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第1277話

Author: 夜月 アヤメ
動画と録音が公開されたのは、修の結婚式の場だったはずだ。

だけど、その時ノラはいなかった。

その後、これらの証拠はすぐに警察へ渡され、誰にも漏らした覚えがない。

ノラはなぜ「録音」の存在まで知っている?

若子がじっと黙り込んだままでいると、ノラが手をひらひらと目の前で振った。

「お姉さん、どうしました?ぼんやりしちゃって」

若子は微笑もうとしたが、どこかぎこちない。

「なんでもないよ。ねえノラ、最近は何してるの?」

「特には変わらずですよ。相変わらずって感じで、叔父さんのお供が多いですし」

若子はノラの言う「叔父さん」とは曜のことだと知っていた。そのことを知ったのは、祖母が亡くなった日のことで、あの場でノラは曜を義父として迎えていたのだ。

その後、再びノラと会った時、若子は二人の馴れ初めを聞き、ノラも素直にそれを話してくれた。

今、冷静になって考えてみると、全てが偶然にしては出来すぎていないだろうか?

ノラと知り合った後から次々と事件が起きている。

若子の背筋に、嫌な冷たさが伝わってきた。

「お姉さん、具合でも悪いんですか?」ノラが手を伸ばし、そっと若子の額に触れようとした。

若子は思わず一歩後ろへ下がった。

「大丈夫よ」

彼女はくるりと背を向けると、暁を連れて寝室へ戻った。そして扉を閉めながら言った。

「ねえノラ、あとで修が来るけど、あなたはそれでも平気?」

「お姉さんこそ平気ですか?僕、帰った方がいいですか?」

若子は慌てて言い直した。

「あっ、違うよ。気にしないならいても構わないの。ただ修が来たら一緒に食事するかもしれないし、二人が喧嘩でもしたら困るかなって」

「それは大丈夫ですよ。お姉さんの前では絶対喧嘩しませんし、それにまた藤沢さんがお姉さんに意地悪したら困りますから。僕がそばにいて守りますよ」

若子は無理矢理笑顔を作った。

「ありがとう、ノラ。あ、そうだ、私ちょっと買い物に行ってくるね。料理の材料が足りなくて、ここで待っててくれる?」

若子は再び暁を抱いて部屋を出ようとしたが、ノラが後ろからついてきた。

「お姉さん、僕も一緒に行きますよ」

若子は急いで言った。

「いいよ、ノラはお客さんだもの。家でくつろいでて。すぐに戻ってくるから」

「そんな、ダメですよ。赤ちゃん抱いて一人で行くなんて、前にも誰か
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