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今度は偶然です

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-09-29 08:25:33

 週末。

 和江は朝から、いつもより丁寧に身支度を整えていた。

 向かうのは、九条グループが協賛する地域イベントだ。

 複数の企業がブースを出し、食品や雑貨の販売、子ども向けの催しなども行われるらしい。

 入場は無料。

 事前予約も必要ない。

「誰でも行けるんだもの」

 鏡を見ながら、和江は呟いた。

 九条の会社へ行くわけではない。

 美月にも、その両親にも会いに行かない。

 もちろん赤ちゃんを探すつもりもない。

 拓也との約束を破ることにはならないはずだ。

 会場は思っていた以上に混雑していた。

 家族連れも多く、ステージでは地元の団体による演奏が行われている。

 和江はパンフレットを受け取った。

 九条グループの名前は、すぐに見つかった。

 協賛企業として大きく掲載されている。

 さらにページをめくったところで、和江の目が止まった。

『開会セレモニー 協賛企業代表挨拶』

 その下に、

『九条グループ代表取締役 九条蒼真』

 と書かれている。

「やっぱり来るのね」

 和江は小さく息を吐いた。

 別に、待ち伏せではない。

 パンフレットを見るまで、蒼真が本当に来るかどうかは知らなかっ
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     週末。 和江は朝から、いつもより丁寧に身支度を整えていた。 向かうのは、九条グループが協賛する地域イベントだ。 複数の企業がブースを出し、食品や雑貨の販売、子ども向けの催しなども行われるらしい。 入場は無料。 事前予約も必要ない。「誰でも行けるんだもの」 鏡を見ながら、和江は呟いた。 九条の会社へ行くわけではない。 美月にも、その両親にも会いに行かない。 もちろん赤ちゃんを探すつもりもない。 拓也との約束を破ることにはならないはずだ。 会場は思っていた以上に混雑していた。 家族連れも多く、ステージでは地元の団体による演奏が行われている。 和江はパンフレットを受け取った。 九条グループの名前は、すぐに見つかった。 協賛企業として大きく掲載されている。 さらにページをめくったところで、和江の目が止まった。『開会セレモニー 協賛企業代表挨拶』 その下に、『九条グループ代表取締役 九条蒼真』 と書かれている。「やっぱり来るのね」 和江は小さく息を吐いた。 別に、待ち伏せではない。 パンフレットを見るまで、蒼真が本当に来るかどうかは知らなかった。 偶然、今日ここへ来て。 偶然、本人も来ると知った。 それだけだ。 和江はステージの見える場所へ移動した。 しばらくすると司会者が登壇し、開会セレモニーが始まる。 何人かの関係者が挨拶をしたあと、名前が呼ばれた。『続きまして、九条グループ代表取締役、九条蒼真様より――』 和江は顔を上げた。 写真で何度も見た男が、ステージへ上がる。「あの人……」 美月の恋人。 拓也の代わりに、美月の隣にいる男。 そして、自分よりもずっと自由に孫のそばにいられる男。 蒼真は短く挨拶を終えると、関係者とともにステージを降りた。 和江は人混みの向こうに、その姿を目で追った。 何人もの人に声をかけられながら、蒼真が関係者用のスペースへ向かっていく。 今なら。 直接話せるかもしれない。 一歩、踏み出す。 だが、すぐに人の流れに遮られた。「すみません」 人の間を抜けようとする。 蒼真との距離は、少しずつ離れていった。「九条さん!」 思わず声を上げる。 周囲の何人かが振り返った。 けれど、蒼真には届かなかったらしい。「九条さん!」 もう一度呼ぶ。 今度は

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