LOGIN恵が帰ったあとも、佳苗はしばらく動けなかった。
心臓が嫌なほど脈打っている。
あの目。
一瞬だけ見せた、冷たい視線。
前世では最後まで気づかなかった。
恵はずっと、自分から奪うことを楽しんでいたのだ。
「……っ」
佳苗は唇を噛み締める。
怖い。
けれど、それ以上に悔しかった。
どうして自分は、あんな人たちのために命まで懸けてしまったのだろう。
テーブルの上に置かれた結婚写真が目に入る。
幸せそうに笑う自分。
悟の腕に寄り添って、未来を信じ切っていた頃の自分。
――滑稽。
佳苗は震える手で写真立てを伏せた。
もう戻れない。
戻りたくもない。
今度こそ終わらせる。
佳苗はクローゼットを開け、小さなキャリーケースを引っ張り出した。
最低限の服。
通帳。
印鑑。
保険証。
手が震える。
本当に出て行くの?
この家を?
悟の妻でいることを、やめるの?
不安が押し寄せる。
けれど同時に、胸の奥で何かが叫んでいた。
(逃げなきゃ)
(今逃げなきゃ、また殺される)
その恐怖が、佳苗を動かした。
荷物を詰め終えた頃には、もう夜になっていた。
リビングからは悟の笑い声が聞こえる。
電話だ。
相手はきっと恵。
楽しそうだった。
佳苗は静かに目を閉じる。
前世では、その声を聞くだけで幸せだったのに。
今はただ寒気しかしない。
机に便箋を置く。
『少し距離を置きたいです』
たった一文。
本当は言いたいことなんて山ほどあった。
どうして裏切ったの。
どうして私を利用したの。
どうして笑っていられるの。
でも今はまだ駄目だ。
感情的になれば、きっとまた丸め込まれる。
佳苗は便箋を置き、静かに玄関へ向かった。
ドアノブに手をかけた、その瞬間。
「……どこ行くんだ?」
背後から声がした。
佳苗の身体が凍りつく。
振り返ると、悟が廊下に立っていた。
スマホを片手に、不機嫌そうな顔をしている。
「そんな荷物持って」
「……少し、実家に」
「は?」
悟の眉間に皺が寄る。
「急に何言ってんの?」
「少し一人になりたくて」
「意味分かんないんだけど」
苛立った声。
前世でも、悟は自分の思い通りにならないとこういう顔をした。
「佳苗、最近本当に変だぞ?」
「……そうかもね」
「は?」
「でも、やっと気づいただけ」
悟の顔が曇る。
「何に」
佳苗は答えなかった。
今ここで問い詰めても意味がない。
証拠もない。
それに――怖かった。
まだ、この男を完全には捨て切れていない自分が。
「とにかく今日は出ていくね」
そう言って玄関を開ける。
すると次の瞬間、腕を掴まれた。
「待てよ」
「っ……!」
強い力。
佳苗の肩が震える。
「どこ行くか知らないけど、勝手なことするな」
「離して」
「佳苗」
低い声。
圧を含んだ声音。
前世では、この声に逆らえなかった。
けれど今は違う。
「離して!!」
佳苗は思い切り腕を振り払った。
悟が目を見開く。
その隙に外へ飛び出した。
冷たい夜風が頬を打つ。
怖い。
怖い。
けれど止まれない。
佳苗は震える足でマンションを飛び出した。
どこへ行けばいいのか分からない。
でも、とにかく離れたかった。
そのときだった。
黒塗りの高級車が、ゆっくりと目の前に停まる。
後部座席の窓が下がった。
「乗れ」
低い声。
佳苗は息を呑む。
「……榊原、先輩?」
スーツ姿の男が、薄暗い車内からこちらを見ていた。
鋭い目。
整いすぎた顔。
大学時代よりずっと冷たい雰囲気なのに、不思議と佳苗を見る視線だけは柔らかい。
「どうして……ここに」
「迎えに来た」
「え……?」
佳苗が戸惑っていると、雄吾は静かに佳苗の後ろへ視線を向けた。
振り返る。
マンションの入口から、悟が出てくるところだった。
舌打ちするように、雄吾が目を細める。
「……遅かったか」
「先輩?」
次の瞬間。
雄吾は車を降りると、佳苗の手首を掴んだ。
大きな手。
熱い体温。
逃がさないと言うような力強さ。
そのまま耳元で、低く囁く。
「やっと捕まえた」
ぞくり、と背筋が震えた。
「奥様にお願いしたいことって……何だろう?」 佳苗は雄吾のスマートフォンを見つめた。 結婚式で初めて会ったばかりの直哉が、自分に何を頼もうというのだろう。「さあな」 雄吾は短く答え、画面を閉じた。「返事しなくていいの?」「急ぐ話なら、向こうから用件を言ってくるだろう」「でも、絢子さんの旦那さんだし……」「それとこれとは別だ」 雄吾は佳苗の顔を見た。「気になるか?」「うん。私に何か用事があるみたいだから」「だったら聞いてみる」 雄吾はスマートフォンを操作し、簡潔な返信を送った。『妻への用件なら、先に内容を教えてくれ』 それを見て、佳苗は思わず笑った。「雄吾らしいね」「何が?」「回りくどいことをしないところ」「食事に誘う理由を聞いただけだ」 雄吾は当然のように言った。 けれど、佳苗にはそれが少し嬉しかった。 以前なら、雄吾に守られてばかりいることに戸惑ったかもしれない。今は、必要なときには頼っていいし、自分の意見もきちんと伝えられる。 そんな関係になれたことが、何より嬉しい。 自宅に着く頃になって、ようやく直哉から返信が届いた。『そんなに警戒しなくてもいいだろう。絢子が奥様と親しくなりたがっているんだよ。せっかくの機会だから、夫婦同士で交流したいと思ってね』「……絢子さんが?」 佳苗は首を傾げた。 結婚式では、絢子からそんな話は一度も出なかった。 むしろ帰り際には、直哉が食事会の話を持ち出したとき、何か言いかけていたように思う。「雄吾、これって本当なのかな」「分からん」「絢子さん、私と仲よくしたいって言ってた?」「いや。少なくとも俺は聞いてない」「だよね……」 佳苗は少し考えてから、雄吾を見上げた。「ねえ、私から絢子さんに聞いてみてもいい?」「連絡先は知ってるのか?」「前に交換したままだから。でも、ずっと連絡してないけど」「無理に関わる必要はないぞ」「うん。ただ、本人が本当にそう思ってるなら、ちゃんと返事したいなって」 雄吾は少し考え、頷いた。「分かった。ただし、嫌なことを言われたら付き合わなくていい」「分かってる」 佳苗は笑って答えた。 その夜、着替えを済ませてから、佳苗は久しぶりに絢子とのメッセージ画面を開いた。 最後のやり取りは、もうずいぶん前だ。 少し迷った末、短い文
直哉が絢子の肩から手を離すと、彼女はしばらくその場に立ち尽くしていた。「絢子?」 美佐子に声をかけられ、絢子ははっとしたように顔を上げた。「……あ、すみません。少しお願いがあるんです」「お願い?」 絢子は雄吾に視線を向けた。「雄吾さん、あとで直哉さんと少しお話ししていただけないかしら」「話?」「ええ。仕事のことで、相談したいことがあるそうなの」 雄吾は直哉を見た。「仕事の話なら、改めて時間を取ればいいだろう」「そうなんだけどね」 直哉は悪びれる様子もなく笑った。「せっかく顔を合わせたんだ。少しくらいいいじゃないか。絢子からも頼んでもらおうと思ってね」 佳苗は思わず絢子を見た。 自分の結婚披露宴で、新郎に頼まれて昔の友人に仕事の話を持ちかける。 それも、あまり気持ちのいい役目ではないだろう。「直哉さん、今日はお祝いの席だから……」 絢子が控えめに言うと、直哉は彼女の言葉を遮った。「だからこそだよ。こういう席での縁を大事にするのも、経営者の仕事だからね」 そして雄吾に向き直る。「君なら分かるだろう?」「分からんな」 雄吾は即答した。「今日はお前たちの結婚式だ。仕事の話をするために来たわけじゃない」 一瞬、直哉の口元が引きつった。 しかし、すぐに笑顔を取り戻す。「相変わらず融通が利かないな、榊原は」「必要なら会社を通して連絡してくれ」「分かったよ。そうさせてもらおう」 直哉は軽く手を上げた。「絢子、次のテーブルに行こうか」「ええ……」 絢子は佳苗たちに頭を下げ、夫のあとを追った。 その背中を見送りながら、美佐子が小さくため息をついた。
披露宴が始まると、会場は華やかな祝福の空気に包まれた。 絢子と直哉の出会いを紹介する映像が流れ、招待客たちから温かな拍手が起こる。 佳苗も拍手を送りながら、壇上の二人を見つめていた。 絢子は幸せそうに微笑んでいる。少なくとも、遠目にはそう見えた。「絢子さん、本当に綺麗ね」 隣に座る美佐子が、目を細めた。「ええ。ドレスもよく似合っていますね」「小さい頃から知っている子だから、なんだか感慨深いわ」 美佐子は懐かしそうに言った。「直哉さんも立派な方だそうよ。久世家とはお仕事のお付き合いもあるみたいね」 佳苗はちらりと雄吾を見た。 雄吾はグラスを置き、静かに答えた。「仕事ができるのは確かだ」「あら、雄吾がそう言うなら間違いないわね」「それと人柄は別の話だが」 美佐子は不思議そうに息子を見たが、ちょうど料理が運ばれてきたため、それ以上は尋ねなかった。 しばらくして、新郎新婦が各テーブルを回り始めた。「皆さん、今日はありがとうございます」 直哉は朗らかな笑顔で挨拶し、絢子も隣で丁寧に頭を下げる。 佳苗たちのテーブルに来ると、直哉は真っ先に雄吾へ声をかけた。「榊原、料理はどうだい? ここのシェフには少し無理を聞いてもらったんだ」「うまいよ」「それはよかった。君は舌が肥えているからね」 直哉は満足そうに頷くと、今度は佳苗へ視線を向けた。「ところで、奥様はお仕事をされているんでしたね」「はい。会社勤めをしています」「ほう。榊原の会社で?」「いいえ、別の会社です」「それは意外だな」 直哉は目を丸くした。「社長夫人ともなれば、いろいろお忙しいでしょう。お勤めを続けるのは大変じゃありませんか?」「今のところ、問題なく働けています」「なるほど。ご自分のお仕事がお好きなんですね」
絢子の結婚式は、都内でも格式の高いホテルで開かれた。 当日、佳苗は淡いブルーのドレスに身を包み、雄吾とともに会場へ向かった。「変じゃないかな?」 車の中で、佳苗は膝の上に置いたバッグを持ち直した。「何が?」「このドレス。ちょっと地味だったかも」「似合ってる」「本当?」「ああ。綺麗だ」 雄吾があまりに自然に言うので、佳苗は頬を赤くした。「……ありがとう」「さっきから三回目だぞ」「だって、こういう結婚式って緊張するんだもの」「俺と一緒なんだから、気楽にしてろ」 そう言って、雄吾は佳苗の手を握った。 ホテルに到着すると、広々としたロビーには美しい花が飾られ、着飾った招待客たちが行き交っていた。 受付を済ませたところで、聞き慣れた声がした。「雄吾さん、佳苗さん」 振り向くと、美佐子が立っていた。「あら、佳苗さん。素敵なドレスね」「ありがとうございます。お義母さんも、とてもお綺麗です」「まあ、ありがとう。絢子さんの花嫁姿、楽しみね」 美佐子は嬉しそうだった。 絢子とは長い付き合いがあるのだから、結婚を喜ぶ気持ちも大きいのだろう。 やがて挙式が始まり、佳苗たちはチャペルへ案内された。 純白のウェディングドレスをまとった絢子は、息を呑むほど美しかった。 ゆっくりとバージンロードを歩く姿は堂々としていて、以前のような刺々しさは感じられない。 新郎の久世直哉は、背が高く、端正な顔立ちの男性だった。 柔らかな笑みを浮かべて絢子を迎える姿は、絵に描いたような新郎に見えた。 佳苗は小さく息をついた。 よかった。 絢子は本当に、新しい幸せを見つけたのかもしれない。 挙式が終わり、披露宴会場へ移動すると、絢子と直哉が招待客を迎えていた。「雄吾さん。今日は来てくださってありがとう」 絢子が微笑んだ。「結婚おめでとう」「ありがとう。佳苗さんも、来てくださって嬉しいわ」「ご結婚おめでとうございます。とても綺麗でした」「ありがとう」 絢子は少し照れたように笑った。 その表情は以前よりずっと穏やかで、佳苗はほっとした。 ところが、その隣にいた直哉が口を開いた。「榊原。まさか本当に来てくれるとは思わなかったよ」 親しげな口調だった。 けれど、雄吾は表情を変えない。「招待されたからな。結婚おめでとう」「ありがとう
土曜日の午後、佳苗が買い物から帰ると、雄吾がリビングで一通の封筒を眺めていた。「ただいま。何か届いたの?」「ああ。結婚式の招待状だ」「結婚式?」 雄吾の知人だろうか。 佳苗が何気なく尋ねると、雄吾は封筒をテーブルに置いた。「絢子からだ」「……えっ?」 思いがけない名前に、佳苗は足を止めた。 一条絢子。 雄吾の幼なじみで、以前は家族ぐるみの付き合いがあった女性だ。 佳苗に対して何かと含みのある言動を繰り返し、最後には悟にまで接触していたことが発覚した。 あれ以来、ほとんど名前を聞かなくなっていたのに。「絢子さん、結婚するの?」「そうらしい」「知らなかった……」「俺もだ。母さんは聞いていたみたいだが」 雄吾は招待状を佳苗に渡した。 上質な紙に、結婚式の日付と会場が記されている。 そして、新郎の名前。『久世直哉』「久世……さん?」「ああ」「雄吾の知ってる人?」「知ってる」 短い返事だった。 佳苗が顔を上げると、雄吾はわずかに眉を寄せていた。「仲がいいの?」「いや」「……そうなんだ」 それ以上聞いていいものか迷っていると、雄吾が続けた。「同業の会社を経営してる男だ。仕事で何度かぶつかったことがある」「ライバル会社ってこと?」「まあ、そうだな」 佳苗は改めて招待状を見た。 絢子の結婚相手が、雄吾の仕事上のライバル。 偶然なのだろうか。「それにしても、どうして私たちを招待したんだろう」「昔からの付き合いがあるからだろ。母さんにも届いてる」「そうなん
土曜日の午後、佳苗は雄吾と一緒に百貨店へ出かけた。 目的は、仕事用のバッグを買うことだ。「どんなのが欲しいんだ?」「書類が入って、あんまり重くなくて、ちゃんと自立するものかな」「色は?」「黒かベージュ。仕事で使うから、あんまり派手じゃない方がいいと思う」「分かった」 雄吾は頷くと、バッグ売り場へ向かった。 佳苗はその後ろ姿を見ながら、少し笑った。 こういう買い物に、雄吾がどれほど興味を持つのかと思っていたが、意外と真剣らしい。「これなんかどうだ?」 最初に雄吾が手に取ったのは、上品な革のバッグだった。「可愛いけど……」「けど?」「ちょっと重いかな」「そうか」 雄吾はすぐに戻した。 次に佳苗が選んだのは、軽い素材でできたシンプルなバッグだった。「これ、よさそう」「持ってみろ」 肩に掛けて鏡を見る。 大きさもちょうどいい。「どう?」「似合ってる。ただ、持ち手が少し細くないか?」「そう?」「荷物を入れたら肩に食い込みそうだ」 言われてみれば、確かにそうかもしれない。「雄吾、意外と細かいところ見るね」「毎日使うものだろ」「うん」「見た目だけで選んで、使いにくかったら困る」 その言葉に、佳苗は嬉しくなった。 高いものを買えばいいと思っているわけではない。 自分が毎日使うことを、ちゃんと考えてくれているのだ。 ◇ 三軒ほど見て回ったところで、佳苗はようやく気に入ったバッグを見つけた。 落ち着いたグレージュの色で、書類も入り、持ち手も柔らかい。「これにしようかな」「気に入ったか?」「うん。軽いし、使いやすそう」
ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」
「俺は昔から、お前しか欲しくない」 低い声が耳元で響く。 佳苗は息を呑んだ。 車内の空気が熱い。 逃げ場がない。 雄吾の視線は真っ直ぐで、冗談の気配なんて微塵もなかった。「……先輩」 喉が震える。 理解が追いつかない。 昔から? ずっと? そんなはずない。 自分は特別な人間じゃない。 妹みたいに愛嬌があるわけでも、美人なわけでもない。 ただ都合よく利用されるだけの女だった。「信じられないか」 雄吾が静かに言う。 佳苗は答えられなかった。 すると雄吾は小さく息を吐き、身体を離す。「まあいい」「え……」「今すぐ答えを求める気はない」 その言葉に、佳苗は
もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと
「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。