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第3話

Author: 甘菓子
連絡を絶っていたことが気に入らないのか、怜司は莉緒をじっと見据えていた。

莉緒は唇を結び、勇気を振り絞ってその視線を見返した。

「久世さんでも、どうでもいい遊び相手の心配なんてするんですね」

いつも素直で従順だった莉緒の思いがけない反発に、怜司は微かに目を見張った。そのまま衝動的に彼女を引き寄せ、腰にきつく腕を回す。

「遊び相手?2年一緒にいて、手を出したのはあの1回だけだぞ。それで遊び相手っていうのか?」

莉緒には、なぜ怜司が急に怒り出したのか分からなかった。顎を強引に掴まれ、そのまま唇を奪われそうになった、そのときだった。

「怜司、こんなところにいたのか。沙織が捜してるぞ」

声をかけられ、怜司は眉を寄せて莉緒を放した。

「分かった。すぐ行く」

莉緒は驚いたふりをして尋ねた。

「お姉ちゃんと知り合いなの?」

「ただの知り合いどころじゃないよ。2人の関係を知ったら、腰を抜かすぞ」

怜司の友人が面白がるように答えた。

2人が去ると、莉緒の目にかすかな嘲りが浮かんだ。彼らは莉緒がまだ何も知らないと思い込み、今日この場で恥をかかせるつもりなのだろう。けれど莉緒は、すでに気持ちを整理し、怜司との関係を終わらせるつもりでいた。

宴が賑わいを見せるなか、ふいに会場の照明が落ちた。続いてステージにスポットライトが当たり、スーツ姿の怜司と、彼の腕に寄り添う白いドレス姿の沙織が照らし出された。

正雄は満面の笑みで招待客たちに静粛を促すと、声を張り上げた。

「本日は、留学を終えて帰国した沙織を祝うとともに、皆さまにうれしいご報告がございます。

桐谷家と久世家は古くから親交があり、沙織と怜司くんの婚約も、何年も前に取り決めておりました。

この度、2人の気持ちも固まり、月末に婚約披露パーティーを開くことになりました。ぜひ皆さまにも、子供たちの幸せを見届けていただければと存じます」

挨拶が終わると、怜司の友人たちは一斉に莉緒へ視線を向けた。彼女がショックで取り乱す姿を期待しているのだ。

しかし莉緒は人だかりの中に静かに立ち、表情を崩すこともなかった。まるでステージ上の出来事など、自分には関係ないと言わんばかりだった。

沙織との関係を知れば必ず取り乱すと思っていたのに、莉緒はあまりにも冷静だった。怜司は眉をひそめた。

なぜか苛立ちが募ったところへ、その変化に気づいた沙織が尋ねた。

「怜司、どうしたの?」

「何でもない。ちょっと考え事だ」

怜司はさりげなく視線を戻した。

莉緒が自分を深く愛していることは分かっている。何も感じていないはずはなく、ただ強がっているだけだ、と怜司は思った。

……

莉緒は化粧室で冷たい水を使って顔を洗った。かつて怜司に夢中になっていた自分を思い返すと、愚かだったとしか思えない。

この2年間で、たった一度しか抱かれなかったのも、怜司が莉緒を大切にしていたからではなかった。そもそも、触れたいとさえ思われていなかったのだ。

莉緒が大切にしていた初めての夜も、怜司にとっては彼女の評判を地に落とすための材料でしかなかった。

会場に戻ると、正雄に呼び止められた。

「莉緒、来なさい。義理の兄になるんだから、きちんと挨拶をしろ」

莉緒は怜司の前まで行き、穏やかな笑みを浮かべた。

「お義兄さん、よろしくお願いします」

その呼び方に、怜司の顔がこわばった。だが沙織は気づかず、にこやかに莉緒へ話しかける。

「怜司が莉緒の大学の理事だなんて、さっき聞いて驚いちゃった。すごい偶然ね。困ったことがあったら、遠慮しないでお義兄さんに相談してね。これからは家族なんだから」

莉緒は奥歯をかみしめ、一言ずつ返した。

「お義兄さんに迷惑はかけません」

怜司の顔は見なかった。それでも、冷たく鋭い視線が自分に向けられているのが分かり、莉緒の体が震えた。

ひととおり挨拶を済ませて立ち去ろうとした莉緒に、沙織が腕を絡めた。

「せっかく久しぶりに会えたんだし、お話ししましょうよ。積もる話がたくさんあるの」

親しげに言いながら、有無を言わさず莉緒を休憩室へと連れていく。扉が閉まると同時に、沙織の笑顔は消えた。

「莉緒、あんた怜司とヤッたそうね。動画まであちこちに出回って、そんな下劣なやり方で彼の心を繋ぎ止められるとでも思ったわけ?

はっきり言っておくけど、怜司はあんたのことなんかこれっぽっちも好きじゃないわ。むしろ心底嫌ってる」

さらに、容赦なく続ける。

「あんたの母親は愛人だって噂も、私が怜司に流させたのよ。あんたに近づいたのも私がそうさせたから。

あんたが少しずつ怜司を好きになって、最後にはその怜司自身にめちゃくちゃにされるところが見たかったのよ」

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