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3.信じていた人からの裏切り

Penulis: 専業プウタ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-19 20:03:31

 レベッカ様の結婚式があと1週間と迫り、今日、式の準備もあると言うことで皇宮入りすることになった。

 アイリー公爵家は昨年23歳になるランスロット様が爵位を継承し、お父様は首都の邸宅を離れ領地経営に専念しているらしい。

 ランスロット様、レベッカ様とアルベルト様の3人はとても仲が良く、私を家族のように受け入れてくれた。

 私は幼い時、感染症で両親を亡くし親戚の叔母に預けられた。

 14歳の時、王宮で住み込みの下女の仕事を得た。

 16歳で、王妃エミリアーナ様の侍女に取り立てられた。

 そして、19歳、死にかけのところをレベッカ様に助けられた。

 沢山の出会いに支えられてきたが、今、この空間にいる人たちとの出会いは神が与えてくれた奇跡のように思える。

 毎日のように会話をしながら朝食を食べるのは私にとって記憶に残っている限り初めての経験だった。

 幸せ過ぎて胸がいっぱいで、とても美味しい食事なのに喉を通らない。

「姉上も、とうとう結婚か⋯⋯スペンサー国王も離婚したようだし、あまりお転婆が過ぎてヘンゼル皇太子殿下に愛想尽かされないようにした方が良いんじゃないのか?」

 珍しくレベッカ様に突っかかるような物言いをするアルベルト様が可愛らしい。ずっと一緒に暮らしていた彼女と離れるのが寂しいのだろう。

 スープを飲む手を止めて、先ほどからレベッカ様の方ばかり見ている。

(えっ? スペンサー国王? ロバート・スペンサー? 離婚?)

「スペンサー王国のエミリアーナ王妃は生きているのですか?」

「突然どうしたのだ? エミリアーナ王妃は先月王子を出産したばかりだ。ようやっと誕生した王子にスペンサー王国ではお祭り騒ぎだったらしいぞ。それなのに離婚とは⋯⋯」

 アルベルト様が目を丸くしながら説明してくれたスペンサー王国の事情。

 私もその可能性を考えたことがなかった訳ではない⋯⋯ただ、耳を塞ぎ、目を閉じて考えるのをやめていただけだ。

 『エミリアーナ王妃は生きている』

 結婚して2年、子供ができなかった彼女は周囲から不妊ではないかと陰口を叩かれていた。でも、侍女であった私はロバート国王が初夜の1回しか彼女の寝室を訪れていない事を知っている。

 不妊だということは婚前から分かっていて、私に代わりに子を産ませるように画策していた?

 「泣かないでくれ、セーラ。俺が悪かったよ。スペンサー王国の話なんてするんじゃなかった」

 気が付くとアルベルト様は立ち上がり、私の真横まで来て親指で私の涙を拭ってくれていた。

 彼は私がスペンサー王国で血だらけで倒れていた事を知っている。

 その理由を私はこの家族から尋ねられた事はない。

「アルベルト、食事中に立ち上がるな」

 ぶっきらぼうな声がした方を見ると、冷たい瞳でランスロット様がこちらを見ていた。

 アルベルト様が無言で席に戻ると、隣にいたレベッカ様が白いハンカチを渡してくれた。

「あの⋯⋯生まれた王子様の名前は⋯⋯」

 その子は私が産んだ子だ。

 なぜだか確信があった。

「エミリアンだ。子にそのような自分の所有物のような名前をつけ、自分だけ国に帰る。自分の代わりに人質にしろとでも言いたげだな。エミリアーナ・サマルディー⋯⋯争いの火種を撒いて楽しんでいるような女だ⋯⋯」

 ランスロット様が軽蔑するように淡々とエミリアーナ様を語る。

「何だか、悲しい方ね。血を分けた子を自分の身代わりにするなんて⋯⋯」

 レベッカ様の言葉に胸にひゅっと冷たい空気が入ってくる。

「み、身代わり?」

 私の掠れた呟きに反応するようにアルベルト様が口を開いた。

「スペンサー王国とサマルディー王国の戦争は避けられないだろう。どちらが勝っても死の運命にあったのがエミリアーナ王妃だ」

 私は自分の浅はかさに鳥肌がたった。

 今、将来、死の運命しか残されていないのは私の産んだ子エミリアンだ。

(どうして、あの時にエミリアンを置いてきてしまったの?)

 後悔しても遅い。

 私は自分の子を見捨てて逃げてしまった。

 国王の子だから大切にされるだなんて甘い考えをしていた自分が憎い。

 ふと、下を向いていると私の手にそっとレベッカ様が手を乗せてきた。その温かさに慰められてる自分が許せない。

「セーラ、君は今何を考えているのだ?」

 ランスロット様が静かに私を見据えている。自分の最低な所業を打ち明けたくなりながらも、この家の人に軽蔑されるのが怖くて押し黙った。

 扉をノックする音と共に、執事が困ったような顔をして入ってくる。

「レベッカお嬢様、ヘンゼル皇太子殿下がお見えです」

 殿下はレベッカ様のことが待ちきれなくて迎えに来たのだろう。

 迎えに来てくれる人がいる彼女を羨ましか思っていると、舌打ちと共に不満げな彼女の声が頭の上から聞こえた。

「全く大人しく待ってなさいよ⋯⋯鬱陶しい」

 驚きのあまり彼女の顔をみると、薄く微笑みを讃えて完璧な貴族令嬢の顔をしていた。

「レベッカ、待ちきれなくて迎えに来てしまったよ。今日から、ずっと一緒に居られるのだな」

 扉から顔を出した薄茶色の髪にエメラルドの瞳をしたヘンゼル皇太子は、肖像画で見た印象よりも少し幼く見えた。

 深いグリーンの見るからに最高級の礼服を着た彼の佇まいは気品に溢れていて、オリタリア帝国の豊さと余裕の象徴のような方だと思った。

 頬を少し高揚させながら、愛おしそうにレベッカ様を見つめていている。

「殿下、レディーには長い準備がありますのよ。いつも一番美しい私を殿下にはお見せしたいのです。あまり、慌てさせないでくださいな」

 レベッカ様は美しく微笑んでいるのに、泣いているように見えた。

(ケント様と会えなくなるからよね)

 私は出発前にレベッカ様をケント様のところに連れて行くことにした。

「ヘンゼル皇太子殿下、レベッカ様の準備が済むまでお待ち頂けるでしょうか?」

「そなたが、レベッカの話していた侍女か。余はレベッカを待つのは苦ではない。いくらでも待てるのだ。ここで、久しぶりに公爵と話でもして待ってるよ」

 微笑みながら席についた殿下に、メイドが慌ててお茶を淹れている。

 私は少し驚いたような顔をしているレベッカ様を庭に連れ出した。

 (皇太子殿下は優しそうな方だけど、彼女が好きなのは庭師のケント様なのね)

 空は雲一つない青空が広がっていた。

 日差しがキツくて、慌てて日が当たらないようレベッカ様に手をかざす。

 私の様子を見て少し笑ってくれた彼女が前を向くと、整えられた庭には色とりどりの花を束ねたケント様が微笑みながら立っていた。

「どうして?」

「レベッカお嬢様、少し早いですがご結婚おめでとうございます」

「やめてよ⋯⋯私の気持ちを知っている癖に⋯⋯嫌がらせ?」

「お嬢様はご自分の気持ちは知っていても、私の気持ちはご存知ないですよね」

 ケント様はそう囁くと花束の中から向日葵を一輪取り出し、レベッカ様の髪に刺した。

「花言葉で告白? 相変わらずなんだから⋯⋯こんな事されたら戻って来たくなるじゃない」

「いつでもお待ちしております」

「とんでもない事を言うのね! あなたも早く結婚しなさいよ!」

 レベッカ様は顔を真っ赤にして、胸を抑えながら私の手を引いてケント様に背を向けた。

「セーラ、ありがとう⋯⋯もう、この思い出だけで一生生きていけそうよ」

 レベッカ様に感謝の言葉を告げられる。

 私はケント様としめし合わせた訳ではない。

 でも、彼もレベッカ様を想っている事は度々彼女の部屋の窓を切なそうに見つめていたので分かってしまった。

(このような素敵な女性から想われているのだから、当然ね⋯⋯)

 身分的に彼からレベッカ様に会いに行く事はできない。

 きっと彼は今日1人で彼女を想う気持ちの片づけをしているのだろうと思った。

「いえ⋯⋯『略奪愛』とかですか⋯⋯向日葵の花言葉」

 向日葵の花言葉を知りたくなった。

 花言葉で会話ができる程、通じ合う2人の間柄を感じたからだ。

「えっ? な、何を言っているの。向日葵の花言葉は『あなただけを見つめる』よ。全く何を言わせるのよ。本当にセーラは面白いんだから」

 声を出して笑う太陽のようなレベッカ様の幸せそうな表情に私まで嬉しくなった。

 

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