Share

第1448話

Author: 夜月 アヤメ
修が何も言わなくても、若子にはすべて分かってしまった。

「これ、私を助けに来てくれたときに負った傷なんでしょ?肩のこれは......銃で撃たれたんだよね?」

修は黙ったまま、うなずいた。

若子は強い後悔の気持ちで胸がいっぱいになった。

彼が怪我していることに今まで全然気づかなかったし、家に帰ってきてからもずっと知らずにいた。どうりで最近、修の顔色が悪かったわけだ。ずっと寝不足なのかと思っていたけれど、実際は痛みに耐えていたのだ。

けがをした体で、彼女のそばにいて、ちゃんと眠れずにずっと我慢してきた修。そのつらさを思うと、たまらない気持ちになった。

若子は唇を噛みしめて、さらに問いつめる。

「じゃあ、他の傷は?どうしてこんなに......ちゃんと話して。全部、正直に聞きたい」

若子の指が修の胸の傷にそっと触れる。

「若子、本当に大丈夫だよ、俺......」

「修!」

若子はきっぱりと彼の言葉を遮った。「言ってくれなきゃ、もう口きかないから」

修はしばらく黙ってから、ぽつりと答える。

「お前を助けに行く前、かなりハードな訓練を受けてたんだ。その時にできた傷がほとんど。全部たいしたことない、表面だけのケガだよ。心配しなくていい」

それを聞いた瞬間、若子はもう我慢できなくなって、ぼろぼろと涙をこぼした。

「なんで、もっと早く言ってくれなかったの......?」

たった短い期間で、どれほど過酷な訓練と危険にさらされたのか、想像するだけで胸が締めつけられる。

それでも、彼は黙って耐えていたのだ。

「若子、泣かないで」

修はあわてて若子を抱きしめる。「今はもう大丈夫だから、見てよ、俺は元気だし、訓練のおかげで体も前より強くなった。これでこれからは、もっとお前を守れるようになったんだ。だから心配しないで。むしろいい経験になったんだよ」

修がそう言うのは、若子を安心させたかっただけだ。

本当はどれだけつらかったか、命だって危なかったかもしれないのに。

彼は自分の命を懸けてまで、若子を守った。それだけだった。

「若子、本当は早く伝えるべきだった。ごめん。今度はちゃんと言うから。もう遅いし、お前の部屋まで一緒に行こうか?」

「修、なんでこんなにバカなの?私、あんなに酷いことしたのに、それでもこんなにしてくれて......もう私のことなんて放
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1451話

    五年後―SVIGはアメリカ・ボストンに拠点を置く企業で、資産運用、リスク評価、投資コンサルティングなどを手がけている。正式名称はStrategic Ventures Investment Group(智謀投資グループ)。複数の国に支社やオフィスを持ち、多様な投資選択肢とインテリジェントな資産アロケーションを顧客に提供している。オフィスフロアには活気が溢れている。大きな窓から差し込む陽射しが、広々とした空間を明るく照らしていた。デスクには山のようなファイルやパソコンが並び、プロジェクターには市場チャートやデータレポートが映し出されている。電話のコールが絶え間なく鳴り、誰かが急ぎの電話に対応している一方で、別の誰かは膨大なデータシートに目を通していた。部屋の隅では、数人のチームがホワイトボードを囲んで緊急ミーティング中。データを指でなぞりながら、市場の最新トレンドやリスクプランについて真剣に議論していた。書類をめくる音、キーボードを叩く音、電話のベル......そのすべてがオフィスの緊張感とせわしなさを物語っている。「Sam、Ms.Matsumotoがあなたをオフィスに呼んでるよ」Samと呼ばれた男性は、リスク分析を担当するアナリスト。呼ばれてびくりと肩を震わせ、額の汗をぬぐった。Ms.Matsumotoはリスク管理部門の責任者で、社内でも「厳しい」と有名だった。呼び出しにろくなことはない―Samは不安な気持ちのまま、オフィスのドアをノックした。机の向こうには、若い女性が座っていた。真っ黒なスーツに身を包み、きりっとした表情で書類をめくっている。Samが入ると、バサッと資料を脇に投げた。二十七歳の若子は、かつての柔らかい面影はもうなかった。今は一切笑わず、冷たい雰囲気をまとっている。「Ms.Matsumoto、ご用件は......?」若子は表情ひとつ変えずに言う。「あなたの最新の投資ポートフォリオ報告を確認したけど、いくつか異常な数値が見つかった。重要な投資案件の金額が、不自然な変動をしているわ」Samはあわてて答える。「僕がすべての投資データを管理していますが、入力ミスはなかったはずです」「そう?」若子はノートパソコンをSamの前に回し、「ここ、それからここ。この二つの案件、金額がマイナスになってる。

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1450話

    また一週間が過ぎた。この一週間、若子は毎晩のように修の部屋へ行き、彼を寝かしつけてあげていた。卓実も一緒に連れていき、親子二人をあやして寝かせていた。まるで彼女は、父子二人の母親のようだった。修はもう、仕事に行きたがらなくなった。特に大きな用事がなければ、ずっと家で若子と子どものそばにいた。ほかのことは、全て人に任せてしまった。中でも一番幸せそうなのは卓実だった。両親がそばにいてくれて、毎日ママに抱っこしてもらって、一緒に遊んでもらえる。修は、こんな幸せな日々がずっと続くと信じていた。だが、その幸せは、ある日突然終わってしまう。若子が、いなくなったのだ。修は彼女のベッドの上で、一通の手紙を見つけた。それから修は、自分の部屋にこもって、その手紙を何度も何度も読み返し、一日中部屋から出てこなかった。【修、ごめんなさい。やっぱり私は、出ていくことに決めた。探さないでほしい。これは私自身の決断。この選択が、きっとあなたや子どもの心を傷つけるのはわかってる。でも、どうしてもこうするしかない。この間、私はずっと悪夢を見ていた。いつも夢の中で、西也が死ぬ間際に私の耳元で言った言葉がよみがえる―『私を愛した男は誰も幸せになれなかった』。本当は、西也はわざと私を苦しめるために言ったのだとわかってる。私が信じれば、彼の思い通り。でも、現実も見なきゃいけない。私を愛した男は、みんな死んでしまった。ノラも西也も、自業自得かもしれない。だけど、千景の死は私にとって壊滅的だった。そして、あなたも今、こんなふうになってしまって、何度も命を落としそうになった。全部、私のせいだ。私は、まるで呪われた存在。不吉な女。私のそばにいる人は、みんな不幸になる。だから、唯一できることは、私が愛する人や、私を大事にしてくれる人たち―あなたや子どもから離れること。私はずっと悩み続けていた。本当は、あなたや子どもと一緒にいたい。だけど、こうするしかない。特に、あなたがこんなふうになったのを見ていると、もうこれ以上、あなたを傷つけたくない。それに、子どもはあなたのもとにいたほうが、私と一緒にいるよりも、きっと幸せで安全だから。私は自分勝手に連れて行くこともできない。修、本当にごめんなさい。私はどうしても怖い。あなたや卓実をまた不幸に巻き込むかもし

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1449話

    「若子、もちろん違うよ。俺はガンなんかじゃない」「じゃあ、何の薬か見せて」若子は修の手を振りほどき、薬の瓶を手に取った。その瓶は、どう見ても分包されたものだった。オレンジ色の容器に、いくつか違うラベルが貼られている。クロナゼパム、バルビツール、フルオキセチン―どれも聞き慣れない名前だった。しかも中身は空っぽで、明らかに飲み終わったあとの瓶だった。分包瓶に入っているということは、処方ごとに量が厳密に管理されている証拠。つまり、ずっと使い続けていたことが分かる。「これ、何の薬?どうして飲んでるの?」「どれも普通の薬さ。見てよ、今だって元気だろ?」「答えてくれないなら、自分で調べるから」若子が立ち上がろうとすると、修は彼女の腕をつかんだ。「若子......これは、精神を安定させる薬なんだ。うつや不安を和らげたり、気持ちを落ち着かせるための薬」仕方なく、修は真実を明かした。どうせ彼女が調べればすぐに分かることだった。ならば自分で伝えた方がいいと思った。若子はしばらく固まったまま、「これ......ずっと飲んでたの?」と訊いた。修は答えなかった。ただ、静かにうなずいた。「若子、今はもう大丈夫だよ」「本当に大丈夫なら、どうして電話で薬を頼んでたの?まだ必要なんじゃないの?どうして隠してたの?」精神科の薬は、よほどのことがなければ飲み続けたりはしない。きっと相当つらくて、どうしようもなかったのだと若子は悟った。修がどんな気持ちで薬を飲んできたのか、薬を飲む前の修が、どんな状態だったのか。若子には―想像するのも、怖かった。「若子、ただ......言う必要ないと思っただけなんだ」「言う必要ない?どうして?」「心配させたくなかったんだ」「心配するのは当然でしょ。でも、隠されてたことを後から知るほうが、もっと辛いよ。修......西也が言ったとおり、私は不幸を呼ぶ女なんだ。私を愛した男はみんな不幸になった。西也も、ノラも、みんな死んじゃった。今度はあなたまで......私のせいでこんなふうになった」「バカなこと言うな」修は強く彼女を抱きしめる。「絶対にそんなことない。お前は不幸の女神なんかじゃない。遠藤が何を言おうが、ただお前を苦しめたかっただけだ。お前がそんな話を信じる必要なんてない

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1448話

    修が何も言わなくても、若子にはすべて分かってしまった。「これ、私を助けに来てくれたときに負った傷なんでしょ?肩のこれは......銃で撃たれたんだよね?」修は黙ったまま、うなずいた。若子は強い後悔の気持ちで胸がいっぱいになった。彼が怪我していることに今まで全然気づかなかったし、家に帰ってきてからもずっと知らずにいた。どうりで最近、修の顔色が悪かったわけだ。ずっと寝不足なのかと思っていたけれど、実際は痛みに耐えていたのだ。けがをした体で、彼女のそばにいて、ちゃんと眠れずにずっと我慢してきた修。そのつらさを思うと、たまらない気持ちになった。若子は唇を噛みしめて、さらに問いつめる。「じゃあ、他の傷は?どうしてこんなに......ちゃんと話して。全部、正直に聞きたい」若子の指が修の胸の傷にそっと触れる。「若子、本当に大丈夫だよ、俺......」「修!」若子はきっぱりと彼の言葉を遮った。「言ってくれなきゃ、もう口きかないから」修はしばらく黙ってから、ぽつりと答える。「お前を助けに行く前、かなりハードな訓練を受けてたんだ。その時にできた傷がほとんど。全部たいしたことない、表面だけのケガだよ。心配しなくていい」それを聞いた瞬間、若子はもう我慢できなくなって、ぼろぼろと涙をこぼした。「なんで、もっと早く言ってくれなかったの......?」たった短い期間で、どれほど過酷な訓練と危険にさらされたのか、想像するだけで胸が締めつけられる。それでも、彼は黙って耐えていたのだ。「若子、泣かないで」修はあわてて若子を抱きしめる。「今はもう大丈夫だから、見てよ、俺は元気だし、訓練のおかげで体も前より強くなった。これでこれからは、もっとお前を守れるようになったんだ。だから心配しないで。むしろいい経験になったんだよ」修がそう言うのは、若子を安心させたかっただけだ。本当はどれだけつらかったか、命だって危なかったかもしれないのに。彼は自分の命を懸けてまで、若子を守った。それだけだった。「若子、本当は早く伝えるべきだった。ごめん。今度はちゃんと言うから。もう遅いし、お前の部屋まで一緒に行こうか?」「修、なんでこんなにバカなの?私、あんなに酷いことしたのに、それでもこんなにしてくれて......もう私のことなんて放

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1447話

    夜、若子は卓実と一緒にかくれんぼをして遊んでいた。子どもはママと遊ぶのが嬉しくて、ずっと笑いが絶えなかった。若子はわざと分かりやすい場所に隠れて、卓実は毎回すぐに見つけて、そのたびに若子の胸に飛び込んできた。「暁―あ、違った。これからは卓実だね」若子は子どもの顔を両手で包み込んで、優しく言った。「これからあなたは、卓実って呼ばれるんだよ。この名前はパパがつけてくれたんだ」新しい名前にはまだ慣れなくて、何度か若子が「卓実」と呼んでも、ピンとこない様子だった。「卓実、一緒に練習しよう。『卓実』って言ってごらん」「たくみ」ふたりで何度も新しい名前を練習して、少しずつ慣れていった。「うん、いい子だね。ママはこれからずっとあなたを卓実って呼ぶよ」「ママ!」卓実は嬉しそうに若子に抱きつく。ママがどんな名前で呼んでも、大好きなのだ。「さあ、卓実、そろそろ寝る時間だよ」若子は卓実をベッドに連れていき、子どもはおとなしくベビーベッドに横になって、ママの顔を見つめていた。若子は優しくあやしながら、子どもが少しずつ目を閉じて眠るのを待った。そっと布団をかけ、おでこにキスを落とす。「おやすみ、卓実」......卓実を寝かせた後、若子は部屋を出た。シャワーを浴びた後、ベッドに入ったが、なかなか眠れなかった。普段なら修がそばにいてくれる。でも今夜は邪魔したくなくて、無理やり自分の部屋で寝てもらったのだ。それでも、夜になると悪夢で泣きながら目を覚ますことがある。でも前ほど叫ぶことはなくなった。しばらく横になっていたが、どうしても眠れず、若子は起き上がって修の部屋に行くことにした。少し話をしたかった。修の部屋の前まで来ると、ドアが少し開いていて、中から話し声が聞こえてきた。「明日、家に帰って薬を取ってくる。用意しておいてくれ」若子はそのままドアを開けて中に入った。修は誰かが入ってきたのに気づき、振り返ると若子の姿を見つけた。すぐに電話を切り、「若子、どうした?まだ寝てないのか?」修は腰にバスタオルを巻いただけで、上半身は裸だった。若子が入ってきて、ちょっと慌ててそばのパジャマを羽織った。若子は修に近づき、不思議そうに尋ねる。「何の薬を取りに行くの?」「大したことないよ。最

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1446話

    あのキャンプのあと、修と若子の関係は、さらに深まったようだった。もう夫婦ではないけれど、まるで本当の家族のように、自然で親密な関係だった。修は、千景のためにとても良い墓地を探してあげた。千景はわずかな骨しか残っていなかったけれど、それでも、良い場所に眠らせてあげたいと思った。今回の埋葬はとても簡素だった。葬儀はせず、若子と修が千景の骨を持って墓地に来ただけだった。若子は小さな箱を大切そうに抱きしめ、なかなか手放せずにいた。修はそっと彼女の肩を抱いて、「若子、もう、土に帰してあげよう」と優しく声をかけた。若子は涙で霞んだ目で修を見上げた。彼女は箱を開けて、中の小さな骨に指でそっと触れながら、「千景、また会いに来るからね」と静かに言った。修は箱の中の骨を見て、少しだけ眉をひそめた。どうも数が合わない気がした。千景の骨は本来七つ残っているはずだったが、箱の中には六つしかなかった。けれど、修は何も言わず、若子の気持ちが落ち着くまで待ってから、そっと箱を閉じた。修は若子の肩を抱いたまま、ふたりで前に進み、若子が自分の手で箱を棺に納めた。その瞬間、若子の涙は止まらなくなった。「千景、さよなら」この瞬間になって、ようやく本当に千景を見送れた気がした。若子は声も出せずに泣き、修は後ろから彼女を抱き寄せ、そっと引き離した。スタッフが棺に土をかけはじめると、若子はそれを見つめながら、どんどん激しく泣き出した。「千景、千景!」千景のお墓ができた。墓石には「冴島千景之墓」と刻まれ、その下に「愛妻・松本若子建之」と小さく書かれていた。ふたりは正式に籍を入れたわけではないけれど、結婚式はしたし、若子の心の中では千景は夫だった。だから彼女は、自分で墓碑を立てた。千景が埋葬されたあと、若子は墓石の前にしばらく立ち尽くしていた。修は若子のお腹をさすりながら「赤ちゃんも休まないと。そろそろ帰ろう。空も曇ってきたし、また今度会いに来よう」と優しく声をかけた。若子は一歩前に進み、指でそっと墓石をなぞる。「千景、どこへ行っても、私はあなたと一緒だからね」......修が若子を家に連れて帰ると、若子はずっと黙ったまま部屋にこもった。修はそっとしておいた。今はひとりになりたいだろうと思ったからだ。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status