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高さ六百三十四メートルの電波塔の天辺から、見下ろす人間界に、生命反応はウジャウジャと有るというのに。
蠢く蟻の様な、無個性、均質的な、この「ニンゲン」という生き物を殖やす事を「神」は、お望みだ。
「だけど、この国は『少子化』。笑止ね」
背中の翼が、笑うと揺れる。
背丈はニンゲンの女の子と、ほぼ変わらない一メートル六十三センチ。
視認される恐れはあるけど、どうせ気付かれない筈なのだ。
ニンゲンは世界の本質を知らない。
神は地上を監獄と定めている。
あくせく働いて、寝て、食べて。
それを無限に繰り返すだけの、肉体の囚われ魂に過ぎない囚人達だから。
「パパは蟻のジオラマを造りたいと言うけど。脳が過大に発達し過ぎて、ニンゲン達は文明が手に負えないくらいに発展しちゃった。特に、この国は顕著に弊害が出てる。誰もが本能を忘れ、セックスをしなくなりつつある」
スコープで川辺のホテルを拡大すると。
窓の向こうに二匹の動物が居た。
全裸でヤッている男と女か。
『あふン……イクっ……イクっ……』
『ううッ……出るッ……』
声ばかりが大きい。
ややもすると演技の可能性も有る。
バックで尻を突き出し突かれる女と、しきりに腰を前後する男のシラケた交尾がズームに映し出されると、胸の底から不愉快な怒りが込み上げてくるのだ。
「7ケタ動画ってヤツ? アングラでモザイクも無い分、騙しが効かないんだから。もっとリアルな交尾を映し出してあげなきゃ、観ている童貞も性欲を掻き立てられないでしょーがっ!」
これは始末をつけなきゃいけない、と天使に許可された「天罰執行システム」の発動に、アタシは飛び立つ事にした。
風に乗る天使の翼が大きく羽ばたく様に、空中回廊のような電波塔の展望室に驚くニンゲン達の眼差しを感じるけど。
瞬く間に降下したアタシはホテルの窓へと突き進み。
女が手をついてバランスを支える窓に、目が合いそうになるけど、どうせあちらは気付いていない。
朦朧とした意識に、ぼんやりと見つめる世界は、きっと非現実の写真の風景の様に隔絶されているのだろう。
だから、アタシがミリ単位まで接近して初めて驚いた目をしたが、遅い。
勢い飛び込んだアタシがガラスを割れば、十代後半くらいの少女は痙攣する肉体が絶頂の余韻に浸っていたのにも拘らず、本能的に避けないとならないアンビバレンスな葛藤に僅かに遅れた。
「ぎゃああああーッ」
遅れは絶望的な混沌を若き肉体に及ぼすだろう。
避けきれないカラダはガラスの破片と共に弾き飛ばされ。
アタシは、顔面と乳房から流血する少女が破片を突き刺したままで壁に激突するのを、目で追いつつも。
柔な男が、ふにゃけたチンポを、だらしなくぶら下げて震えているのを見て。
「直ぐ膣から抜けちゃうのは、それだけ、本気の交尾をしちゃいなかったってコトねー」
死神と見紛う鎌を、右手に物質化させるアタシは「天罰執行」に、男のチンポを切断し。
噴水の如く噴き上がる血が、柔な遺伝子を次世代に残す事を阻止する。
「うわあああーッ……俺のチンコがあああーッ……」
「うわあああーじゃないわよ。中途半端なAVを撮っているくらいならば、アンタは子種をばら撒かない方がイイかなって『天使』のアタシが思ったから。だから、愚かな分身を作らないで済んで感謝しなさいよね」
ニンゲンの男が、そのシンボルを根こそぎ切り落とされれば、出血多量で死ぬという事は勿論、理解している。
子種を残すな、と言うより、お前の命は根こそぎ刈り取る的な、天使の横暴。
これがアタシには許されている。
「止まらないッ……血がッ……」
男は股間を押さえ込み、その場に崩れ落ちて、死んだ。
でも、ガラスの破片に突き刺された少女は、まだ息があった。
だから、アタシは、その子の傍に寄って。
「ねえ。ゴム着けてヤるなんて、繁殖する気、無いでしょ? 無修正でモザイクも無しなんだから、孕みもしない『空撃ち』セックスにコンドームで覆われたペニスを白々しくも見せつけられて、AV観ている童貞どもがリアルに『子作り』したくなるワケがねーんだよ? 『生でヤッて』って言えない度胸無しは死んで?」
虫の息の耳元に優しく囁いて。
アタシは、口角を上げて、一思いに少女の首を斬り落とした。
「ごめんなさ……がはっ……」
目が潤んでいるままで、頭だけが転がり。
鮮血を噴き上げる首元から下の肉体は、まだ弛緩を続けていたので。
アタシは、ゴムに覆われた切断チンポの封印を解くように、そのベールを剥がして、女の子の大事な部分に詰め込んであげる。
傍から見れば、殺してから「詰め込む」のなら、生きているうちにそうしてあげたらイイのに、と思われるかもしれないが。
軟弱な子種が蔓延る元凶は、きっとこういう偽物AVの所為だと、アタシは思い。
ついつい電波塔の天辺から見えたから、撲滅したくて飛んで来たのだけど。
やはり、架空の「エッチ」というものを画面上で観させて満足をさせるAVは「罪」だ、と思う以上に。
寧ろ、AVを観て、それをオカズに満足しちゃっている「チェリーボーイ」を救済する方向にシフトしていこうかと思わされたの。
「作戦変更かな。童貞を探す」
サイレンの音が近づいてきたので、ガラスの割れた窓から抜け出す天使は、情けないったらありゃしないが。
『あれは何だ!』
『人が飛んでいるぞ!』
こっちへ向かって来る何台も並ぶパトカーから、驚く警官の声が響くけど。
今は警察なんて相手にしている場合じゃないから、翼でそよぐ風で吹き飛ばしてやりたいけど、問題を大きくしてはならないと、敢えて我慢。
この「大天使ルエキラ」様は、些細な事では暴力は振るわない性格だから。
ここは大人しく、やり過ごそう。
アタシはAVをオカズにしている童貞を、この広い東京の街から探し出さないとならないのだから。
だけど、花粉が飛んでいるっぽいから、鼻の奥がむずむずして。
「はっくしょい」
つい、くしゃみをしてしまい、反動で背中の翼が激しく揺れてしまって。
「ヤバ」
大地を吹き飛ばす程の風を起こしてしまい、列になったパトカーを浮き上がらせてしまった。
大惨事になる、ホテル前の通りは、落下するパトカーと下敷きになる乗用車との爆発で大炎上し。
御陰でホテルの客室で死んでいる男女の遺体も当分は発見されないだろうから、天使による殺人も暫くバレないかなと安堵して。
隅田川沿いを飛行しながら、古いアパートの連なる一角に喘ぎ声を聞いた気がした。
微かに聴こえる声でも天使の耳は、それがモテない童貞の喘ぎであると直感するんだ。
「勃ってきちゃった。アタシの乳首……」
ピンと硬く立つアタシの乳首は高性能なアンテナだ。
直ぐ、この近くに、アタシの性感周波数と一致する様な童貞男が居て、AVを観てシコッていると分かれば、その初物を奪うだけだ。
「……いっただっきまぁーすっ!」
急降下にアパートの二階の窓を覗けば、開けっ放しの、その奥に。
パソコンの画面と睨めっこをしつつも、忙しく右手の動いているのを見て取るアタシ。
その握る右手の力強さに、惚れ惚れしてしまい、思わず童貞に抱きついてしまうアタシなのだ。
「はぁはぁ、『れな』ちゃんのおっぱいがあああ! ぼ、僕の顔面にアタックして欲しい……って、うわあああ? あ、あんた、誰えええーっ……?」
「えっへん。こんなに勃起しちゃったチンコ、無駄撃ちするなんて勿体無いよぉ? アタシなら神のマンコでイカせてあげられる……あ、いや、神じゃなかった天使のマンコ……」
だけど、折角の興奮を邪魔してしまった挙句に驚かれたら、アタシも申し訳なくて変な言い間違いをしてしまい、ドギマギしちゃって、ちょっとシラけさせてしまって。
「ぼ、僕は『れな』ちゃんが四つん這いになって後ろから犯されてるところに興奮しちゃっていたんですけど……じゃ、じゃ、じゃ、邪魔しないでくださいますかあああーっ?」
見た目、十七歳くらいの童貞君は、少し太った体型ではあっても、ムスコ君は剥けていて、擦られる反り具合が立派な巨根なのに。
本当、勿体無いくらいに左に曲がっていて、一体、今まで何回も何回もオナニーにシゴかれてきたという事が見て取れて可哀想な程だった。
だから、アタシは先ずはモニター画面に映る「幻想」をブチ壊してあげようと、事実をお伝え申し上げる。
「アンタが贔屓にしている『れな』ちゃん? この子、さっきアタシが殺したわ。スカイタワーから見えたんだ、この子が川縁のホテルの一室で7ケタ動画の撮影に男にケツを突き出してあんあん喘いでいたからさー。速攻、男共々、アタシの鎌で首ちょんぱして殺してやったわー」
画面の中のショートの髪形の女子が、騎乗位で腰を振っている臨場感溢れる映像が、如何に「創られた」偽物であるかって事を分からせてあげなきゃいけない。
「嘘だろ? キミは窓から入って来たかもしれないが……普通の女の子だろう? それが、どうして鎌なんかで? 首? 首ちょんぱって? ふざけてるよ。そんな冗談をね、言われたって、僕の『れな』ちゃんへの想いは決して変わらないんだ……」
でも、童貞君は、白いローブを身に纏い、背には白い翼を持つ、このアタシを本物の「天使」だとは思っていない様で。
抱きついたままのアタシの背中の羽を、特に珍しそうに眺めては、
「良く出来たコスプレだけど、もしかして新手のデリヘル? 押しかけプレイ? く、クーリングオフは出来ますか……?」
度胸が無い事を平気で言うので、アタシは質問に答えるよりも、行動で示した方が早いから。
「天使の言う事が信じられないのならさー、本当は今からホテルに戻って生首持って来てあげてもイイんだけど。そういうグロい事よりも、アンタがアタシを天使だと信じるには、こっちの方がイイでしょ?」
高さ六百三十四メートルの電波塔の天辺から、見下ろす人間界に、生命反応はウジャウジャと有るというのに。 蠢く蟻の様な、無個性、均質的な、この「ニンゲン」という生き物を殖やす事を「神」は、お望みだ。「だけど、この国は『少子化』。笑止ね」 背中の翼が、笑うと揺れる。 背丈はニンゲンの女の子と、ほぼ変わらない一メートル六十三センチ。 視認される恐れはあるけど、どうせ気付かれない筈なのだ。 ニンゲンは世界の本質を知らない。 神は地上を監獄と定めている。 あくせく働いて、寝て、食べて。 それを無限に繰り返すだけの、肉体の囚われ魂に過ぎない囚人達だから。「パパは蟻のジオラマを造りたいと言うけど。脳が過大に発達し過ぎて、ニンゲン達は文明が手に負えないくらいに発展しちゃった。特に、この国は顕著に弊害が出てる。誰もが本能を忘れ、セックスをしなくなりつつある」 スコープで川辺のホテルを拡大すると。 窓の向こうに二匹の動物が居た。 全裸でヤッている男と女か。『あふン……イクっ……イクっ……』『ううッ……出るッ……』 声ばかりが大きい。 ややもすると演技の可能性も有る。 バックで尻を突き出し突かれる女と、しきりに腰を前後する男のシラケた交尾がズームに映し出されると、胸の底から不愉快な怒りが込み上げてくるのだ。「7ケタ動画ってヤツ? アングラでモザイクも無い分、騙しが効かないんだから。もっとリアルな交尾を映し出してあげなきゃ、観ている童貞も性欲を掻き立てられないでしょーがっ!」 これは始末をつけなきゃいけない、と天使に許可された「天罰執行システム」の発動に、アタシは飛び立つ事にした。 風に乗る天使の翼が大きく羽ばたく様に、空中回廊のような電波塔の展望室に驚くニンゲン達の眼差しを感じるけど。 瞬く間に降下したアタシはホテルの窓へと突き進み。 女が手をついてバランスを支える窓に、目が合いそうになるけど、どうせあちらは気付いていない。 朦朧とした意識に、ぼんやりと見つめる世界は、きっと非現実の写真の風景の様に隔絶されているのだろう。 だから、アタシがミリ単位まで接近して初めて驚いた目をしたが、遅い。 勢い飛び込んだアタシがガラスを割れば、十代後半くらいの少女は痙攣する肉体が絶頂の余韻に浸っていたのにも拘らず、本能的に避けないとならないアンビバ







