絶対超大作になるぜ!」「うん! おっきなお城作ろうね!」 ハルくんはオレンジ髪を揺らして、5歳児と本気でブロック遊びに熱中している。 さらにその奥のソファでは、セナさんが厚い洋書を開いていた。「伊織、茉莉。お城が完成したら、こちらの絵本を読みましょう。……『Once upon a time, in a faraway land...』」 セナさんは、流麗な発音で英語の絵本を読み上げる。 それに合わせて、伊織と茉莉が「わぁ……」と目を輝かせた。 茉莉はパパの背中から飛び降り、伊織もブロックを放り出してセナさんの両脇に座った。 夢中になって英語の絵本を覗き込んでいる。 セナさんの美麗低音ボイスが耳に心地よいのだろう、うっとりとしている。 置いてけぼりになったレンくんとハルくんは、ちょっと哀愁漂う顔で双子を眺めた。 アイドルの仮面を完全に脱ぎ捨てた、ただの良き父親、良きお兄さんとしての温かい素顔が目の前にある。 部屋の隅でカメラを回しているディレクターが、信じられないものを見る目で口をパクパクさせていた。「あ、あの……葛城さん」 たまらずといった様子でディレクターが声をかける。「本当に、この映像をそのまま放送してしまっていいんでしょうか!? 天下のNoixの、こんな……隙だらけのプライベートな姿を……!」 うん、その気持ちはよく分かる。私は内心で思わず頷いた。「構いませんよ」 セナさんは絵本から視線を外し、涼しい顔で答えた。「これが彼らの『オフの顔』です。ありのままを映してください。後ほどの『オンの顔』との対比が、より際立ちま
「ええ。選定理由は3つあります。第一に、事前収録番組であり、事務所側である僕が編集内容の最終確認権とカット権を保持していること。第二に、撮影場所をセキュリティの強固なこのペントハウスと、管理の行き届いた仕事場のみに限定できること」「なるほど、それならマスコミの突撃や変なトラブルは防げますね」「その通りです、紬さん。第三に……『アイドルの可愛い子供』という枠組みを脱却し、『オンとオフのギャップを持つプロのモデル』という確固たるブランド価値を世間に提示するためです。この番組は、彼らの実力を世に知らしめる絶好のショーケースになります」「そ、そうですね」 完璧な理論武装である。 もはや誰も反論の余地はない。というか、もともとセナさんに口で勝てる人はここにはいない。 魔王の采配により、私たちの日常にドキュメンタリーのカメラが入ることが決定した。◇ それから数日後の朝。 ペントハウスの厳重なセキュリティゲートを突破して、選ばれし番組スタッフ数名がリビングへと足を踏み入れた。「うわぁ……すごい。これがNoixの住むペントハウス……!」「窓からの景色、合成みたいっすね。東京タワーが目の前ですよ、ディレクター」「おい、キョロキョロするな。機材をぶつけたらどうやって弁償するつもりだ。粗相のないようにしろよ!」 ディレクターの男性、カメラマン、音声スタッフの3人は、大理石の床や高級家具を前に完全に気後れしている様子だった。 私はあくまで「専属の栄養管理スタッフ」という名目で、顔出しNGの裏方に徹する。 カメラはリビングの隅に定点設置されて、スタッフたちは気配を消してNoixメンバーと双子の飾らない日常を追い始めた。「きゃーっ! おうまさん、もっと早く走れー!」「はいよっ! 捕まってろよ茉莉、落ちるなよー!」 カメラが回っているというのに、リビングの中央ではとんでもない光景が
ペントハウスのリビングのローテーブルに、見上げるような紙の塔が3つほど建設されていた。「バラエティ番組『突撃! アイドルパパの休日に密着!』。……却下です」 葛城セナさんが冷ややかな声で言う。同時に分厚い企画書をぽいっと床のゴミ箱へ投げ捨てた。 バサッという乾いた音が響く。「大手玩具メーカー、新作ブロックのテレビCM。……拘束時間が長すぎますね。5歳児の集中力を考慮していないスケジュールです。却下」 バサッ。また紙が投げ捨てられた。「有名司会者のファミリー向けトーク番組。……生放送は論外です。子供たちが予測不能なプライベート情報を発言するリスクが高すぎます。これも却下」 次々と紙の塔が崩されては、ゴミ箱の肥やしになっていく。 そろそろゴミ箱から紙があふれ出そうだ。 あのライブ配信での公表から数日。 伊織と茉莉の愛らしい姿は、瞬く間に社会現象レベルの人気を巻き起こしていた。 テレビ局、広告代理店、出版社から、「親子共演」「独占インタビュー」「キッズモデル起用」と、何十件にも及ぶオファーが文字通り殺到しているのだ。「ちょっとセナくん、それギャラすごい額だったよ!? 捨てちゃうの!?」 向かいのソファで寝転がっていた遊馬ハルくんが、目を見開いて身を乗り出した。 セナさんは眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、冷徹な魔王の眼差しでハルくんを射抜く。「目先の端金に目が眩むとは、愚かですね。生放送や台本の定まっていないバラエティ番組は、コントロール不可能な事態を生み出します。子供の心身に過度な負荷をかける環境は、親として、プロとして排除するのが当然でしょう」「お、おう……。ごもっともです」 ハルくんがシュンとしてソファに沈み込む。 その横で、コーヒーカップを傾けていたレンくんが深く頷いた。「セナの言う通りだ。あいつらを安売りする気はない。消費されやすい『アイドルの可愛い子供』という色眼鏡
しかし。 画面に流れてきたコメントは、私の予想を完全に裏切るものだった。『ええええええ! 可愛すぎる!!』『パパって言った!? 尊い無理!!』『伊織くんのお辞儀、礼儀正しすぎない!?』『レンくんがすっかりパパの顔になってる(涙)』『茉莉ちゃん、レンくんにそっくり! 天使!』『素敵すぎる家族……!』 画面は怒りやバッシングの言葉ではなく、好意的なコメントと大量の祝福の言葉であふれ返っていた。 サーバーがダウンしそうなほどの勢いで、温かい言葉のシャワーが降り注いでいく。 子供たちの愛らしさが、ファンの警戒と反発を吹き飛ばしたのだ。 セナさんが描いていた『家族を愛するアットホームな父親』という新戦略。 それが机上の空論ではなく、現実のファンたちに受け入れられた瞬間だった。「伊織、茉莉。ファンのみんなに手を振って」 レンくんが優しく促すと、双子はカメラに向かって小さな手を元気いっぱいに振った。「ばいばーい!」「またねー!」『可愛いいいいい!』『天使が2人もいる!』『レンパパ最高!』 ハルくんもようやく我に返り、「俺の甥っ子と姪っ子、世界一可愛いでしょ!」と画面に身を乗り出してアピールを始めた。 セナさんは眼鏡の奥で満足げに目を細めて、「本日は思わぬサプライズゲストが登場しましたが、これにて配信を終了いたします。ご視聴ありがとうございました」 と、完璧な挨拶で締めくくった。 画面が暗転し、『OFFAIR』の文字が点灯する。「……終わった」 レンくんが深く、深いため息を吐き出してソファに背中を預けた。 その額にはうっすらと汗がにじんでいる。「レンくん……!」 私はキッチンから飛び出し、彼のもとへ駆け寄った。 レンくんは立ち上がると、私を
「うわー、レンくん熱すぎ!ここ通路だよ?」 呆れたような声がして、現実に引き戻される。遅れてやってきた遊馬ハルくんが、ニヤニヤしながら私たちを見ていた。 彼もまた汗だくで、髪から滴る汗をタオルで乱暴に拭っている。「楽屋まで待てないの? もうそのままチューしちゃえば? 俺が見張りしとくけど」「……黙れ、オレンジ頭」 レンくんが私を抱きしめたまま、ハルくんを威嚇した。「そこまでにしなさい。マスコミの目がどこにあるか分かりませんよ」 最後に追いついてきた葛城セ
カーテンの隙間から差し込む朝日が、まぶたをくすぐる。 私は幸せなまどろみの中で、深く息を吸い込んだ。 隣には愛しい人の体温がある。とくとく、鼓動の音が聞こえる。レンくんの規則正しい呼吸に合わせて、私の背中も上下する。「……ん。おはよう、紬」 耳元で寝起きの甘くかすれた声がした。 振り返ると、レンくんがとろんとした瞳で微笑んでいる。 まぶたの縁をバサリと音がしそうなほど、濃くて長い睫毛が彩っている。頬に落ちるその影さえ計算された芸術品のようだ。 神様が魂を込めて彫り
背後から伸びてきた腕に抱きすくめられた。「……ッ!」 逃がさない、とでも言うように、逞しい腕が私の体に巻き付いた。 背中に押し付けられる彼の胸から、ドクン、ドクンという激しい鼓動が直に伝わってくる。「お茶なんかいらない」 耳元でささやかれる。熱い吐息が首筋にかかって、背筋がゾクリとした。「もう、我慢できない」 その声は、いつもの甘えん坊な「充電」を求めるものではない。飢えた獣がようやく獲物を捕らえたような響きだった。 首筋に熱い唇が押し当て
ドームの巨大モニターにレンくんが映し出された。カメラが彼の左手首をズームアップする。「ッ……!」 私は息を止めた。きらびやかなゴールドの衣装と、高級なアクセサリー。その袖口から覗いていたのは、青と銀の刺繍糸で編まれた不格好なミサンガだった。 私が編んだものだ。手芸屋さんの糸で夜なべして編んだ、子供騙しのような手作り品。数百万円のハイブランドのブレスレットを外してまで、彼はそれを身につけていた。 5万人の視線が集まる、この晴れ舞台で。(バカ……。