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第3話

ときめき味の飴

厳はリビングで怒り狂った。

「お前はわがままだ」「理不尽に騒ぎ立てるな」と、私に怒りをぶつけてきた。

さらに壁に私を押しつけ、目を血走らせ、「いったい何がしたいんだ」と詰め寄った。

私は黙ったまま、ただ彼を見ていた。

彼が一番嫌がるのは、私の声だ。今、私はその願いを叶えてやった。

それなのに、彼は逆上している。

「やるじゃないか」

私を放し、冷ややかに笑う。

「お前、偉くなったな。離婚で俺を脅せると思ってるのか?

俺がいなきゃ、話し相手すらいなくなるんだぞ」

ゲストルームのドアをバタンと閉め、鍵をかけた。

私は冷たい壁にもたれ、そのまま床に崩れ落ちる。昔なら、泣きながらドアを叩いていただろう。彼に謝って、無視しないでほしいと懇願していたはずだ。

でも今は、ただ疲れ果てていた。

翌日は週末だった。厳の親しい仲間たちが月に1度集まる日だ。

彼は何事もなかったような顔でゲストルームから出てくるなり、冷たく言い放った。

「今夜、集まりに行くぞ。お前をないがしろにしてると思われたくない」

夜。個室に入ると、美桜もいた。真っ白なワンピースを着て、厳の右隣に座っている。

私が入っていくと、一瞬、部屋が静まり返った。

仲間たちが顔を見合わせ、含みのある視線を交わした。

「あ、雪乃さん来たね。座って座って」

直人が作り笑いを浮かべながら手を振った。

私は厳の左隣に座り、終始、口を開かなかった。

時間が経つにつれ、美桜が話題の中心になっていった。

飼い猫の話。観た映画の話。薬を飲み間違えた失敗談。どうでもいい話の一つ一つに、皆が相槌を打って笑っている。

厳は頬杖をつき、口元を緩めながら、彼女の話を愛おしそうに聞いていた。

「ねえ、雪乃さん、今日どうしてこんなに静かなの?」

直人が、いたずらっぽく私に話を振ってきた。

「昔は飲み会のムードメーカーだったじゃん。あのしゃべりっぷり、一晩中止まらなかったよな」

美桜が口元を押さえて笑った。

「そうそう。雪乃さんって本当におしゃべりだよね。厳、前に家でノイキャンイヤホンしてても声が聞こえてくるって愚痴ってたよ」

部屋中にどっと笑い声が響いた。

胸が、針で刺されたように痛んだ。私は厳を見る。

彼は止めようともせず、むしろグラスに口をつけている。この話題を嫌っている様子はなかった。

「まあ、からかいすぎだろ。

最近はちゃんと学んだんだ。俺がうるさいのが嫌いだって分かって、1日10回までしか話さなくなった。まあ、俺へのちょっとした埋め合わせってところだな」

「え、10回?」

美桜がわざとらしく目を丸くする。

「それ、すごく息苦しくない?雪乃さん、どうやって我慢してるの?

あたし、厳との付き合い方、教えてあげようか?

実は厳って、すごく気が長いよ。あたしなんて毎日何十件もボイスメッセージを送ってるけど、全部ちゃんと聞いてくれるんだから」

足元から頭まで、怒りと屈辱が一気に込み上げてきた。

彼らは私の尊厳を踏みにじり、それを酒の肴にしている。

そして、その場に私を突き落としたのは、3年間愛した夫だった。

そのとき、店員が熱々のスープが入った鍋を運んできた。

美桜が立ち上がる。

「あたしが受け取ります」

そう言って手を伸ばした。いいところを見せたいのだろう。

「熱いですよ」と店員が注意するのも聞かず、彼女は手を伸ばす。

次の瞬間、熱いスープが私の右腕に勢いよくかかった。

「ああっ!」

激痛が走り、思わず悲鳴が漏れた。私は椅子から飛び上がる。

「雪乃さん!ごめんなさい、ごめんなさい!わざとじゃないの。あたし、手が滑っちゃって……うう……」

美桜は私より大きな声で泣き出し、厳の胸に飛び込んで震えている。

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