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第 7 話

Auteur: 江上開花
ちょうど会話を交わしていたその時、病室の外から荒々しい足音とともに、将臣の怒声が響き渡った。「亜夕美!」

病室にいた三人の視線が一斉にドアの方へ向く。次の瞬間、将臣の大きな影が入り口に現れ、廊下から差し込む光をすべて遮った。

「お前、ふざけるのもいい加減にしろ!あんな画像をばらまくなんて……家の恥だぞ!」

彼の怒気はまるで刃物のように亜夕美へ向けられ、まっすぐ亜夕美のもとへと詰め寄った。弁護士が慌てて間に入ろうとする。「辰川社長っ……」

「どけっ!」将臣は片手で弁護士を突き飛ばし、その漆黒の瞳で亜夕美を鋭く射抜く。彼女がまるで凶悪犯罪者のように映っていた。

彼が今にも亜夕美に手を出しそうになるのを見て、旭が身を挺して割って入る。「辰川社長、亜夕美はまだケガしてるんです。医者が脳震盪を起こしてると……」

亜夕美が言葉を遮るように言った。「旭、大丈夫。彼に構わないで」

旭は一瞬躊躇したが、最終的に道を開ける。

将臣は開口一番、怒りをぶつけた。「お前、一体何がしたいんだ?ずっとこんな騒ぎを続けて、それでまともな生活ができるとでも思ってるのか!?」

亜夕美は思わず笑いそうになった。彼女がまともに暮らそうとしていた時、彼は路加と関係を持ったのだ。今になって「普通の生活」を持ち出す権利があると思っているのか?

亜夕美は将臣に構わず、弁護士に向きる。「先生、離婚届を彼に渡してください」

弁護士はカバンから離婚協議書を取り出し将臣に手渡した。彼はそれを乱暴に奪い取り、斜め読みした後、冷笑しながら亜夕美に投げつけた。

「子供のことは一言も触れず、金の話ばかりじゃないか!お前はやり口が汚いんだよ。『お金目当てじゃない』って言ってたくせに、今はどうだよ!?俺の財産の半分をよこせって?どの面下げて言ってんだ!!」

書類の角が亜夕美の首筋をかすめ、薄い血の筋を描きながら、床へと散った。

亜夕美は静かに、まっすぐ、かつて愛した男を見つめた。「それって、私が悪いの?あなたは最初、私を一生大切にすると言ったわよね?」

将臣は亜夕美に詰め寄った。「俺は十分に尽くしただろ!『辰川夫人』って肩書を与えた。数百万の時計も、何十万のバッグも、お前にふさわしいとでも思ってるのか?この身の程知らずが!恩を仇で返すな!」

亜夕美は怒りで身を起こした。「十分尽くした?身の程知らず?将臣、あなたこそよくそんなことが言えるわね!!忘れたの?一年前、路加の罪を被って服役すれば、すべてチャラだって。なら、私にはもう何の借りもないわよね!」

将臣の額には青筋が浮かび、苛立ちを隠せなかった。「もう済んだことだろ!なんでいつまで拘るんだ?路加は体が弱くて、刑務所生活なんて耐えられるわけがない。その点、お前はタフだ。少しくらいの我慢は何てことないだろ?たった一年だったし、今はこうして戻ってきたじゃないか」

将臣の言葉の一つ一つが、亜夕美の心の傷を鋭くえぐった。

「……じゃあ、私が無事に出所したことが罪?刑務所で死ねば満足だった?路加は宝物で、私はゴミなの?!」

「なぜいつも路加と比べるんだ!?お前、自分の出自や素行、分かってるよな?」

「……っ」

――沈黙が広がる。亜夕美の心の中で、怒りも悲しみもすべてが凍りついた。

また一年前と同じ過ちを繰り返してしまった。愛されていない相手に、正論で説得しようとしてしまった。

三年前に路加が海外から戻ってからというもの、二人の間ではこうした口論が絶えなかった。亜夕美は将臣の心を離すまいとするあまり、口論の最後には毎回ヒステリックになってしまった。

それまでは、将臣は冷静な性格の持ち主だと思っていたが、路加のことになると、嫉妬、焦り、動揺する普通の人間だったのだと気付いた。

つまり、彼が心配し動揺する対象は、自分じゃなかったというだけ。

病室は重苦しい静寂に包まれた。

旭は何度も口を開きかけたが、その都度、弁護士に制止された。

沈黙を「やましさ」と誤解した将臣は、恩着せがましく言った。「今日のことで路加はひどく怯えてる。お前が謝りさえすれば済む」

「その話、もういいわ」亜夕美の声は冷たく、固い意志が込められていた。「離婚届にサインして。それ以外の話はしないから」

将臣は怒りで顔を紅潮させ、しばらく言葉が出なかった。

彼には理解できなかった。かつては自分にすべてを捧げてきた女が、どうしてここまで変わってしまったのか。

その視線がふと旭に向き、はたと気づいた。

亜夕美と結婚を決めた時も、亜夕美のマネージャーだったこの男は何度も妨害してきた。亜夕美が出所してから、急に自分に冷たくなったのは久富旭の影響に違いない。

彼は亜夕美を軽蔑した目で見下ろす。「どうやら辰川家夫人の身分が、現実を見えなくさせたようだな。お前が俺を離れてどんな生活になるかみてやる。すぐに泣きついて戻ってくるのがオチだ」

恋人のような至近距離ではあるが、夫婦としての愛情は一片も残っていなかった。

亜夕美は指先で将臣の胸に突き、彼をゆっくりと押しのけた。それは過去にしがみついた自分を、自ら切り離すような動作にみえた。

「そんな日、絶対に来ないわ」

「……いい度胸だ」将臣は胸の奥に怒りの炎を燃やしながら、亜夕美を睨みつけた。

将臣は背を向けて立ち去り、亜夕美のそばを通り過ぎた。その視線はまるで死人を見るかのようだった。

亜夕美は本能的に不快感を覚え、思わず眉をひそめた。

将臣は旭にも鋭い視線を投げつけ、その場を後にした。

エレベーター前まで来ると、将臣の顔は怒りでさらに歪んでいた。待ち構えていた秘書が慌てて駆け寄る。「社長、亜夕美さんは何とおっしゃいましたか?路加さんに関わる写真や動画を全て削除する意向はございますか?」

「……『亜夕美さん』だって?」将臣は冷たい視線で秘書を睨みつけた。「お前、今日が初出勤か?俺が亜夕美はまだ離婚していない。まだ『奥様』だろ!」

秘書は青ざめた顔で謝罪した。「も、申し訳ございません!それで……奥様のご意向は?」

将臣は頭を抱えながら答える。「……久冨旭、あの男の動向を調べてくれ」

「承知しました。それで……写真の件はどういたしましょう?」

「……」将臣は言葉に詰まった。写真のことをすっかり忘れていた。

「俺が考える。まずは久富旭のことを調べろ。1時間以内に報告しろ」

「はい、承知しました」
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