LOGIN離婚の日、荷物を整理している時に、妻の家計ノートを見つけた。 その中には、私たちが一緒に歩んできた日々の出費の記録だけでなく、 妻が私のために作った採点表も挟まれていた。 交際初日から始まり、私ですら忘れてしまった些細な出来事の一つ一つを、 妻は赤いペンで細かく書き留め、10点、20点と加点していた。 だが、記録が進むにつれ、減点項目がどんどん増えていくのが見て取れた。 そして最後に、妻は黒いペンでこう書いていた。 「彼はもう、私を愛していた高瀬鶴也ではない-100点」
View More離婚冷静期間が終わりに近づく中、弁護士の吉川裕太から公務的な口調でメッセージが届いた。「私のクライアントは、あなたの嫌がらせ行為に耐えられず、連絡先をブロックするしかありませんが、離婚証明書の受け取り時間を忘れないでくださいとお伝えします」私は相変わらず頑固に返事を送った。「冷静期間中、私は離婚に同意しません。そうすれば、離婚証明書は受け取れません」「それは問題ありません。他の方法を選びます。例えば、裁判所で争うか、あるいは2年間の別居です。私のクライアントはどちらでも構いませんと言っています。そして、クライアントから以下のメッセージを伝えるようにと頼まれています」「7年前、彼女があなたを選んだ時、今日のような状況を想像していませんでした。しかし、彼女は当時の選択を後悔していません。7年後に高瀬鶴也が犯した過ちを、7年前の高瀬鶴也のせいにするべきではないのです」「彼女は自分の7年前の選択に責任を取るつもりです。そして、あなたもまた、自分の選択の結果を受け入れてほしいと言っています」これはすべて私自身が招いた結果だ。どれだけ自分を欺いても、どれだけ合理化しても、私と結菜の行為に対する言い訳にすぎない。それはただの逃避だ。私は曖昧な関係の瞬間を楽しんでいた。その痕跡が、私と伊織の落ち着いた生活に影響を与えることを暗黙のうちに許していた。最初はその痕跡が私と結菜だけの秘密だと思い込んでいた。だが現実は違った。私たち三人全員が、その事実を理解していたのだ。ただ、伊織は心があまりにも優しかった。最初は沈黙して私の過ちを耐え忍び、やがて鋭く率直な言葉を投げかけるようになった。それは、彼女が私に与えた無数のチャンスだった。あの減点の数々は、彼女の愛が薄れる証ではなく、私を手放す決心を積み重ねるものだった。最後に、私は財産をより多く譲渡することで、一度だけ伊織と話す機会を得た。道中、どうすれば一筋の希望を掴めるか必死に考え続けた。しかし、実際にドアをノックして伊織に会った瞬間、頭の中が真っ白になり、ただ駄々をこねるような言葉しか出てこなかった。「伊織、100点の減点じゃ足りないんだ。俺、前にたくさん点数を貯めすぎたからさ」伊織はドアに寄りかかり、まるで面白いジョークを聞いたかのように笑い声を上げた。「ごめんなさい、最終的な解釈
結菜が訪ねてきたのは、私が引っ越しの準備をしている最中だった。彼女はマンションの入り口でしゃがみ、いつものように可哀想な様子を装っていた。「鶴也、聞いたわよ。あなたと伊織さんが離婚するんだって」口調は悔しそうに見せかけていたが、その内側に隠しきれない興奮が滲み出ていた。私は冷笑し、冷たい声で返した。「そうだよ、満足した?これ全部、あなたのおかげなんじゃないか?」その一言に、結菜の顔色が一瞬凍りついた。不安と動揺が表情に浮かんだが、すぐに取り繕って、弱々しく言い返してきた。「鶴也……なんでそんなこと言うの……私、本当に何もしてないの。伊織さんがそんなに敏感だなんて知らなかっただけ。私が彼女に謝るから、きっと彼女もあなたを理解してくれるはずよ……うぅ……」いつもなら、このような演技に付き合う余裕があったかもしれないが、今はそんな気になれなかった。この瞬間、私はようやく認めざるを得なかった。結菜の稚拙な曖昧な振る舞いが、私自身が黙認してきた越線行為であることを。「私たちの秘密」とされていたものも、日常会話に変わり果てたメッセージのやりとりも、全てが越界の証拠だった。「もうやめろよ」私は言った。「お前が何を考えているのか、俺が知らないとでも思ってるのか?」「伊織でも見抜ける手口を、俺が見抜けないとでも思ったのか?」結菜の涙は頬を伝い、表情には動揺がはっきりと浮かんでいた。「何を言っているのが分からない……」「わかっているだろう。お前は俺の甘さを感じ取って、それに付け込んで好き勝手やってきた。なら、今の俺の拒絶の意味もわかるはずだ」私は余裕を見せるように彼女をじっと見つめた。結菜の顔色は次第に変わり、最終的に彼女は取り繕うのをやめ、苛立ちを露わにした。「鶴也、私をからかってるの?!」「そんな酷い言葉を使うなよ。俺はお前に何の約束もした覚えはない」「自惚れるなよ。お前が伊織に勝てると思っているの?その下手くそな三文芝居でか?」結菜は鋭く私を睨みつけた。長い沈黙の後、彼女は冷たい笑みを浮かべた。「そうだね、私の三文芝居なんて伊織でも見抜けるくらいだもの。なら、あなたが私に許してきたこと、彼女が見抜いていないとでも思う?」彼女は笑い始めた。その笑いはまるで、人生最大の皮肉を見たかのようだった。私は心
「もし私があなたに有罪判決を下したら、この写真は今あなたの携帯電話にあるのではなく、すでにあなたの会社の幹部のメールボックスに送られているはずよ」伊織は冷静な声で言った。「鶴也、あなたと彼女がどんな関係であれ、どうして今日という日に私をこんなに辱める必要があるの?」「今日は私の画展だったけど、会場にはあなたの取引先や大事なゲストも来ていたわ。それなのに、私にどうやってあなたの欠席を説明しろと言うの?『アシスタントとホテルで恋愛ドラマを演じてました』ってでも言えばいい?」伊織の声には深い疲労感と抑えきれない屈辱が滲み出ていた。その言葉に、私は言い返すことができず、ただ沈黙するしかなかった。そしてその沈黙の中で、一方的に電話を切った。「鶴也の心が遠ざかった-20点」後半の評価項目には、赤い加点項目がほとんど見当たらなかった。それどころか、マイナスばかりが目立つようになり、現実でも私と伊織の関係はますます悪化していた。私はシートを最後の行までめくった。そこに記されていた日付は3ヶ月前、彼女が離婚を申し出た日だった。彼女の字はいつも以上に滑らかで、迷いがないように見えた。「彼はもう、私を愛していた高瀬鶴也ではない -100点」その日は私たちの結婚記念日だった。私たちはしばらく冷戦状態にあったが、その日こそ話し合おうとお互いに決めていた日だった。私は最初にプロポーズしたあのレストランを予約し、高価なプレゼントと精巧な花束を用意していた。妻がそれを受け取った時、どんな顔をするだろうか。そんなことを想像しながら、彼女を喜ばせるつもりでいた。しかし、到着して目にしたのは、赤ワインを浴びて泣きそうな顔をした結菜と、その隣に余裕の表情で座っている伊織だった。結菜は泣きながら、いつものように聞き慣れた言い訳を並べ立てる。「ごめんなさい、伊織さん。本当に今夜、お二人がここに来るなんて知らなかったんです。本当に偶然なんです」「社長の周りに他の女性がいるのを嫌がるのはわかっています。でも、社長は決して伊織さんを裏切ったりしていません。私だけが勝手に彼に憧れているだけなんです。もしこれでも納得いただけないなら、私は辞職します」言い終わると、彼女は怯えたように私を一瞥し、小さな声で付け加えた。「社長、どうか誤解しないでください。私が……私
私は自分に言い聞かせた。伊織には昔から強がりなところがあり、今日の言葉もただ自分の尊厳を守りたいだけなのだと。彼女の感情は、あの評価シートの足し算や引き算に現れているはずだと信じ、自虐的に一つ一つ目を通していった。しかし、旅行の件以降、マイナスポイントがどんどん増えていることに気づいた。私が完璧だと思い込んでいた言い訳やごまかしは、彼女にはすべて見抜かれていたのだ。そして目に飛び込んできたのは、伊織が記した一文だった。「鶴也が私だけの時間を壊した-10点」その言葉を見た瞬間、私は拳を握りしめ、自分が本当に許されない人間なのではないかと強く感じた。伊織が卒業後に就いた仕事はマーケティングだった。彼女にとって最も嫌いな職種だった。彼女は幼い頃から絵を描くことが好きだった。しかし、家計が厳しく、彼女の趣味を支える余裕はなかった。それでも彼女は模写を通じて腕を磨き、専門的なレベルには及ばないながらも、それを誇りに思い、心から楽しんでいた。彼女は一度私にこう語ったことがある。「いつか自分でお金を稼げるようになったら、絵画教室に通いたい。もしプロの画家になれたら、それはもっと素敵だと思うの」当時の私は、若さゆえの自負心に溢れ、多くの賞や栄誉を手にしていた。大学の就職活動では、自分が本当に入りたいと思う会社にしか応募しなかった。そして当然のように、全て不採用となった。キャリアセンターは私のインターン先を心配して何度も電話をかけてきたが、私はその度に適当にごまかし、心の中ではただ理想の会社に履歴書を送り続けることだけを考えていた。私は伊織にこう言った。「経済学をこれだけ学んできたんだ。この会社に入るのが唯一の夢で、そこで一旗揚げたいんだ」伊織は何も言わず、私に次の面接の準備をしっかりするよう促した。そして、自分に届いた雑誌社からのオファーを断り、私の理想の会社のマーケティング職に応募した。その後、ようやく私はインターンシップの機会を掴んだ。しかし、給料は伊織のそれよりもさらにわびしいものだった。インターンの間、私たちは数平方メートルしかない地下室に住んでいた。伊織は暇な時に絵の仕事を受け、小遣い稼ぎをしていた。そんな彼女がよく私に言っていた言葉がある。「心配しないで。私はいつも、あなたが夢に向かって選ぶすべてをサポートする。ず