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第6話

Author: 望月図南

清夏は心臓病の発作を起こしたが適切な処置が間に合わず、病院で一晩中の緊急治療を受けた末、ようやく一般病棟へ移された。

その翌日病院から連絡を受けた遠真は、マルディブのビーチにいた。

電話越しの医師がこう告げる。

「患者の如月清夏さん、緊急連絡先にあなたの名前を登録していました」

遠真は一瞬言葉を失い、それからすぐに帰国便を手配した。

その傍らには、完璧なメイクを施した乃愛の姿があった。

病室へ飛び込んだとき、遠真は目の前の光景に思わず息を呑んだ。

病床に横たわる清夏は、痩せ細り蒼白な肌がなおさら弱々しく見える。

胸の奥に、今さらながらの罪悪感が押し寄せた。

声を和らげて、彼は言った。

「清夏......ごめん、遅くなった」

清夏は何も言わず、ただ静かに天井を見つめていた。

まるで、そこに彼の存在などないかのように。

遠真は喉を鳴らし、珍しく言い訳を口にした。

「昨日の電話、わざと無視したわけじゃない。ただ......お前に少し、反省してほしくて」

沈黙が流れた。

そして不意にその空気を破るように、乃愛が泣き出す。

「清夏さん、全部私のせいなの。無理に遠真を連れ出して、こんなことになっちゃって......」

「二人は長い付き合いなんだし、どうか私のせいで仲違いしないで......」

そう言って彼女は自分の頬を強く打った。

「あなたが動けないなら、私が代わりに叩く。許してくれるまで、何度でも」

その姿に、さっきまで清夏を気遣っていた遠真の顔が一変する。

「やめろ、乃愛!何してるんだ。悪いのは俺だ。お前が謝る必要なんてない」

清夏はもう何もかもが滑稽に思えた。

何ひとつ言っていないはずの自分が、いつの間にか責めている側に仕立てられている。

彼女は目を閉じ、かすれた声で言った。

「出て行って。ひとりにして」

ふたりが病室を出たのを見届けて、ようやく緊張の糸が切れた。

そのまま浅い眠りに落ちていったが──

「バンッ!」

激しい音で扉が蹴り開けられ、清夏は跳ね起きた。

遠真が、手にした検査報告書を彼女の上に乱暴に投げつける。

「見ろよ、これが現実だ。お前、昨夜は心臓発作なんて起こしてない。救急処置も受けてない!」

「ここに証拠がある。お前は一体、何を言い訳するつもりだ?」

彼はなによりも欺かれることを嫌う男だった。

ましてや、こんな手で同情を買おうとしたとなれば容赦はない。

乃愛がそっと彼の腕を引き、あどけない声で囁く。

「清夏さん、寂しいならそう言えばよかったのに......遠真にもっと構ってほしかっただけなんでしょ?」

「私、先生から聞いたんだ。まさか、こんな大げさな嘘をつくなんて思わなかった......」

遠真の表情は凍りつき、眼差しには嘲りが露骨に浮かんでいた。

「清夏お前、同情を引くためにそんな手を使うなんて......本当に、あの父親そっくりだな」

──それは、彼が父を口にした二度目の瞬間だった。

どちらも、心を抉るためだけの刃として。

清夏は勢いよく身を起こし、枕元の水差しを手に取ると、全力でふたりに向かって投げつけた。

「出てって......今すぐ、出て行け!」

ガラスのコップが床に叩きつけられ、「カシャン」と音を立てて粉々に砕け散る。

飛び散った破片が乃愛のすねに当たり、うっすらと血がにじんだ。

乃愛は傷口を見下ろし、口元を押さえて小さく声を漏らす。

「清夏さん、これは私への罰なのね。でもいいの、清夏さんのためなら、これくらい受け止める。お願い、もう怒らないで?」

遠真はその血に気づき、眉をひそめた。

「馬鹿なことを言うな、今すぐ手当てするぞ」

彼は乃愛を抱き上げ、病室を後にしながら、冷たく言い放つ。

「もう容体に問題ないなら、とっとと退院しろ。病院のベッドを無駄に使うな」

──乃愛のすねに貼られたのは、小さな絆創膏一枚だった。

病院を出る前、彼女はひとりでこっそり病室へと戻った。

その顔にはもう、か弱さも哀れみもなかった。

残っていたのは、あからさまな勝者の余裕だった。

「清夏さん、マルディブからお土産持ってきたの。気に入ってくれた?」

「バカな電話、しつこくかけてくるからよ。これは当然の報いよ」

彼女はベッドのそばにしゃがみ込み、清夏の耳元でささやく。

「こっそり教えてあげる。まだ終わりじゃないの」

「ねえ、清夏さん──第十ラウンド、始まるよ」
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