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番外編・第6話。

作者: 愛月花音
last update 最終更新日: 2025-06-09 17:41:52

『貴様はアホか? そんなのは上手くやれば、いくらでも回避はできる。つまり父上の演技と対応力次第だ』

「しかし……そうだ。エルザに事情を話して協力してもらえば」

『貴様は無能か? そんな事をしてみろ。下手な大根演技に誰が引っかかると思うか? すぐに聖女達に、ばれてしまうだけだ。父上みたいな無能な演技力を活かすためにも、母上には何も言うな。少しでも信憑性を出すためにもだ。分かったか? ヘタレ』

(大根演技とか、無能って……何気に酷くないか? 仮にも父親に対して)

 我が息子は、かなりの毒舌家だった。本当に父親だと思っているのだろうか?

『何だ? 不満なら辞退してもいいのだぞ? その代わりに父親の座を降りてもらうだけだからな。母上の代わりは居ないが父親候補は、いくらでも居る。そうだな、父上のイトコであるセインって男でもいいな。同じ皇族だし、元々母上を好いている。何ならいずれ皇帝に押し上げてやってもいい。それか母上の専属騎士の1人であるライリーって男でもいい。あれも伯爵家の長男だからな。それに聖女とは関わり合わないし、母上を慕っている。事情を話せば守ってくれそうだ』

「ちょっと待て。セインでもどうかと思うのに、何でライリーが!? そ、そんなのは許される訳がないだろう。エルザの夫と父親の座も私以外には居ない」

 そんなのは認めない。認めたくない。しかしクリスは鼻で笑った。

『父上……いや、貴様は何か勘違いをしていないか? 貴様の事情なんてどうでもいい。大切なのは母上の身の安全と我々を産んでもらう事だ。それすらできないのなら黙っててもらおう』

「な、何だと!? もう一度同じ事を言ってみろ」

 レイヴァンはクリスの言葉にカッとなって文句を言ったが、それでも強気な彼は

『何度でも言ってやるが?』と、返してくるので押し黙ってしまった。

 下手に余計な事を言ったら、その話が無しになってしまうような気がしたからだ。

 完全に信用はできた訳では無かったが、彼の実力は確かなものだと確信する。なら、そうなる前になんとかしないと……。

「わ、分かった。協力する」

 とにかく、その座は確保しないと。そう考えたら答えは決まっていた。

『良かろう。なら、これから重要な事をいくつか教えてやる。それをどう生かすかは父上次第だ。だが、これだけは言っておく。私はあくまでもサポートするだけだ。それをやるのは父
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