Partager

第3話

Auteur: 小躍
……立花さんは、外科医だったのか。

窓の外を流れる夜景を眺めながら、胸の奥に言いようのない苦さが込み上げてきた。

では、私は彼に感謝すべきなのだろうか。この「完璧な」夫と引き換えに。

その時、携帯の画面が光った。見知らぬ番号からの画像付きメッセージ。

【蘭さん、ごめんなさい。僕は存在してはいけない人間です。でも京介への依存を止められなくて……】

添付されていたのは、あのお揃いの指輪だった。

寝室のサイドテーブルに静かに並べられた二つの輪。その横には、乱れたシーツが写り込んでいる。

手口はあまりに稚拙だが、効果的だった。

私は携帯を京介に投げ渡し、凍えるような声で告げた。

「どうやら、あなたたちの間の部外者は私みたいね」

京介が一瞬硬直し、視線を落として画面を見た。だが、それでも反射的に口をついて出たのは、晴人を庇う言葉だった。

「彼は精神的に不安定で、思い込みが激しいんだ。真に受けるな」

私は乾いた笑い声を漏らした。怒りを含んだ嘲笑だ。

「わざと鈍感なフリをしてるの?それとも本気で分からないの?私が現場を押さえるまで認めないつもり!?」

京介が低い声で、警告を込めて言った。「俺と彼の間に後ろめたいことは何もない」

私は冷たく笑い、涙声で言った。

「じゃあ教えて。どこまでいったら後ろめたいことになるの!」

車内が静まり返った。京介の瞳には、見たこともない冷たさが宿っていた。

「蘭!お前は矢代家の跡取りだろう。もう少し度量を持てないのか!男相手にそこまでムキになって、いったい何と張り合ってるんだ!」

この瞬間の感情を、どう表現すればいいのか分からなかった。

ただ、心の中の何かが、一瞬にして枯れ果てた気がした。

胸の痛みを堪え、目頭が熱くなる。

「私に度量がない?は……もし本当に私に度量がないなら、あなたがパリ行きの飛行機をチャーターしたその日に、矢代家は彼を社会的に抹殺していたわ!彼の写真がネットで炎上するまで放置なんてしない!

もし本当に度量がないなら、彼が家に入り込んだその夜に、叩き出していたわ!寝室の写真を突きつけられて挑発されるまで我慢なんてしない」

言葉にするたび、事実は棘となって私自身を刺し貫いた。

京介が言葉を失い、私の赤くなった目を見つめた。

「俺は……」

私は顔を背け、窓を開けた。

冷たい夜風が頬を打ち、不甲斐ない涙を隠してくれる。

「私の名前の意味、知ってる?」

私は独り言のように続けた。

「父と母が、私に幸せになってほしいって、『幸福が飛んでくる』という花言葉を持つ蘭にしたの」

深呼吸をして、矢代家の令嬢としての誇りを己に取り戻す。

「だから、もしあなたにとって私が、ただの政略結婚の相手なら、ここで終わりにしましょう」

京介は動揺を隠せずにいた。

彼は身を寄せて私を抱きしめ、嗄れた声で言った。

「すまない、蘭。もう二度としない」

車を降りて別荘に足を踏み入れた途端、晴人がソファから立ち上がり、か弱げに京介を見つめた。

「京介、さっき悪夢を見て、僕……」

しかし今回は、京介はいつものように慰めに行かず、むしろ顔色を曇らせた。

晴人が訝しげに見つめる中、京介は私の携帯を彼に投げつけた。

「謝れ」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Dernier chapitre

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第9話

    時は早く過ぎ、あっという間に子供が一ヶ月を迎えた。彼に「幸希(こうき)」と名付けた。いつでも、幸せに満ちた時を過ごしてほしいという願いを込めて。お食い初めの日、福山家の先代当主、京介の祖父と京介が訪ねてきた。純白の産着に包まれた愛らしい赤子を見て、祖父の目が潤み、私の手を握って謝罪の言葉を繰り返した。京介が私に近づいてきた。彼はまた、あの見慣れた気品ある姿に戻っていた。ただ眉間には、消えない憂いが深く刻まれている。「立花さんを送り出したって聞いたわ」私は彼を見つめたが、もう以前のような激情は湧いてこなかった。京介が視線を落として頷く。「ああ、海外に送った。彼の手は……昔、俺が悪かったからな。生活費は渡すが、それ以上は、俺にはできない」彼の意図が少し分かった気がした。晴人にはあの性根の悪さと、天性の演技力がある。国内に放置すれば、また何を仕出かすか分からない。京介なりの最後のけじめなのだろう。短い沈黙の後、背を向けて立ち去ろうとした。「蘭」京介が呼び止め、精巧な刺繍の施されたお守りを差し出した。「神社で祈祷してもらったものだ。精神を安定させ、安眠効果があり、身体にも良いそうだ」反射的に受け取り、彼に微笑んだ。「ありがとう」私の顔に浮かんだ、一点の曇りもない晴れやかな表情を見て、京介の胸に鋭い痛みが走ったようだった。立っていられないほどの衝撃に、彼はふらりとその場に崩れ落ちそうになった。帰り道、空から細かい雨が降り始めた。けれど私の心は、どこまでも晴れやかだった。……一年後。白井家と矢代家が合併し、国内最大の科学技術医療グループが誕生した。一生との結婚式は、秋に決まった。パリ、セーヌ川のほとり。私は一生の腕を取り、取引先と笑顔で談笑していた。ふと視線を向けると、遠くのイーゼルの傍らで、一人の男が観光客のためにスケッチを描いていた。色褪せたシャツ、痩せこけた体躯、伸び放題の髪、そして風雨に晒され続けたような顔。京介だった。彼も私に気づいたようで、走らせていた筆が止まり、顔を上げた。視線が交錯する。彼の瞳には驚愕、苦痛、後悔が渦巻き、最後には絶望と羞恥の色に染まった。私は静かに視線を逸らした。まるで、取るに足らない他人とすれ違った時

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第8話

    私はそう告げると、血の気の引いた晴人の頬を指先で軽く叩き、踵を返した。屈辱に縫い止められた晴人の視線は、迷うことなく私の後を追う京介の背中に注がれ、嫉妬の炎に焼かれていた。彼は何度も深く息を吸い込み、ようやくその取り乱した呼吸を仮面の下に押し込めたようだった。人間とは、利を追い害を避ける打算の生き物だ。「福山夫人」たる私が明確な拒絶を示せば、風見鶏のような招待客たちは、喜んで石を投げるだろう。晴人を包む「恥辱」という名の炎を、より一層高く燃え上がらせるために。ホールの中央で立ち尽くす彼を、周囲の嘲笑と軽蔑の囁きが包囲する。やがて鋭い刃となって、彼の纏う偽りのプライドを一枚ずつ剥ぎ取っていく。視界の端でその様を捉え、私は心の中で冷ややかに笑った。塀の向こう側、名家の内にある醜悪さと打算に、庶民が耐えられるはずもない。私は彼に骨の髄まで思い知らせてやりたかったのだ。あなたには、ここに立つ資格などないのだと。化粧室へ向かった隙を狙い、堪えきれなくなった晴人が入口で私の行く手を遮った。その血走った両目が、男の激情を雄弁に物語っていた。「どうして、こんな酷い仕打ちができるの!」彼は目を見開き、悔しさを滲ませて叫ぶ。「あんたの何が偉いの?もし僕と同じ境遇なら、あんただって僕に勝てやしない!」金切り声が、化粧室の前の廊下に響き渡る。しかし、彼の非難は、私の目には無力な敗者の遠吠えにしか映らなかった。「残念だったわね。私は名家に生まれ、あなたが一生かかっても手に入らない財産と地位を持っている。それが私の『偉さ』よ。何か不満?」そう言って、ふとあることを思いつき、嘲りの笑みを深めた。「ああ、一つだけあなたに勝てないものがあったわ」晴人が訝しげに眉を寄せる中、私は身を屈めて彼の耳元で囁いた。「非情さにおいては、あなたの万分の一にも及ばない。少なくとも私は、自分のプライドを捨てて、男にすがりつく道具になんかしないもの」晴人の顔から、一気に血の気が引いた。荒い息を吐き、胸が激しく上下している。その無様な姿に、私はもう彼を弄ぶ気さえ失せ、氷のような冷たさで見下ろした。「京介が欲しいなら、止めないわ。好きになさい。でも、もう一度私の前に現れたら、あなたを跡形もなく消してあげる」そう言い捨て、私は

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第7話

    二ヶ月が過ぎたが、婚姻関係はいつまでも解消されないままだった。弁護士によれば、京介が頑なに離婚届へのサインを拒んでいるという。理解できなかった。あの時、あれほどはっきりと伝えたはずなのに。こんな無意味な執着を続けて、一体何になるというのか。翌日、福山家の先代当主の祝宴が開かれた。若輩の身として、こんな状況でも出席せねばならなかった。両家の体面は、やはり保たなければならない。しかし予想外だったのは、その場で再び晴人に遭遇したことだった。彼は血色も良く、高級なオーダースーツを身に纏い、京介に親しげに寄り添って、まるでホスト気取りで客をもてなしていた。私は皮肉な視線を、遠くの京介へ投げた。「蘭」京介は私の視線に気づき、慌てた様子で、晴人が腕に絡めた手を振り払った。「おじいさんが……晴人が可哀想だからと、俺に……」私は眉を上げ、奇妙な笑みを浮かベた。「私には関係ないわ。あなたは自由の身なんだから、誰と親しくしようと説明は不要よ」私は真っ直ぐ彼を見据え、一言一言、言い聞かせるように告げた。「それに、私、妊娠したの」京介が凍りついた。驚愕と疑念が瞳の中で交錯する。「妊娠?そんなはずが……」私たちが最後に肌を重ねたのは、半年も前のことだ。「俺への当てつけで嘘をついてるんだろう?」彼は必死に私の否定を待っていた。まるでそれが、自分に残された最後の救いであるかのように。私は冷ややかに彼を見下ろし、その姿を滑稽に感じた。「こんな下手な嘘をつく必要はないわ。京介、もう私に纏わりつかないで」「せ……せめて今日が終わるまで、待ってくれないか?」彼の声は懇願と媚びにまみれ、震えていた。私は周囲の好奇の視線を感じ、今は騒ぎ立てる時ではないと判断した。京介は安堵の息を漏らした。そして彼の背後で、振り払われた晴人が、歯を食いしばり、握りしめた拳に爪を食い込ませているのが見えた。祝宴が始まり、会場は着飾った客たちで賑わいを見せる。光と影の狭間で、かつて畏怖を抱かせるほど気品に満ちていた男の姿が、ふと重なる気がした。ただ、以前と決定的に違うのは。今の京介は、まるで叱られるのを恐れる子供のように、私から一歩も離れようとしない。そして晴人は、そんな彼から一歩も離れようとしない。

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第6話

    翌朝目を覚ますと、全身がバラバラになりそうな鈍い痛みがあった。「最低……」小声で悪態をつく。「ん?誰が俺を罵ってるんだ?」一生の茶化すような声が浴室から響いた。彼が下半身にバスタオル一枚を巻いて現れる。広い肩と引き締まった腰、濡れた肌を流麗な筋肉の線に沿って水滴が滑り落ちていく。「帰ってなかったの?」少し気まずさを感じて尋ねる。一生が軽やかに笑い、近づいて私の髪をくしゃくしゃに撫でた。「福山グループはもう持ちこたえられない。海外の合弁企業もスイスの財閥に買収された。すぐに破産再編が発表されるだろう」私の顔から笑みが消える。「そう」その時、携帯が鳴った。京介からだった。一瞬迷ったが、結局通話ボタンを押した。「蘭、話をしないか?」京介の声はひどく嗄れていて、かつての冷静で気品ある響きは見る影もなかった。「俺たちの間には……誤解がある」口元に嘲笑が浮かぶ。誤解?だが、確かに話をつけておく必要はある。夕方、京介の車が矢代家の門前に時間通りに停まった。車に乗り込むと、濃いタバコの臭いに眉をひそめた。京介が慌てて窓を開け、臭いを散らそうとする。彼の目は充血し、全身から重い疲労感が滲み出ていた。「離婚したいのか?」私は頷いた。「離婚届にはもうサインしたわ。あなたも早くして。長引かせたくないし、裁判にもしたくない」京介の指先が震えているのが見えた。しばらくして、ようやく苦しそうに口を開く。「俺が間違っていた。晴人のことは……お前は関係ないんだ」私は冷笑した。もう心にさざ波すら立たない。「あの時は、そうは言わなかったわね。でも……もうどうでもいいの」京介の顔が強張り、後悔の色に染まる。「すまなかった……」私は窓の外に目をやった。また雨が降っていた。雨は私と仲がいいみたいね。憂鬱な時、いつも私の代わりに涙を流してくれる。「真相が分かったなら、サインして。私への償いだと思って」京介の顔から血の気が引く。ペンを握ったまま、いつまでもサインできない。私は堪えきれなくなった。「サインしたら弁護士に送って。これで私たちは終わりよ」ドアノブに手をかけると、京介が慌てて私の手首を掴んだ。懇願するような、縋るような声で。「……離婚はしたくない」私は深く

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第5話

    「法務部に連絡。福山京介との離婚協議書を準備しろ、と」少しの間を置き、再び目を開けた時、そこには冷ややかな決意だけが残っていた。「それと、白井一生に連絡してちょうだい。福山グループが持つAI医療特許をすべて譲渡させて。猶予は三日しか与えないわ」一分と経たずに、一生から電話がかかってきた。受話器越しの一生の声には、隠しきれない歓喜が滲んでいた。「ようやく、決心がついたか?」私は目を伏せ、胸の奥で燻る痛みを隠すように答える。「ええ。だから、協力してくれる?」彼は低く喉を鳴らして笑った。あからさまな甘やかしを含んだ声で。「福山夫人ではなく、矢代の令嬢の命令とあらば、断る理由がないだろう?」通話を終え、窓の外に広がる灰色の空を仰ぐ。京介と晴人によって押し潰されていた心の重荷が、軽くなった気がした。サインを済ませた離婚協議書と離婚届を、束縛の象徴だった結婚指輪と共に金庫の奥へと封印する。三年を過ごしたこの別荘も、いざ去るとなれば、さほど未練はなかった。薬指に残った薄い日焼け跡が、あの頃の自分の愚かさを嘲笑っているようだった。「私ならできる」という驕り……その代償はあまりに高すぎた。今の苦しみは全て、無謀と知りながら突き進んだ報いなのだ。実家の本邸に戻ると、両親がリビングで私を待っていた。「蘭、白井家の坊やと組んで、福山グループを攻撃しているというのは本当か?」父が私の肩に手を置き、心配と慈しみに満ちた瞳で見つめてきた。その時初めて気づいた。京介と結婚してから、ずっと実家に帰っていなかったことに。そして私の両親は、叱責するどころか、ただ私が傷ついていないかを案じている。「ええ。離婚することにしたの」私は何でもないことのように告げた。「お父さん、お母さん、心配しないで。一生とはただのビジネスパートナーよ。それ以上の関係はないわ」父が深い溜息をついた。「何があったんだ?」私は視線を伏せた。あんな汚らわしい話を、両親の耳に入れたくはなかった。「何でもないの。ただの、結婚生活がうまくいかなかっただけ」両親が視線を交わし、母がそっと私の手を握りしめる。私は苦笑を浮かべたが、不覚にも目頭が熱くなった。その日から、矢代家と白井家は前例のない猛攻で、福山グループへの全面攻勢を

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第4話

    突然の怒声に、晴人は戸惑いを隠せない。視線を落として画面を確認すると、その目に一瞬、嫉妬の色がよぎった。京介は傍らで冷淡な表情を浮かべる私を見て、苛立ちを募らせた。「蘭は俺の妻だ。今後、誤解を招くようなものは送るな」京介のこれほど厳しい姿を初めて見たのだろう、晴人の目が一気に潤んだ。彼は私に向き直り、涙声で、しかし微かな悔しさを滲ませながら言った。「蘭さん、ごめんなさい。許してください」私は顔を上げ、氷のような視線を向けた。歩み寄り、片手で彼の顎を持ち上げ、そのまま冷然と彼を見下ろした。「私の前でその小細工は通用しないわ。さもなければ、矢代家の地下室に、身の程知らずな人間が何人埋まっているか、教えてあげることになるわよ」突き放された晴人の顔が蒼白になり、今にも倒れそうに揺らいだ。京介が眉をひそめて割って入ったが、それでも彼は晴人を庇う。「もういい。晴人、外に別の住まいを用意する。荷物をまとめてくれ」晴人は信じられないという顔で彼を見つめ、大粒の涙を溢れさせながら、逃げるようにゲストルームへと戻っていった。この三文芝居もようやく幕を下ろすと思っていた。ところが翌晩、京介から電話がかかってきた。声は今までにない動揺に満ちていた。「蘭!晴人がいなくなったんだ!しかも遺書を残して!今、川辺を探してるから、すぐに来てくれ!」川辺に着くと、パトカーの赤色灯が闇を切り裂くように回転していた。京介が一人、規制線の内側に立っていた。頼りなげな背中だった。私を見つけると、血走った目で駆け寄り、骨がきしむほど強く、私の腕を掴んだ。「お前、彼に何を言ったんだ!?どうしてここまで追い詰めた!」怒鳴られて、私は少し呆然とした。その時、警官が証拠品の袋を手に近づいてきた。「福山さん、立花さんのアトリエでこれを見つけました」袋の中には、薬局の処方箋。京介がひったくるように受け取った。内容と署名を確認すると、顔を上げて私を見た。その目には、驚愕と激情があった。「白井家の診療所……蘭、お前が……」彼は私を見つめた。まるで親の仇を見るように、一言一言が私を断罪する。「お前が一生に頼んで、抑鬱を悪化させる薬を処方させて、カルテを偽造させたのか……最初から彼に死んでほしかったんだろう?」私

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第2話

    「蘭!」京介が低い声で私の言葉を遮った。「言葉を慎め。晴人はただの友人だ!」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、傍らの晴人は私の剣幕に怯えたように手を震わせ、持っていた瓶を取り落とした。ガシャン、と硬質な音が響き、テレピン油の瓶が床で砕け散る。刺激臭が、一気に部屋を満たした。手術明けの弱った身体にはあまりに酷な匂いだった。胃が裏返るような吐き気に襲われ、私は激しく咳き込んだ。京介の顔色が一変する。だが、彼は私に一瞥もくれず、真っ先に倒れかけた晴人に駆け寄り、慌てて窓を開け放った。「大丈夫か?気分はどうだ?」晴人を落ち着かせると、ようやく京介は振り返った。私に

  • 夫がゲイで親友と恋仲だった件   第1話

    流産の手術を受けたその日、夫の福山京介(ふくやま きょうすけ)は「親友」の個展のために、プライベートジェットでパリへと発った。翌日、ネット上を席巻したのは、セーヌ川のほとりで唇を重ねる二人の写真。さらにその「親友」は、薬指にペアリングが光る手の写真をSNSに投稿し、気取った一文を添えていた。【真実の愛に、言葉はいらない】抜け目なく、京介のアカウントがタグ付けされている。私は乾いた笑みを漏らした。名門・矢代(やしろ)家の跡取り娘であるこの私、福山蘭(ふくやまらん)が、まさか男の恋人のカモフラージュにされていたとは。上等だわ。けれど、この私を欺いた代償――払いきれると思わな

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status