LOGINだが、颯楽が抵抗を示さなかったことは、今日花にとっても尚年にとっても、間違いなく良いことだった。今日花も、この件でこれ以上悩む必要がなくなった。彼女は腹をくくり、その日のうちに尚年へ、自分の決意を伝えた。彼女が「うん」と答えたその瞬間、尚年は彼女の後頭部を引き寄せ、そのまま口づけた。長い時間を経て、荒い息を吐きながらようやく離れ、額を合わせて言った。「……よかった、今日花。やっと、結婚するって言ってくれた。この日を、どれだけ待ち続けてきたと思う?」わずかに震える男の声を聞き、今日花は胸が締めつけられるような気持ちになった。苦しかったのは、彼一人ではない。かつて今日花が去る決意をし
尚年の言葉は、夕奈の幻想を容赦なく打ち砕いた。「……ない」「どうして?もし今日花がいなかったら、あなたを一番理解していたのは私よ。ずっとあなたの背中を支えてきたのも、私だけだった」夕奈の口調は次第に切迫していった。尚年は彼女をまっすぐ見つめた。「君は、そのどうしてすら分かっていない。それが理由だ」夕奈は、はっと息をのんだ。二秒ほどして、張りつめていた背筋がふっと崩れ落ちた。ずっと抱えてきた緊張を、ようやく下ろしたかのように。尚年の言葉は冷酷だった。だが、時に冷酷さこそが一番有効だ。中途半端に希望を持たせるほうが、かえって人を縛りつけてしまう。実際、夕奈自身が言っていた通りだ。
アシスタントが電話を取った途端、妙な表情を浮かべた。「社長……この電話、どうやら社長宛てのようです……」フロントからの連絡で、ある人物が名指しで尚年に会いたいと言っているという。尚年は眉をひそめた。こんな申し出に応じるはずがない。誰彼構わず会っていたら、きりがなくなってしまう。拒否しようとした、その時だった。アシスタントがゆっくりと、残りの言葉を口にする。「……その方、自分は小梁夕奈だと名乗っています」尚年は目を細め、視線を上げた瞬間、鋭い光が走った。「通せ」アシスタントはすぐにうなずいた。その後、尚年はまっすぐ応接室へ向かった。ほどなくして、扉が押し開けられ、一人の女性が
颯楽の説明を聞いて、今日花はようやく落ち着きを取り戻した。とはいえ、一日のうちにこれほどの大きな起伏を味わうのは、さすがに精神的にきつすぎる。「連れて行ったそのおばさん、どんな人だった?」「夕奈叔母さんにちょっと似てる気がした……」今日花が無意識に眉間を揉んでいた手が、ぴたりと止まった。夕奈――?体が勝手に反応したかのように、その名前を耳にした瞬間、心拍が早まり、ようやく静まっていた感情が再び波立ち始めた。そこへ、尚年がすかさず口を挟んだ。「もういい、颯楽ちゃん。こっちに来なさい」明らかに様子のおかしい今日花をちらりと見て、颯楽は少し迷った。それでも尚年に促され、彼のほうへと
颯楽がいなくなったと知り、尚年も危うくその場で会社を飛び出すところだった。ただ、電話を受けた時、ちょうど会議の最中だった。尚年が席を立とうとしたのを見て、株主たちは一斉に緊張と困惑の表情を浮かべ、口々に引き止めた。「浅川社長、どこへ行かれるんです?」「まだ出ていくわけにはいきませんよ。この件、結論が出ていないじゃないですか。方針が決まらなければ、今後どう進めるんですか」株主たちの矢継ぎ早の声に、尚年の苛立ちは一気に高まった。彼は横目で一瞥した。その冷え切った眼差しに、場の空気が瞬時に凍りつき、誰もが言葉を失った。「今は、もっと重要な用事がある。ほかのことは戻ってからだ」株主たちは
――ママ、どうしてまだ来ないんだろう……その時、黒いワンピースを着た、長い髪の女性が近づいてきた。彼女はしゃがみ込み、とても優しい声で尋ねた。「あなたは颯楽ちゃん?」颯楽はその見知らぬおばさんを見つめ、しばらく黙り込んだあと、ぱっと目を見開いた。夕奈叔母さんにそっくりだ……けれど確信は持てず、そう言うしかなかった。「おばさん、なんだか見たことある気がする」夕奈は自分の腰にも届かない小さな子どもを見下ろし、これが今日花と誰の子なのかを悟ると、瞳の奥に一瞬、複雑な色をよぎらせた。「お母さんとは……とても親しいの。友だちみたいなものよ」「じゃあ、ママが来ない理由、知ってる?」「途中







