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第 619 話

Author: 一笠
礼はすぐさま頷き、「その通り」と言った。

凛は、無意識に身を寄せてくる礼の顔をじっと見つめながら、ふと気づいた。クールな礼にも、こんなゴマすりっぽい一面があったとは。

皆が話しているうちに、車は聖北病院に到着した。

人通りの多い場所に出ると、梓はいつものように帽子のつばを深く被り、斜め掛けバッグを肩にかけて、だらだらと凛の後をついて行った。

すぐに一行は集中治療室のあるフロアに着いた。

佐藤家の人々はまだそこにいたが、煌の姿だけが見えなかった。

大山の容態が危ないというニュースが外部に漏れたため、佐藤グループを安定させるために誰かが会社に留まり、通常業務を維持しながら、株主たちにも安心感を与え
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