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第435話

Penulis: 一燈月
あの男がどれほど恐ろしいか、小夜は嫌というほど知っている。一瞬たりとも気は抜けなかった。

「そんなに気を張るなって」

圭介は運転席の彰に軽く手を振ると、小夜の手を取ってレストランへ歩き出した。声は穏やかだった。

「言っただろう、全部こっちで整えてあると」

「私には何も教えてくれないのに、心配するなって言われても無理よ」

小夜は眉をきつく寄せた。

「もうここまで来てるのに」

「大丈夫だ」

圭介は笑った。

「この先何が起きるにしても、飯くらい食うだろ? ちゃんと予約してある」

「……」

まあ、たしかに、食事は大事だ。

噴水が一望できる席に通され、注文を済ませた後、圭介の話でようやく知った。

このレストランは、イタリアが誇る本物の美食の殿堂らしい。ローマで一番うまい店と名高く、完全予約制だという。

料理を待っている間に、スタッフが細身のクリスタルの花瓶を運んできた。露に濡れたような瑞々しい薔薇が一輪、小夜の傍らにそっと置かれる。

一瞬きょとんとして周りを見回すと、どのテーブルにも同じように薔薇が飾られていた。この店の流儀なのだろうと、気にしないことにした。

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    「分かった。引き続き監視しろ」圭介は微かに笑い、手にしていた飲みかけのワイングラスをドンと重々しくテーブルに置いた。グラスの中で鮮やかな深紅の液体が波打ち、まるで血のように赤く輝いた。「奴の方から、必ず動いてくるはずだ」……すべてに問題がないことを確認すると、圭介は寝室へと戻った。ベッドで布団にくるまり、横向きになって身じろぎひとつせず眠っている小夜の姿を一瞥する。圭介の顔には、自然と安堵の笑みが浮かんだ。軽くシャワーを浴びた後、彼も布団に潜り込み、そっと彼女を腕の中に抱き寄せ、その肩に顎を乗せて静かに目を閉じた。彼の呼吸は、すぐに穏やかな寝息へと変わった。腕の中で熟睡しているように見えた小夜が、その時、ゆっくりと目を開けた。彼女の瞳の奥には冷たい嵐が吹き荒れ、骨の髄まで凍りつくような冷ややかな光が宿っていた。先ほどドア越しに耳にした会話を思い返す。標的?どうりで、頑なに計画の内容を教えてくれなかったわけだ。こんな考えを持っていたなら、当然だろう……自分を囮にするつもりだったのだ。計画を知れば、自分が拒絶するとでも思ったのか。けれど、一体何のため?コルシオをおびき寄せるためだろうか?本当にそんなことができるのか?自分がコルシオにとって、そこまで価値のある存在だとは思えなかった。だが、もしそのためでないとしたら、一体何のために?先ほど二人が交わした会話では、計画の詳細は語られていなかった。ただ分かったのは。自分がこの計画において重要な役割を担っているということ。しかし同時に、大して重要でもないということだ。何しろ、危険の渦の中心に放り込まれる囮だ。一歩間違えれば、命を落とすことだってある……相手は冷酷非道なコルシオなのだ。あの恐ろしい男のことを思い出すと、小夜の左手の手のひらや肩の、まだ完全には癒えていない傷口が疼いた。あの古城での悪夢のような日々を、彼女は忘れることができない。心の奥底にこびりついた暗い影。自分はきっと、計画のただの犠牲品に過ぎないのだ。そもそも、いつの時代も、囮として使われて無事で済んだ試しなどあるだろうか?ふっ。最近、この身勝手な男が急に機嫌を取るようにあれこれと尽くしてくれた理由も、ようやく理解できた……心のどこかで罪悪感を覚え、少しでも罪滅ぼし

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    あの男がどれほど恐ろしいか、小夜は嫌というほど知っている。一瞬たりとも気は抜けなかった。「そんなに気を張るなって」圭介は運転席の彰に軽く手を振ると、小夜の手を取ってレストランへ歩き出した。声は穏やかだった。「言っただろう、全部こっちで整えてあると」「私には何も教えてくれないのに、心配するなって言われても無理よ」小夜は眉をきつく寄せた。「もうここまで来てるのに」「大丈夫だ」圭介は笑った。「この先何が起きるにしても、飯くらい食うだろ? ちゃんと予約してある」「……」まあ、たしかに、食事は大事だ。噴水が一望できる席に通され、注文を済ませた後、圭介の話でようやく知った。このレストランは、イタリアが誇る本物の美食の殿堂らしい。ローマで一番うまい店と名高く、完全予約制だという。料理を待っている間に、スタッフが細身のクリスタルの花瓶を運んできた。露に濡れたような瑞々しい薔薇が一輪、小夜の傍らにそっと置かれる。一瞬きょとんとして周りを見回すと、どのテーブルにも同じように薔薇が飾られていた。この店の流儀なのだろうと、気にしないことにした。窓の外の噴水をぼんやり眺めていると、いつの間にかステージに楽団が上がっていた。ゆるやかな前奏が始まる。澄んだ弦の音色が空気を震わせ、水のように柔らかく彼女の意識に染み込んでくる。知らず知らずのうちに寄っていた眉間がほどけ、胸の奥にわだかまっていた焦燥が、少しずつ溶けていった。気持ちが、ほんの少し凪いでいく。小夜が音楽に聴き入っていると、隣からそっと声がかかった。「腹、減ってないのか」目の前には、薄くスライスされたレモン風味の牛フィレ肉が置かれていた。小夜は唇を引き結び、圭介を無視してナイフとフォークを手に取った。一切れ口に運ぶ。じっくり火の通った牛肉が舌の上でほろりとほどけ、レモンの清涼な香りがふわりと広がる。さっぱりとして、しつこさがない。――おいしい。だが数口で、手を止めた。隣の圭介が軽く眉を上げたが、何も言わず、残りをさらりと片づけた。その後の料理も、同じことの繰り返しだった。品数は豊富で、食材はどれも馴染みのあるものだが、組み合わせや調理法に工夫が凝らされていた。一皿の量は少なく、繊細な仕上がり。ただ小夜は食が進まず、どの皿もほんの数口

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