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4.私を陥れた男との再会

Penulis: 専業プウタ
last update Tanggal publikasi: 2025-07-20 20:04:08

 私はヘンゼル皇太子とレベッカ様と共にオリタリア帝国の皇宮に向かった。

 ここが世界の中心であると、遠くスペンサー王国内でしか生きていない私でも知っている。

「ここが、皇宮⋯⋯」

 世界中の富と権力が集結しているのが一目で分かる。

 オリタリア帝国はその領土だけでもスペンサー王国の10倍以上の規模だ。

 その上、世界のリーダーと言っても過言ではない程、政治経済の中心になっていた。

 アイリー公爵邸もスペンサー王国の王宮並みに豪華で驚いたが、皇宮の豪華絢爛とした荘厳さと建築技術の繊細さに私は見入ってしまった。

 皇宮の内部に入ると全面大理石の床には埃1つ落ちていなかった。

(私なんかが歩いても良いのかしら⋯⋯)

「レベッカ、今から父上に挨拶に行こう」

 ヘンゼル皇太子はレベッカ様に微笑みながら語りかける。

 彼の全身から彼女が好きで堪らないという気持ちが伝わってくる。

「はい。カイゼル皇帝陛下とお会いするのは久しぶりで少し緊張しますわ」

 レベッカ様はヘンゼル皇太子の前では演技をしているように見えた。

 彼女は緊張など全くしていないのに、ヘンゼル皇太子が喜ぶ言葉を選んでいる。

 庭師のケント様といる時の彼女は、心臓の音がこちらまで聞こえそうなくらい緊張して昂っていた。

「ふふっ、父上は恐ろしい逸話を沢山持った方だからな。でも、父上もそなたを気に入っているし、余もいるから緊張などしなくても大丈夫だ」

 周囲の目も憚らず、ヘンゼル皇太子はレベッカ様を抱き寄せた。

 レベッカ様は感情を失ったような琥珀色の瞳を、そっとまつ毛を伏せて隠すように目を閉じた。

「セーラ、中庭で待っていてくれる? あなたに付く下女を後で紹介するから」

「はい。畏まりました」

 2人は仲睦まじそうに話しながら去っていった。

 オリタリア帝国では侍女になる私の世話をする下女までつくらしい。

(いいご身分ねカリナ⋯⋯)

 産んだ子の世話もせず、逃げてきた先で厚遇を受ける自分に呆れた。

 中庭に向かおうと皇宮内を歩いたが、どの中庭でレベッカ様が待っているように言ったのかが分からなかった。

 中庭は今まで見つけただけで8個もある。

(本当に広すぎる。今どこにいるのかも分からなくなってしまったわ)

「カリナ!」

 その時、1年近くに及ぶ監禁生活で待ち侘びてた声が私の耳に届いた。

(ロバート⋯⋯どうしてここに⋯⋯)

 ゆっくりと振り向くと、金髪に宝石のような美しいブルーサファイアの瞳をした男が立っている。

 私に愛を語り、子を孕ませ奪った男だ。

「人違いかと思われます。私はオリタリア帝国で皇太子妃になられるレベッカ・アイリー公爵令嬢の侍女です」

 震える声を抑えながら呟いた私を馬鹿にしたようにロバートが笑う。

「右の鎖骨の下に連なった2つの黒子があるのだ。カリナ、自分でも知らなかったのではないか?」

 ロバートは私に顔がくっつきそうな程近づくなり、私の襟元を下げて黒子を見せてきた。

 彼はどうして平然と私の前でいられるのだろう。

 私をあたかも妻に迎えるように振る舞い、子を奪い、殺そうとまでした男だ。

「そのようなお戯れはおやめください、ロバート・スペンサー国王陛下⋯⋯。オリタリア帝国には何用でいらしたのですか?」

「ヘンゼル皇太子の結婚式に招待されてな。そのような事はどうでも良い。カリナ、なぜここにいるのだ? そなたは私の側に侍るべき女なのに⋯⋯」

 ロバートの瞳はまるで冷たい海のようだ。

 私は彼の瞳を見る度に心が凍るような不安を覚える。

 彼が私を愛する女ではなく道具として見ている事など一目瞭然だ。

「え、エミリアン王子殿下はいらっしゃっていないのですか?」

「まだ生まれて間もないのに連れて来るわけないだろう。アレの美しい紫色の瞳を見る度にそなたを思い出していた」

 私の額に口付けをしてくるロバートに恐怖した。

 まるで私が自分の所有物だと印をつけているようだ。

 私は怒りと恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

 私が監禁されている間、関わってきた人間は皆私を騙していたのだ。

 その中には侍女や下女時代に一緒に働いた同僚もいた。

 ロバートの王命に逆らえるはずもないけれど、どうしようもなく悔しい。

「エミリアン王子殿下を取り出した産婆はお元気ですか?」

 私は俯きながら、やっとのことで掠れた声を出して尋ねた質問を後悔した。

 逆らえない状態で私を助けようとしてくれた方の無事を確認して、罪悪感を少しでも消したい自分の浅ましさに呆れる。

「ヘンゼル皇太子の結婚式が終わったら、共にスペンサー王国に帰ろう。そなたの部屋も用意してある」

 ロバートは私の質問に応えなかった。

 このような事は何度もあった。

 これだけ馬鹿にされているのに、毎日愛を語ってくれるから愛されていると思い込もうとしていた過去の自分を殴りたい。

 ふわっと気品に溢れた鈴蘭の香りが鼻をくすぐる。

 私が顔をあげると、そこには怒りを抑えているようにも見える無表情のランスロット様がいた。

「ロバート・スペンサー国王陛下、会談の時間です。私の婚約者であるカリナ・ブロワに何か御用ですか?」

 ランスロット様の発した言葉が一瞬理解できなかった。

(カリナ・ブロワ⋯⋯私の本名だ⋯⋯どうして知って⋯⋯それに、婚約者?)

「ランスロット様?」

「カリナ。エミリアーナ王妃殿下の侍女をしてた時にロバート国王陛下にお世話になったのかな?」

「え、はい⋯⋯」

 ランスロット様は全てを知っての上で私に接していたようだ。

 レベッカ様やアルベルト様とは違い彼はいつも私に事務的だった。

(軽蔑されてたからだよね⋯⋯偽名まで使って本当に私は最低だ)

「婚約とは冗談ですよね。小国の平民と変わらないような男爵家の娘とオリタリア帝国のアイリー公爵が婚約?」

 普段ほとんど表情の変わらないロバートが目を丸くして私の家門を蔑む。

(本当に彼は私を妻にする気などなかったのね⋯⋯)

「私の婚約者を愚弄しないで頂きたい。どれ程の覚悟があって陛下はそのような事をおっしゃられているのですか?」

 いつから私がランスロット様の婚約者になったのかは分からない。

 3週間一緒に暮らしても威圧感があって近寄りがたかった彼との接触は最小限だった。

 私はレベッカ様やアルベルト様とはよく話したが、ランスロット様とはほとんど会話らしい会話をしていない。

 それなのに今なぜ彼に寄りかかりたくなるのか自分でも理解できない。

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