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第2話

Auteur: リッチなペキ
美希は、これまで多くの人に、「役立たずの寄生虫だ」と罵られてきた。

夫である翔太も、その一人だった。

かつて、今井家は経営危機に陥り、多額の借金を抱えた。ちょうどその時、恋人だった陽菜は翔太を見捨てて海外へ渡ってしまったのだ。その隙を見て、美希は実家である小林家の財力と権力を使い、半ば強引に翔太と結婚したのだ。

結婚したその日、翔太はそんな美希を指さし、「家の権力を振りかざして人を脅すことしか能がない女」と罵った。

美希は今でもはっきり覚えている。翔太は彼女の手を振り払い、冷たい目で見下しながらこう言い放った。「調子に乗るなよ。小林家が落ちぶれたら、お前は誰かに寄生して生きていくしかなくなるんだろ?」と。

まさか、その言葉が現実になるなんて。

3年後、小林家は倒産した。

美希の人生は、一夜にしてどん底へ突き落とされた。

実家を救うために必死で策を練ったけれど、何もかもなくなってしまった美希には、コンドームに穴を開けるという卑劣な手段しか思いつかなかった。

そして、思惑通りに身ごもった子供を盾に取り、翔太に小林グループへの支援を約束させた。

このことを両親に報告しようとした、その矢先だった。美希の目の前で、世界で一番彼女を愛してくれた二人は、ビルの屋上から身を投げた。

足首に飛び散った生温い血の感触は、美希を絶望させるには十分すぎた。

その後、美希は重度のうつ病を患った。

しかし、薬を飲むことはできなかった。

お腹には、まだ赤ちゃんがいるからだ。

今の美希には、この子が無事に産まれることを祈るしかなかった。

この子がいなければ、翔太はきっと自分を捨ててしまう。

それからの十月十日、美希は薬を飲まずに、必死に耐え抜いた。そして、翔太のために息子の真司を産んだ。

しかし、彼女は思ってもみなかった。命がけで産んだ我が子が、言葉を覚えて彼女に向かって放った第一声が「ママは寄生虫」だなんて。

そしてちょうどその頃に、陽菜が海外から帰国した。

翔太は、もはや美希のことがどうでもよくなってしまった。

ついに真司という存在が、彼女の全てとなってしまった。

だから、美希は真司のわがままは何でも聞いてあげて、必死に愛情を注いだ。この子が、この世界で彼女を愛す最後の一人になってくれることを、密かに期待していた。

しかし、月日が流れ、彼女を待っていたのは、雪山での遭難だった。24時間、翔太と真司と連絡が取れないまま待ち続け、寒さで倒れる直前に通りかかった親切な人に病院へ運んでもらった。

なんとか一命を取り留めた後、医者から自分が末期がんだと知らされても、涙は一滴も出なかった。ただ、病院直系の研究所からの臨床実験への参加依頼を、静かに受け入れた。

夫も、息子も、愛しているのは陽菜だけだと。ようやく、その事実に気づいてしまったからだ。

だから、いっそ自分の方から二人を捨てることにした。

美希はスマホを握る手を、少しだけ緩めた。

思い出すだけで胸が苦しくなる記憶も、死を前にすると、不思議とそれほど辛くないように感じられた。

だから、研究員に「こんなに重要なことを、ご家族に伝えなくて本当に大丈夫なんですか?」と聞かれた時も、美希はきっぱりと断った。

「もう、家族と呼べるような人はいませんから」

美希は研究所に行くまでの間、黙々と身の回りを片付け始めた。

末期がんの体にとって、昔の持ち物のほとんどは、もう必要のないものだった。

例えば、何日も徹夜して翔太のために編んだマフラー。心を込めて書いたたくさんのラブレター。それから、翔太と真司のために、長い階段を必死にのぼって手に入れたお守り……

美希はそれらを一つひとつ丁寧に仕分け、ゴミ箱に捨てたり、慈善団体に寄付したりした。

そして、寝室には壁にかけられたウェディングフォトだけが残った。

美希が苦労しながら一人でその大きな額を壁から外そうとしているのを見て、使用人たちがひそひそと話し始めた。「奥様、また何かが不満なのかしら?」

「きっと、また旦那様と喧嘩したんでしょう。だからわざとウェディングフォトを壊して、気を引こうとしているんですね」

「また壊すのですか?どうせ後から、泣きながら誰かに頼んで直してもらうくせに。旦那様は自分のことが好きだから、何でも許してくれると勘違いしているのでしょうね」

勘違い、ね。

翔太は美希のことが好きじゃないなんて、誰もが知っている。ましてや、甘やかしてくれるわけがない。

前に喧嘩した時も、自分はウェディングフォトを床に叩きつけた。すると翔太は、写真スタジオに連絡して写真のデータを完全に消去させた。

結局は、美希が写真スタジオの店長の前で泣きながら土下座して、ようやく修復してもらったのだ。そしてその時、「データはもうありませんから、これが最後です。次にまた壊れたら、もう元には戻せませんよ」と、はっきり言われた。

まるで宝物を手にしたように、そのウェディングフォトを大切に抱えて家に帰った。

毎日ベッドの上で眺めて、埃が少しついただけで騒ぎ立てた。

なのに今、自らそれを壁から取り外し、額を叩き壊して、中の写真を取り出した。そして、何の未練もなく、炎の灯る暖炉の中へと投げいれた。

使用人たちが悲鳴を上げた。「奥様!それを燃やしてしまったら、もう二度と元には戻りませんよ!」

「何が二度と元に戻らないんだ?」

ドアのそばに、眉をひそめた翔太が、すっと立っていた。
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