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第2話

مؤلف: 望月図南

「清夏、本当にいいのかい?」

須藤先生の声には驚きがにじんでいた。

「君は身体が弱いし、ご家族の許可は得たの?」

以前、清夏も留学を考えたことはあった。

けれどそのたびに遠真に止められてきた。

最初のうちは、彼も辛抱強く言い聞かせてくれた。

「清夏、いい子だからね。お前は体が弱いし、遠出なんてさせたくない。病気がよくなったら、俺が世界中連れてってやるから」

──でも、次第にその口ぶりは冷たくなった。

「お前の父さんはお前を俺に託していったんだ。ちゃんと守らなきゃならない。わかるよな?無駄に手間かけさせないでくれ」

その態度が変わらなかったからこそ、清夏は今回も、海外の学校に合格したことを言い出せずにいた。

「......私にはもう家族なんていません」

清夏は口元を引きつらせながら、かすれた声で言った。

「須藤先生、どうしても......自分の力で外の世界を見てみたいんです」

電話の向こうでため息がひとつ聞こえた。

「......わかったよ。開講まではあと一週間。準備を急ぎなさい」

電話を切った直後だった。

階下で玄関のドアが「バンッ」と激しく叩き開けられる音がした。

遠真が荒々しく踏み込んでくる。

その身に纏う冷気に、空気まで凍りつきそうだった。

一言も発さず、彼は清夏の腕を乱暴に引き外へと連れ出そうとする。

昨日の火傷で痛む手のひらを強く握られ、清夏は顔をしかめながらも抵抗した。

「どこに連れてくつもり......!」

「乃愛に謝りに行くぞ」

その言葉に、清夏の胸が音を立てて沈んだ。

「......なんで、私が?」

「昨日、お前が乃愛を拉致したせいで、足を捻挫した」

その声は氷のように冷たかった。

「病院で一晩中泣いてたんだ。いまも目が腫れぼったい。原因を作ったお前が、謝るのが筋だろ」

清夏は、ふっと笑った。

何かと思えば──たかが捻挫。

「......遠真、それ、私じゃない」

胸の奥が重く痛むのを堪えながら、静かに言い返した。

「乃愛のSNSに投稿された位置情報をたまたま見ただけで......」

そこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ。

彼の目の奥に浮かんでいたのは、怒り、疑念、そしてほんのわずかな憎しみ──そう、これまでの八回と何も変わらない。彼は最初から信じていなかった。

「言えよ。もっと巧く作り話でも考えてみろよ」

口元を歪める彼の声には、露骨な嘲りがにじんでいた。

「清夏......あんな誠実だったお前の父さんが、どうしてこんな女を育てたんだろうな」

──父の名を彼が口にしたのは、亡くなって以来初めてだった。

まさかそれが罵りの言葉になるなんて。

遠真は清夏に反論の暇さえ与えず、本棚に蹴りを叩き込んだ。

バサバサと音を立てて、本が床に散乱する。

「謝ることからは逃げられない。大人しく来るか、それとも......無理やり連れていかれたいのか」

部屋が騒然とする中、入口から乃愛が足を引きずりながら現れた。

泣き腫らした目、かすれた声──「遠真......彼女を責めないで」

彼女はうるんだ瞳で遠真を見上げ、涙をぽろぽろと流しながら言う。

「悪いのは私なの......勝手に出歩いた私がいけなかったの。清夏さんは関係ないわ」

そう言いながら、なんと彼女は清夏の目の前で膝をついて土下座した。

遠真の目がみるみる赤く染まり、清夏の腕を振り払うと、乃愛をそっと抱き上げる。

乃愛は彼の腕の中で小さく身をよじりながらも、泣きじゃくるように言った。

「遠真、私を下ろして。謝るべきなのは私のほうよ。私のせいで、二人がこんなことに......私、本当に最低よ」

彼は乃愛をそっとソファに座らせ、振り返ったときのその目には、憎悪ともいえる激情が渦巻いていた。

「──なあ、これが見たかったのか?満足かよ、清夏」

清夏は、手のひらの火傷に爪を立てた。

刺すような痛みで、なんとか涙をこらえる。

次の瞬間、遠真は清夏を強引に引き寄せ肩を掴んで床に押しつけた。

「土下座して謝れ。自分の非を認めれば、今日のことは水に流してやる」

清夏はじっと背筋を伸ばし、まったく動かなかった。

「......そうか、謝らないんだな」

遠真の声は一層冷たくなった。

「なら、お前はあの部屋で十日間、写経だ」

清夏の身体がびくりと震えた。

乃愛が失踪を始めてからというもの、遠真はことあるごとに彼女をあの暗い小部屋に閉じ込め、蝋燭一本の灯りのもとで仏典を写させた。

光も空気も乏しいその部屋に何日も閉じ込められれば、出てきたときには、生きている心地もしない。

あと七日で出発なのに、これ以上無駄にはできない──清夏は唇をかみしめ、恥辱に耐えながら、「ゴン、ゴン、ゴン」と三度、額を床に打ちつけた。

「......乃愛さん、ごめんなさい」

乃愛はすぐにすまし顔で清夏の腕を取って起こし、笑顔で囁いた。

「そんなに気にしないで。もう怒ってないから」

立ち上がると、乃愛は清夏の耳元にそっと顔を寄せ、蛇の舌のように細く低い声で囁く。

「──また、私の勝ちね。如月清夏」

清夏はふらつきながら身を起こし、床に散らばった自分のリュックを拾い上げた。

そのとき──ファスナーの隙間から滑り落ちた一枚の紙が、ふわりと絨毯に舞い落ちた。

それは、芸術学院の合格通知書だった。

素早くそれを拾い上げた遠真が、眉をひそめながら顔を上げた。

「......これは、なんだ?」

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