陸遠真(りく とうま)に囲われていた女は、決まってふいに姿を消した。見つかるたびに彼女は、如月清夏(きさらぎ さやか)が自分を殺そうとしたと訴えるのだった。九度目の失踪のとき、遠真は清夏をサウナ室に閉じ込めた。ガラス扉が施錠されるやいなや、熱気が無数の針となって肌を突き刺し、容赦なく痛みが広がっていく。温度計の針はぐんぐん上昇し──60℃......70℃......80℃......清夏の顔は茹で上がったように紅潮し、呼吸すらままならない。遠真は扉の外に立ち、手元の指輪を回しながら低い声で言った。「これが最後のチャンスだ。乃愛をどこに隠した?」清夏は扉に縋りつき、必死に叩いた。手のひらは焼けつくように熱く、血の滲んだ痕がガラスに残るがそれも蒸気に飲まれてすぐに消えた。「知らない......本当に知らないの......」喉は干上がり、裂けそうだった。「遠真......お願い出して、もう限界......」彼女には生まれつきの心臓疾患があり、二十代まで生きられたのも奇跡に近い。この高温下では、いつ命を落としてもおかしくなかった。だが遠真はまるで聞こえていないかのように温度調整のボタンを指先で叩きながら言った。「たかがサウナだ。死にゃしないさ。お前が乃愛にやったことを思えば、この程度の痛みなんてどうってことない」「まだ白状しないか?」ボタンが押される音と同時に、清夏は自分の心臓が激しく脈打つのをはっきりと感じた。「なら──もっと上げるぞ」意識が遠のきかけたその瞬間、彼女の脳裏に数日前、西村乃愛(にしむら のあ)がSNSに上げていた位置情報がよぎった。最後の力を振り絞り、叫ぶ。「言う......!北市の遊園地、備品倉庫よ......!」遠真はすぐに駆け出し、出ていく直前、部下に命じた。「俺から連絡があるまで、絶対に開けるな」──三十分後、ようやく電話が鳴った。遠真は乃愛を見つけ出し、それをもってようやく清夏は解放された。全身汗まみれで、体温は異常な高さを示していた。彼女はそのまま意識を失い、昏睡状態で一夜を越えた。うなされる中、遠真との記憶が走馬灯のように脳裏を巡る。遠真は父の古い友人だった。まだ幼かった頃清夏は内気で病弱で、彼はそんな彼女
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