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6話

مؤلف: 東雲桃矢
last update تاريخ النشر: 2026-05-18 11:00:14

 湯浴みも食事も終えたマリアネラは、与えられた部屋に戻った。城に運び込まれるまで色々大変だったが、久方ぶりのまともな食事や入浴で張り詰めていた心がほどけ、眠くなった。

 心配事は多々あるが、マリアネラ自身が元気にならないと、解決の糸口は見えてこない。それに、この部屋には時間つぶしできそうなものはひとつもない。

 そろそろ寝ようと、掛け布団を持ち上げる。それと同時に、ノックが聞こえた。

「はい」

「入るぞ」

 その声がチェセルのものだと理解する前に、彼は部屋に入ってきた。何故か片手にハープを持って。

「どうなさいましたか?」

「夜にまた来ると言っただろう」

「それは、そうですが……」

 マリアネラとしては、疲労が限界に来ているため、はやく眠りたいところだ。だが、自分は今、彼の奴隷だ。言うことは聞かないといけないだろう。

「ふん、まぁよい。お前は確か、ハープが得意だっただろう」

 そう言ってチェセルは、持ってきたハープをマリアネラの膝の上に置く。そのハープ自体は新品のものだが、手にしてみると、戦争前の自分は、東屋などでハープを演奏していたことを思い出す。それと同時に、ささやかな趣味のことさえ忘れるほど酷い生活をしていたと実感した。

「どうした?」

 何も言わず、じっとハープを見つめているマリアネラを、チェセルは怪訝そうに見る。

「戦争が始まってからは、ハープを弾く時間などなかったので、すっかり忘れていました」

「王族でさえ、それほど過酷だったのだな」

「えぇ、そうですね……」

 思い出すのは血の匂い、怒声、悲鳴、刃物がぶつかり合う音……。そして、質素な食事を摂りながら、地下に隠れていた日々と、地獄のような奴隷市場。この城に来るまで、本当に色んなことがあって、多くの命が犠牲になってきた。

「ここには、お前を脅かす者などおらん。弾いてみろ」

 チェセルはそう言うが、マリアネラはハープが趣味だと忘れるほど過酷な生活を送ってきた上に、何年も触っていない。以前のようにうまく弾ける自信など、これっぽっちもない。

「どうした、弾いてみろと言っているだろう」

 なかなか弾こうとしないマリアネラに、チェセルはもう一度声をかける。

「先程も言いましたが、ハープを弾く余裕がなかったので、弾いていたことさえ忘れていました。きっと、人様にお聞かせできるほどではありません」

「構わん、弾け。弾くまでここから出ないぞ」

 椅子にふんぞり返って座るチェセルに呆れ返り、渋々弾いてみる。最初はぎこちなかったが、体は覚えていたらしく、すぐに美しい音色を奏でられるようになった。

(演奏って、こんなに楽しかったのね)

 先程までの強烈な睡魔はどこへやら。短い曲を1曲演奏して終わろうとしていたのに、それなりに長い曲を追加で2曲演奏した。数年ぶりの演奏はマリアネラの笑顔や弾む心を取り戻してくれた。

 演奏を終えると、チェセルは拍手を送ってくれた。1人分の拍手が部屋に響くのはどことなく物悲しさがあるが、マリアネラの心を満たしてくれた。

「素晴らしい演奏だった。今夜はもう安め」

 マリアネラは声をハープをくれたお礼を言おうとしたが、チェセルは呼び止める前に部屋から出ていってしまった。

「まったく、自由というか、自分勝手というか」

 声こそ呆れ返ったような声だが、マリアネラは嬉しそうにハープを見つめた。まだ不安は拭えないが、なんとかなるような気がしている。

「ありがとう、チェセル王子……」

 そっとハープを撫でながら呟くと、ハープをサイドテーブルに置き、今度こそベッドに潜り込んだ。マリアネラは久しぶりに夢も見ないほど深い眠りに落ちるのだった……。

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