Se connecter◇ 取引先の創立記念パーティー当日。 その日、樹と裕衣は時間ギリギリに会場にやって来ていた。 ホテルの大ホールを貸し切って催される大きなパーティーだ。 招待客が多く、玉櫛ホールディングスの社長である樹が姿を見せると、沢山の人が挨拶に訪れる。 愛想笑いを浮かべ、そつなくこなしていた樹だったが、ふと隣に立つ裕衣に違和感を覚えちらりと視線を向けた。 すると、裕衣は心ここに在らず、といった様子で挨拶にやってくる人達に言葉を返している。 その裕衣の様子に苛立ちを覚えた樹は、真面目に仕事をしろ、と一言言ってやろうとした。 だが、その時に会場に入って来た人物を見て、話そうとした言葉が固まる。 「──なんで、」 自分の夫が驚いた様子で別の方向を向き、唖然としている──。 その事に気がついた裕衣は、自らもそちらへ顔を向けた。 そして、樹同様、驚いた。 パーティー会場に現れたのは、伏見と音羽だったのだ。 「──何で、あの女が……」 裕衣の表情は忌々しいとでも言うように歪められた。 ◇ 「伏見さん……!」 ざわざわ、と人の沢山の人の話し声が聞こえる中、伏見の名前を呼ぶ声が聞こえた。 遠くからやって来るのは、翔の父親である波多野だ。 波多野夫妻が揃って音羽と伏見の所へやって来た。 音羽はびっくりして伏見に視線を向ける。 まさか、伏見が自ら自分の素性を明かしているとは思わなかったのだ。 「蓮夜、自分の本当の苗字を名乗ったのですか?」 「ああ。あの日、表の名刺を渡してある。もう隠す必要は無いだろう?」 あっけらかんと話す伏見に音羽が呆れていると、波多野夫婦がやって来た。 「このパーティーでお会い出来るとは……!」 「ええ、私たちも驚きました。波多野さんも繋がりがあったのですね」 伏見と波多野が話している間、音羽と波多野の妻が和やかに会話をする。 「恭くんは元気ですか?」 波多野の妻の言葉に、音羽は困ったように眉を下げた。 「実は今、蓮夜──夫の実家に泊まっていて、恭ちゃんとはあれ以来会えていないんです」 音羽が寂しそうにそう答えると、波多野の妻は「まあ」と気遣うように口を手で覆った。 「それは寂しいですね……。一刻も早く一緒に住めるようになればいいですね」 「ええ、本当に」 「それとは別に──」 波多野の妻が、ちらりと
◇ 「創立記念パーティー?」 「はい、社長。今週末、取引先の──」 リビングで秘書からスケジュールを聞いていた樹は、告げられた会社名に「ああ」と頷いた。 「もうそんな時期か。面倒だがその会社とは昔からの付き合いだ。参加するしかないな」 はあ、と溜息を零した樹はちらりと寝室に視線を向ける。 「裕衣はまだ寝ているのか」 「そのようです」 「先に会社に行くぞ。待っていられない」 「かしこまりました、社長」 リビングから足早に出て行く樹は、外に出たところで不意に足を止めた。 樹の視線の先には、今まさにこれから保育園に行こうとしている息子の恭と、運転手飯野の姿があったのだ。 「──ちっ、面倒だな」 きっと恭が駆け寄って来て、うるさく話しかけてくるだろう。 そう思った樹だったが、思っていた反応と真逆だった。 恭と飯野は樹に気がついたものの、車の方に行く。 飯野がドアを開けると、恭はそのまま車に乗り込んだ。 流石に自分の雇用主を無視は出来ない。 飯野は笑みを貼り付けると、樹に向かって頭を下げた。 「旦那様、坊っちゃまを園にお送りいたします」 「あ、ああ──……」 では、と言って飯野が車に乗り込む。 その間、恭が樹に視線を向ける事は1度もなく、樹は唖然とその場に立ち尽くした。 今までであれば、顔を合わせた恭にうざったいくらいに話しかけられていたのに。 それなのに、今日は視線1つこちらに寄越さなかった。 「──生意気な」 ぼそり、と呟いた樹に、秘書は不思議そうに顔を向ける。 「社長、どうしましたか?」 「……いや、なんでもない。それより早く会社へ」 「かしこまりました」 頭を下げる秘書。 樹はそのまま車に乗りこみ、秘書が運転席に乗り込む。 車を運転する男性秘書の後頭部を見ながら、樹は自分の家にある寝室の方向へ顔を向けた。 ここ最近、裕衣の様子がおかしい。 今までは裕衣は四六時中樹にべったりだった。 それなのに、ここ最近──数週間前から何かこそこそとしているようだった。 だが、裕衣がこそこそする理由も、何をしているかも特に調べようとはしなかった。 一緒に会社に行き、帰ってくる生活は変わらなかったからだ。 だが、この数日裕衣は朝起きてこない。 そして、会社も一緒には行かない。 「……秘書としての仕事すら全
「え……、脅、迫……?」 そんな物騒なワードが突然飛び出てきて、音羽は目を瞬かせる。 一体どう言う事──。 疑問を抱いた音羽にも分かるように、伏見は分かりやすく説明してくれた。 「……元々、玉櫛の2人にはうちの組から見張りを付けている。……そうしたら先日、玉櫛 裕衣が会社の駐車場で誰かと会ったのを確認した。距離が遠かったため、確実とは言えないが、玉櫛 裕衣が会っていたのは伏見組の敵対組織、不動組の構成員だと思われる」 「不動、組……」 「ああ」 こくり、と頷く伏見。 音羽も不動組の事は知っていた。 以前はこちら側の世界など、何も知らなかっただろう。 だが、伏見と一緒になると決めてから少しずつ伏見はこの世界の事を音羽に教えてくれていた。 伏見組の傘下組織や、逆に敵対している組織。 その説明の中で、不動組の名前は敵対組織の中に確かにあった。 音羽は伏見に教えてもらった内容を思い出しながら、言葉を紡ぐ。 「確か不動組って……伏見組と違ってかなり過激な事をする組織だって……。麻薬や人身売買、それ以外にも色々と手広くやっているって……」 かなり危険な組だ、と伏見から言われた記憶が音羽にはあった。 不動組は、伏見組とは違い一般人にも手を出す。 そして、一般人をまるで使い捨ての駒のように擦り切れるまで使い、そして使えなくなったら「消して」しまう過激な組織だと聞いた。 「……あいつらに脅迫されているってんなら、玉櫛 裕衣も擦り切れるまで使われるだろうが……だが、それを待っていたら時間がかかる。……財閥に嫁いだんだ。財力はあるだろう?」 伏見の言葉に音羽ははっとする。 確かに、あれだけの大企業の社長を夫に持っている裕衣には、多少なりとも大金を動かす権利は持っているだろう。 伏見の言葉に、音羽は頷いた。 「確かに……。お金を無心されて潰れるのにはかなり時間がかかりそうです。……それに、玉櫛 樹が裕衣を助けるために動いたら、もっと時間がかかっちゃう……」 そんなの、待っている暇は無い。 伏見は口端を持ち上げ、口を開く。 「ああ。だから、自滅させる。あの大企業、玉櫛ホールディングスが反社会勢力と繋がっていると世間に知らしめる。その程度だったら十分操作は出来る。……今度、玉櫛ホールディングスが招待されているパーティーがある。そこに潜り込ん
まだきっと頭がぼんやりしているからだろう。 音羽は伏見に請われるまま、口移しで水を飲ませていた。 伏見が「もう少しくれ」と言えば音羽は「しょうがないですね」と困ったように笑い、グラスに入った水を含み、口移しで飲ませてくれる。 もういい?と聞いてくる音羽に、伏見はこれ以上するとまた音羽に手を出してしまいそうだ、と苦笑して「十分だ、ありがとう」と答えた。 隣に座った音羽の手を取り、伏見は椅子から立ち上がる。 寝室にある布団はもう片した。 色濃い情事の空気は既に残っていない。 自分の頭ももう十分冷えた。 そう考えた伏見は、音羽を伴い寝室に戻る。 「音羽、ここに座ってくれ」 「蓮夜の膝に?」 「ああ。大事な話がある。……恭の事について、だ」 座椅子に腰を下ろした伏見が膝をぽんぽんと叩き、座るように音羽を促す。 先程より大分意識がしっかりしてきた音羽は、恥ずかしさに躊躇ったが、次に伏見の口から出て来た「恭」と言う名前を聞いて真剣な表情になる。 「分かりました。恭ちゃんの事ですか?」 「ああ」 さっ、と自分の膝の上に座った音羽。 その音羽を背後からぎゅっと抱きしめつつ、伏見はどう切り出そうか、と悩んだ。 「……今回キャンプに一緒に行った家族」 不意に、伏見が低い声で話し出す。 音羽はこくりと頷きながら答えた。 「波多野さんと近藤さん?そのご家族がどうしましたか?」 「……翔の父親も、光希の父親も俺たちの味方をしてくれるらしい」 「──えっ!?」 色々な説明をすっ飛ばし、いきなり結論から語り出した伏見に音羽は驚きの声を上げる。 翔と光希の母親と、音羽は話していた。 その話した内容から何となくこちら側に着いてくれたのでは、と言う雰囲気は感じていたが。 まさか、伏見達もそんな話をしていたとは、と音羽は目を丸くして振り返った。 「……食材を用意している時と、川で遊んでいる時に翔の父親──波多野と話した。自分たちにはまだそこまで影響力は無いが、玉櫛には色々と思う事があるそうだ。……音羽について流れている噂を、広げるのを手助けしてくれるらしい」 「──なら!」 伏見の表情を見て、音羽の顔が明るくなる。 もしかしたら、正攻法で樹や裕衣から恭を引き取れるかもしれない。 今までは、それが難しいかも、と思っていた音羽だったが、知り
あれから、少し。 名残惜しそうに音羽の中から去って行く伏見に、音羽は小さく声を漏らす。 疲労感が凄まじく、手も足もぴくりとも動かず事が出来ない音羽に、伏見は申し訳なさそうな顔でゆっくりと音羽を抱き起こした。 「……悪い、ぐちゃぐちゃだな。風呂に入ろう」 「うぅ……蓮夜の馬鹿……」 「いくらでも罵ってくれ」 音羽を抱き上げた伏見は、そのまま風呂場に向かい、2人で一緒に風呂に入る。 流石に伏見も、そこではぐったりしている音羽に手を出すような事はしなかった。 汗や、それ以外のものでぐちゃぐちゃになってしまった体を綺麗に洗う。 一緒に湯船に浸かり、お風呂から上がると甲斐甲斐しく伏見が音羽の濡れた体を拭いてくれた。 「音羽」 「……ん」 ダルくて体を動かす事が億劫な音羽に服を全て着せた伏見は、そこでようやく自分の髪の毛を軽く拭い、体をさっと拭くと服を着た。 「飲み物を用意するからそこで座って待っててくれ」 「……ん」 こくり、と頷いた音羽をキッチンの椅子に座らせ、伏見は冷蔵庫から取り出した水をグラスに入れて音羽に渡す。 こくこく、とグラスの中身を飲む音羽を見てから伏見は音羽の頭を撫でてから寝室に戻って行った。 掃除や洗濯は組の人間がやる。 この離れの掃除と洗濯は、若い組員。それも、男だ。 流石に自分以外の男に、色々と致した布団のシーツには触れさせたくない。 伏見は急いで布団からシーツを剥がすと、丸めて洗濯機の中に放り込む。 そして洗濯機をピッと動かしてから、椅子に座っている音羽の所へ戻った。 「──体は?大丈夫か?」 ガタン、と椅子を引いて音羽の隣に座る。 グラスを持ってぼんやりとしていた音羽が、伏見の声に反応して顔を向けた。 「ん、大丈夫です。でも、朝から疲れちゃいました……」 「……悪い、我慢できなかった」 こてん、と頭を預けてくる可愛らしい仕草を見せる音羽に、伏見は自分の頬が緩んでくるのが分かる。 音羽の頭を優しく撫でながらぼんやりとしている音羽を見つめていると、自分も喉が乾いたと思い、音羽が持っているグラスを見る。 中にはまだ水が残っているのが見えて、伏見は声をかけた。 「音羽、俺にも水をくれ」 「……ん、分かりました」 こくん、と頷いた音羽は持っていたグラスを伏見に渡すでもなく、自分の口に運ぶ。
「ん!?んうぅ〜っ!」 伏見に噛み付くようにキスをされ、音羽は目を見開く。 伏見の激しいキスに翻弄されている内に、あっさりと履いていたパジャマのズボンは脱がされ、濡れそぼった音羽のそこに伏見の長く男らしい指が伸びる。 「──んぅっ!」 伏見の指が動く度、音羽の体はビクビクと跳ねる。 「──はっ、十分濡れてるな」 唇を離し、鼻先同士を擦りつつ内緒話をするように声を落として伏見が言う。 その事実がとても恥ずかしくて恥ずかしくて。 音羽は自分の顔を両手で覆った。 「見ないでっ」 「それは無理だ。ほら、照れてる顔を見せてくれよ」 揶揄うような上機嫌な伏見の声音。 強引ではないが、それでも顔を覆っていた手を掴まれ、ゆっくりと手をどかされる。 「──うぅ〜っ」 「ははっ、真っ赤だな。茹で蛸みたいだ」 音羽の顔を見た瞬間、伏見が破顔する。 心の底から幸せそうに笑う伏見に、音羽は恨めしそうにじとっとした目を向けた。 伏見はにっと口端を持ち上げると、動きを止めていた指を再び動かし出す。 「あっ!やっ、蓮夜……っ」 「ほら、こっちに集中しろ音羽」 「まっ、待って待って、イ……っ」 びくっ、と音羽の体が再び大きく跳ねて痙攣する。 突然暴力的なまでの激しい快感が体中を駆け巡り、音羽の目の前は真っ白になった。 パチパチ、と星が弾けるような感覚に、音羽がはくはくと口を動かしていると、そのまま伏見に優しくキスを落とされる。 先程の激しさなんて全くなく、優しいキスに音羽がうっとりとしていると、両足を開かれ、ぐっと腰を引き寄せられた。 (──え?) と思った時には遅く、一息で硬度を持ったものが最奥にごちゅん、と突き刺さった。 「──っ!?」 「……あぁ、気持ちい……」 かはっ、と声にならない声が出る。 音羽が突然訪れた強烈な快感に体を震わせていると、耳元で伏見の低く濡れた声が聞こえた。 そのまま音羽の耳をかぷり、と噛んだ伏見は最初から激しく腰を打ち付けてくる。 「ぅあっ、やっ!」 「……少しペースを早める。ゆっくり抱きたいが……、……っ、──母屋の連中が、起きる……っ」 言葉に詰まりながら伏見に言われ、再びかぷり、と唇が塞がれる。 音羽の嬌声を1つも外に漏らさない、と言うように伏見の腰使いが激しくなるとキスも激しく、深くなって