LOGINタイラー病院に到着するやいなや、私はソフィアをすぐさま抱きかかえて中に駆け込んだ。大声で助けを求めながら、救急外来のドアをぶち破らんばかりの勢いで突入した。「救急だ! 誰か彼女を診てくれ!」スタッフに向かって叫んだ。二人の看護師がすぐにストレッチャーを押して駆け寄ってきた。彼女たちは私の腕から注意深くソフィアを引き取ると、一般病棟へと運んでいった。担当医が近づき、すぐさま彼女の瞳孔と脈拍を確認した。「彼女に一体何があったのですか?」看護師たちがソフィアの手の傷口を清拭し始める中、医師が尋ねてきた。「薬を盛られたんだ。目が覚めない。頼む、どうにかしてくれ」私は必死に冷静さを保とうと努めながら、直球で答えた。看護師たちは素早く点滴を設置し、血液サンプルの採取に取りかかった。私はただ脇に立ち、彼女たちが治療を施す様子を見守ることしかできなかった。しばらくして、医師が再び私の方へと向き直った。「命に別状のあるような重篤な問題は見当たりませんよ。飲み物に混入された睡眠薬の効き目が強すぎたため、まだ意識が戻っていないだけです。体内から薬物を排出させるための拮抗薬を投与いたしました」医師はソフィアの点滴にさらに追加の薬剤を注入した。「間もなく目を覚ますはずです。手からの出血を間一髪で止められ、適切に傷口を洗浄できたのが幸いでした」私は大きく深呼吸をし、彼女のベッドの脇に腰掛けた。ソフィアの蒼白な顔を見つめる。今夜、自分の企みのせいで彼女を永遠に失うところだったのだ。二度とこのような真似はさせないと、心の中で固く誓った。静かに背後に立つアクセルの気配を感じた。ソフィアから視線を外さぬまま、私は横顔だけで彼に指示を出した。「あのクソジジイのヴィラフロールを逃がすな。明日、直接顔を拝ませろ。絶対に高飛びさせるなよ」私は冷徹に命じた。アクセルは真面目な面持ちで頷いた。「了解いたしました。駐車場で待機して目を光らせておきます。何かありましたらいつでもお呼びください」そう言い残すと、彼は静かに部屋をあとにした。二人きりになると、私はソフィアの怪我をしていない方の手を優しく取り、自分の唇へと引き寄せた。胸の奥で燃えさかる激しい怒りを必死に抑え込みながら、彼女の指関節にそっとキスを落とした。私の唇から、重い溜息が漏れた。彼女の白い顔を見つめ、低い声で囁いた。「すま
タイラーお気に入りのコロンをたっぷりと吹きつけてから、私は自分の部屋をあとにした。階段を下りていくと、マナンが満面の笑みでさっそく私を出迎えてくれた。「まあ、タイラー様ったらハンサム! 今日はめずらしくおめかしして、どうされたんですか? ソフィアちゃんとのデート? さっきアクセルが彼女をこの邸宅に連れてくるのを見ましたよ」年老いた使用人は矢継ぎ早にそう言い放った。「仕事関係だよ、マナン」私は会話をできるだけ短く切り上げようと、真面目なトーンで返した。だが、マナンは引き下がろうとしなかった。私の脇腹を軽く突くと、上品にクスクスと笑った。「だからそんなにコロンを浴びるようにつけてるのかい。相変わらずだねえ、タイラー様は。昔からちっとも変わっちゃいない」私は相手にするのをやめ、これ以上の冷かしを避けるためにさっさと別れを告げた。「出かけてくるよ、マナン。今夜は俺の帰りを待たなくていいから」車に乗り込み、カジノ・グランドへと直行した。メインのゲーミングフロアに足を踏み入れるやいなや、アクセルの姿を探した。ほどなくして、彼はすぐ隣に現れた。「ソフィアはどこだ?」私は即座に尋ねた。アクセルは前方にあるテーブルを指し示した。その周囲には、何人もの野次馬が人垣を作っていた。人だかりを凝視しながら、私は眉をひそめた。「彼女があそこで何をしている?」私は再び尋ねると、そのテーブルの方へと歩き出した。ようやくソフィアの姿を捉えたとき、私は内心驚いた。彼女は男たちのグループに混じり、真剣な面持ちでポーカーに興じていた。白いドレス姿の彼女は息をのむほど美しかったけれど、そんな彼女が他の男たちに取り囲まれているのを見るだけで、私の顎の筋肉が怒りで硬くこわばった。アクセルが私の肩を軽く叩き、ラモン・ヴィラフロールが到着したと耳打ちしてきた。その報告を受けて初めて、ソフィアがなぜ大勢の観客の前であえてギャンブルなんてしているのか、その意図が徐々に理解できた。彼女の手にはなかなかいいカードが握られている。明らかに、ラモン・ヴィラフロールの注意を惹きつけようと必死だったのだ。私はスーツの襟を正すと、老人を通すために素早く脇へと身をかわした。彼に私の存在を見咎められ、ソフィアの計画を台無しにしたくなかったからだ。「上に行ってくる。彼女の動きから目を離すなよ」アクセルにそう言
「お嬢さん、名前は何て言うんだい?」ヴィラフロール氏は私から目を離さず、穏やかな笑みを浮かべて尋ねた。私はすぐに立ち上がり、しっかりとした挨拶を交わしながら彼と握手をかわした。「ソフィア・アラゴンと申します、お客様」と恭しく答える。ヴィラフロール氏は微笑みながら私の手を優しく握り締めてから放した。「ラモン・ヴィラフロールだ。ここで君を見かけたのは初めてだな」私は頷き、いかにも疲弊しきっているかのような演技をしてみせた。「ただ息抜きをしたくて、お客様。最近、上司にこき使われて本当に参っているんです」私のその答えに、ヴィラフロール氏は大声で笑い、その顔には好奇の色が浮かんでいた。「一体どんな仕事をしているんだい? そんなに君を追い詰めるなんてね」「私はサンティバニェス・グループのタイラー・サンティバニェス様の秘書として働いておりますの」私は直球で答えた。「彼の下で働くのがこんなにも過酷だなんて、思ってもみませんでした」その社名を聞いた瞬間、ヴィラフロール氏の目が細められ、表情が一変した。「タイラー・サンティバニェスか。相変わらずだな。社員の生活をめちゃくちゃにすることで有名な男だからね」彼は私を頭からつま先まで品定めするようにジロジロと見下ろしてから、再び口を開いた。「私のVIPルームに君を招待したいんだがね。君のボスについても含めて、二人でゆっくり話したいことが山ほどあるんだよ」私は満足感を隠すため、とびきり甘い微笑みを浮かべて見せた。「ご招待いただけるなんて光栄ですわ、ヴィラフロール様」ヴィラフロール氏はVIPエリアの方へ私を誘導するように手招きした。メインのゲーミングフロアを離れる際、私はふと一角に佇むアクセルの姿を捉えた。一般の客に見えるよう、彼の膝の上には一人の女性が座っていたけれど、彼が周囲に目を光らせて監視しているのは私には分かっていた。私は彼に向けてさりげなく唇を尖らせ、タイラーがどこにいるのか知らせてほしいと合図を送った。アクセルはすぐに上の階へと視線を走らせた。私はヴィラフロール氏の後に続き、階段を上がってエレベーターへと向かった。扉が開くと、そこにはVIP専用に確保された贅沢なスイートルームが広がっていた。「さあ、座りなさい、ソフィア。アテンダントを呼んで飲み物を持ってこさせるからね」ヴィラフロール氏は豪華なソファを指差して
カジノに到着したとき、時刻はちょうど夜の8時だった。ヴィラフロール氏がまだ到着していないことは分かっていたので、私はまず身なりを整えるためにパウダールームへと直行した。しかし、鏡の前にすら辿り着く前に、微かな嬌声が耳に飛び込んできて足が止まった。「ふふっ……ああっ!」その声は個室トイレの一つから響いており、次第に大きくなっていった。多すぎるほどのチークで頬を赤らめた別の女性が足早に入ってくると、物音のする個室をチラリと一瞥したものの、まるでこの場所では日常茶飯事であるかのようにすぐに視線を逸らし、手早くメイクを直すとそそくさと出て行った。私一人きりになると、個室の中から再びあの声が聞こえてきた。「マリエル……ずっと会いたかったよ」男の声だった。「やっと抜け出せたのよ。ああっ、そこ気持ちいい!」その女の声を聞いた瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。マリエルだった。私は眉をひそめ、誰にも気づかれないよう隣の個室へと素早く滑り込んだ。マリエルは昔から浮気癖で知られていた。あまりにも多くの男と関係を持ってきたせいで、ロワンの両親からは毛嫌いされていたほどだ。どうやら、その性根は今でも変わっていないらしい。皮肉なめまわりに、私は思わず笑みをこぼした。慎重に便器の上に立ち上がり、仕切りの上からそっと覗き込む。そこには目を閉じたマリエルと、その首筋にキスを落とし、舐め回している男の姿があった。「一石二鳥ね」私は小声で呟いた。私はスマホを取り出し、その様子を動画に収め始めた。この証拠は隠し持っておき、ロワンを完全に失脚させたその瞬間に突きつけてやるのだ。マリエルような女を選んだことが、どれほど大いなる過ちだったかを思い知らせてやるために。個室の中で二人がどんな痴態を演じようとも、最後まで見届ける気など毛頭なかった。すでに十分すぎる証拠の動画は押さえたのだから、私は慎重に便器から降り、音を立てないように静かにパウダールームを後にした。腕時計を確認すると、9時まではまだ30分ほどの余裕があった。ヴィラフロール氏が足を踏み入れた瞬間から彼の注意を惹きつけ、向こうから話しかけてくるように仕向ける必要があった。カジノのメインフロアへと通じる巨大な両開きの扉を見つめながら、ふと一つの妙案が頭に閃いた。中に足を踏み入れると、スロットマシンの騒々しい駆動音と、ギャンブルに
オフィスに到着するやいなや、タイラーは私の目の前に黒いバインダーをポンと置いた。「このファイルに目を通しておけ」と彼は指示した。私はすぐにバインダーを取り上げ、ページを開いた。中には、とある大手建設・土木会社の著名な実業家のプロフィールが入っていた。聞き覚えのある名前だった。以前ロワンが家に帰ってきた際、口にしているのを耳にしたことがあったからだ。確か間違いでなければ、この男は業界におけるロワンの最大にして最大のライバルだったはずだ。「ヴィラフロール建設がどうかしたの?」私は眉をひそめて尋ねた。「ロワンが担当しているプロジェクトを、そっちへ鞍替えさせる」タイラーは何気ない調子で返した。私はさらに驚いて眉間を寄せた。「プロジェクトを引き揚げるってこと?」タイラーの口元がかすかに吊り上がり、彼はゆっくりと首を横に振った。そして、私が手にしているバインダーを指差した。「お前の手で、ヴィラフロール建設にロワンのチームからプロジェクトを奪い取らせるんだ」私の眉間はさらに深く寄った。彼の言わんとすることが、まだいまいち理解できなかった。「どうしてそんなことをするの?」タイラーは回転椅子に深く背をもたれさせ、その表情を真剣なものへと変えた。「ロワンが動かしているあの10億のプロジェクトは、他ならぬお前のおかげで手に入ったものだ。あいつをこのまま思い通りに勝たせてやるつもりか? 俺はお前に引き金と銃を手渡しているんだよ、ソフィア。夫のどこをどう撃ち抜くかは、お前次第だ」彼の言葉に、私はパチパチと瞬きをした。タイラーが優秀な実業家であることは知っていたけれど、こんな一面を持ち合わせているなんて想像もしていなかった。ライバル企業を背後から裏で操り、ロワンの立場を根底から揺るがして失脚させようというのだ。まるでチェスの盤上のようで、タイラーは私に、ロワンを盤上から叩き落として二度と這い上がれないようにするための決定打を与えてくれようとしていた。それこそが、まさに私が望んでいたことだった。私がタイラーに歩み寄り、彼についていくことを決意した最大の理由がこれだったのだから。私になされたすべての仕打ちに対して、ロワンに復讐を果たしたかったのだ。私はバインダーを閉じ、強い決意を込めてタイラーの目をまっすぐに見据えた。「ヴィラフロール氏のスケジュールは把握できている
「アーニャは? 見つかったの?」バーのバウンサーを素早く通り抜けながら、私はタイラーに尋ねた。彼は答えなかった。その代わり、彼はすぐさま私を助手席へとエスコートして乗せると、自分も急いで運転席側へと回り込んだ。後部座席から小さな呻き声が聞こえたので、私は思わず振り返った。そこには、泥酔してぐったりと眠りこけているアーニャの姿があった。髪はぼさぼさに乱れ、シートに倒れ込むように身を沈めていた。今日、アートゥロ大旦那様の邸宅から会社へ戻ったとき、アーニャの姿はどこにもなかった。タイラーは彼女が少し席を外しただけで、すぐに戻ってくるだろうと考えていた。しかし、私たちが帰路についていたまさにその時、アーニャの番号からタイラーのスマホに着信が入ったのだ。電話の主は、アーニャがバーにおり、まともに立てないほど泥酔しているにもかかわらず、頑なに酒を飲み続けようとしていると告げてきたのだった。「背中、痛むか?」エンジンをかけながら、タイラーが優しく尋ねた。私は彼の方を向き、嘘をついてゆっくりと首を横に振った。「う、ううん、平気よ」だが本当は、背中が激しく痛んでいた。さっきロワンに乱暴に突き飛ばされたせいで、硬い手すりに背中を激しく打ちつけていたのだ。あの図々しいクソ野郎。私にあれだけの仕打ちをしておいて、よくもまあ今の私の態度に難癖をつけられたものだ。タイラーは私の答えを信じなかった。彼は私に向かって、背中を向けるようジェスチャーした。「背中を見せろ」「本当に大丈夫だから」私は言い張った。「背中を向けるんだ、ソフィア。見せてみろ」彼は毅然としたトーンで命じると、車を道路の脇に寄せてハザードを焚いた。私には従う以外の選択肢がなかった。ゆっくりと背を向けると、すぐにタイラーの温かい手が背中に添えられるのを感じた。「ブラウスのボタンを外せ」彼は真剣な眼差しで指示した。言われた通り、私はブラウスのボタンをゆっくりと解いた。タイラーは肌の状態をよく確かめるため、服の背中部分を優しく引き下げた。傷口を目にした瞬間、彼は動きを止めた。「痣になっている。もう腫れ上がってきているぞ」彼の声には、激しい怒りと隠しきれない心配の色が滲んでいた。彼は怪我をした箇所にそっと触れ、どれほど痛むか確かめるように軽く圧をかけた。私は思わず顔をしかめ、ダッシュボードをギュッと