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第 803 話

Author: 一笠
「いえいえ、こちらこそ、高橋グループにこんな素晴らしい機会を頂けて感謝しているよ。実は、こういった児童慈善基金を設立することは、以前からの夢だった。今回、良い勉強の機会にもなりそうね」

凛は考え込むような表情を見せ、一瞬だけ悲しげな影が瞳に浮かんだが、すぐに作り笑顔で覆い隠した。

しかし、その一瞬の感情の揺らぎは、聖天の目にしっかりと捉えられていた。

凛が、あの嵐で土砂崩れに巻き込まれた山間の小学校のことを思い出しているのだと、聖天はすぐに悟った。

聖天自身も、あの小学校のことがきっかけでこの慈善基金を設立したため、凛の気持ちが痛いほどよく分かった。

テーブルの下で、聖天はそっと凛の手を握った
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