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6. 既読31、返信0

last update publish date: 2026-09-17 20:30:12

同じ夜、ユ・ジニはリビングの大きな窓の前に立っていた。

江南(カンナム)の街の明かりが冷たく広がっていた。新しい病院に移ってからというもの、一日として楽な日はなかった。診療と会議、VIP顧客の対応が果てしなく続いていた。

けれど、目を閉じるたびに浮かんでくるのは病院ではなかった。

止まったエレベーター。

自分の腕の中に崩れ落ちてきた女。

細い腰と、震えていた息。

ジニは自分の手を見下ろした。とっくに消えているはずの体温が、今も残っているような気がした。

なぜ忘れられないのか、自分でも説明できなかった。顔さえまともに見ておらず、名前も知らなかった。再び会える可能性すら低かった。

それでも彼は、あの女にもう一度会いたかった。

たった一度でも、その顔を見たかった。

彼女が無事なのか確かめたかった。

そして聞いてみたかった。

あの日、暗闇の中で震えていた理由は、本当にエレベーターのせいだけだったのかと。

彼はまだ知らなかった。

あの女もまた同じ夜、夫の隣で彼の声を思い出していることを。

数日後。

ソユンを塾の前で降ろしたミレは、家の近くのパリクロワッサンに立ち寄った。

午後のベーカリーは閑散としていた。焼きたてのパンの香りが、けだるい温もりとともに店内を満たしていた。

ミレがトレーを手に陳列棚の前に立ったとき、聞き慣れた呼び方が聞こえた。

「あら、ジヌォンのお母様」

同じ棟に住み、子どもも同じクラスの保護者二人だった。廊下で会えば会釈を交わすだけの仲。ちょうどそれくらいの距離だけを保つ関係だった。

「今度、六年生は13クラスまで増えたんですって?」

「うちのクラスにも転校生が二人も来たらしいわ。盆唐(ブンダン)から来た双子なんですって」

そのとき、ミレのスマートフォンが立て続けに震えた。

新しく作られた六年一組の保護者グループチャットだった。

クラス代表の母親から長い挨拶が投稿されると、返信が瞬く間に続いた。

[△△の母です。こんにちは。よろしくお願いします。^^]

[□□の母です。はじめまして。^^]

[◇◇ママです。一年間よろしくお願いします!^^]

名前が違うだけで、内容は同じだった。

短く、素早く、決して目立たないように。

ミレも二行の挨拶を残した。

[アン・ミレ:こんにちは。ジヌォンの母です。よろしくお願いします。]

まさにそのとき、グループチャットの流れを断ち切るような長文が投稿された。

[ジホ・ジウォンの母:こんにちは。^^ 盆唐から引っ越してきた双子の母です。まだ大峙洞(テチドン)での生活に慣れておらず、わからないことばかりです。私はワーキングマザーで、夫と江南駅の近くで韓医院を経営しています。体調が悪いときや韓方薬について気になることがありましたら、気軽に声をかけてください。これからいろいろ教えていただけたら嬉しいです。^^]

賑やかだったグループチャットが、嘘のように静まり返った。

[既読31。返信0。]

隣にいた母親が舌打ちした。

「見て。グループチャットに自己紹介文を投稿しちゃった」

「誰がこんなふうに個人SNSみたいに書くの?」

初めてなんだから、仕方ないでしょう。

ミレは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

その言葉を口にした瞬間、自分まで「盆唐から来た空気の読めない母親」の味方としてひと括りにされるはずだった。

けれど、ミレはスマートフォンを手に取った。

[アン・ミレ:ジホ・ジウォンのお母様、はじめまして。一年間よろしくお願いします。]

送信ボタンを押すと、凍りついていたグループチャットが再び動き始めた。

[△△の母:はじめまして。^^]

[□□ママ:ようこそ。よろしくお願いします!^^]

まるでミレの一言が「もう安全だ」という合図にでもなったかのように、挨拶がドミノのように続いていった。

隣にいた二人の母親が、ちらりとミレを見た。

なぜわざわざ危険を冒したのか、とでも言いたげな目だった。

ミレにも理由はわからなかった。

ただ、返信が一つもない画面を見ていると、見知らぬ場所にたった一人で取り残された誰かの顔が浮かんだ。

そのとき、ガラスの扉が軽やかな音を立てて開いた。

チリン――。

明るい印象の女が入ってきた。パンを手に取っては戻しながら、よそ者のように辺りをきょろきょろと見回していた。

「あの、本当にすみません。ここのパンって、何がいちばん有名ですか?」

ミレにはすぐにわかった。

ついさっき、グループチャットを凍りつかせた、まさにあの女だった。

「モンブランとベーグルが人気ですよ」

「本当にありがとうございます」

女はベーグルを手に取りながらミレの顔を見ると、目を丸くした。

「もしかして、さっき一番最初にコメントしてくださったジヌォンのお母様ですか?」

「はい、そうです」

「まあ。私、本当に救われた気分でした。誰も返信してくれなくて、穴があったら入りたいくらいだったんです」

チェ・スジンは明るく笑った。

そして、少しの計算もなく感嘆した。

「プロフィール写真でもお綺麗でしたけど、実際にお会いしたら、もっとずっとお綺麗ですね」

思いがけない率直な褒め言葉に、ミレは照れくさそうに笑った。

ミレはまだ知らなかった。

自分がたった今、手を差し伸べたこの屈託のない女が、のちに自分の人生で最も危険な沈黙を共に守ってくれる人になるということを。

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