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わざわざ言うこと

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-10-04 19:00:23

 翌日の夕方、美月から電話がかかってきた。

「もしもし?」

『綾香、昨日は心配してくれてありがとう。もう熱っぽくないよ』

「それならよかったわ」

『うん。病院まで行ったのに診てもらえなかったのは残念だったけど』

「発熱があるなら仕方ないでしょう」

『そうだよね』

 美月は明るく笑った。

『でも、九条先生に会えたからよかった』

 綾香は黙った。

『あ、変な意味じゃないよ? せっかく行ったのに何もなく帰るのも寂しいなって思ってただけ』

「そう」

『九条先生、本当に綾香といる時と全然違うんだね』

「どういうこと?」

『この前はもっと優しそうに見えたから。昨日はすごくそっけなかった』

 少し拗ねたような声だった。

『私の名前も覚えてなかったし』

「一度会っただけだもの」

『そうなんだけどね』

 美月が小さく笑う。

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     ガーデンショップを出たあと、綾香と遥臣は近くのカフェに入った。 窓際の席に座り、綾香は買ったばかりの小さな鉢植えをテーブルの端へ置く。「今日はこれだけにしたのか」「増やしすぎても、お世話できなくなるでしょう?」「意外と冷静だな」「どういう意味?」「もっと買うと思ってた」「失礼ね」 綾香が笑うと、遥臣もわずかに笑った。 さっき美月と会った時には少し乱された気持ちも、いつの間にか落ち着いていた。「そういえば」 綾香は紅茶のカップを置いた。「さっきのことだけど、美月に何か言われても気にしないでね」「何を?」「私が嫌がったとか、怒ったとか」「ああ」 遥臣はあまり興味がなさそうだった。「君から聞いてるから分かってる」「ならいいの」「それより」「なに?」「嫌なら嫌だって言っていいんじゃないか」 綾香は少し目を瞬いた。「言ったわよ。少し嫌だったって」「なら十分だ」 簡単な答えだった。 綾香は思わず笑う。「遥臣って、そういうところは単純ね」「複雑にする必要あるか?」「ないのかもしれないわね」 少なくとも、遥臣との間では。◇◆◇ 夜になって、美月からメッセージが届いた。『今日はびっくりしたわ。偶然会うなんて』『そうね』『せっかく二人でいたのに、ごめんなさい』『別にいいわ』 少しして、また届く。『でも、九条先生に余計なことまで言っちゃったね』『そうね。あれは言わなくてもよかったと思うわ』 今度は返事が来るまで少し時間があった。『ごめんなさい』『私、綾香に嫌な思いをさせたことをちゃんと謝っておきたかっただけなの』

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     翌日の夕方、美月から電話がかかってきた。「もしもし?」『綾香、昨日は心配してくれてありがとう。もう熱っぽくないよ』「それならよかったわ」『うん。病院まで行ったのに診てもらえなかったのは残念だったけど』「発熱があるなら仕方ないでしょう」『そうだよね』 美月は明るく笑った。『でも、九条先生に会えたからよかった』 綾香は黙った。『あ、変な意味じゃないよ? せっかく行ったのに何もなく帰るのも寂しいなって思ってただけ』「そう」『九条先生、本当に綾香といる時と全然違うんだね』「どういうこと?」『この前はもっと優しそうに見えたから。昨日はすごくそっけなかった』 少し拗ねたような声だった。『私の名前も覚えてなかったし』「一度会っただけだもの」『そうなんだけどね』 美月が小さく笑う。『でも、ああいう人に特別扱いされるのって嬉しいでしょう?』「ええ」 綾香は素直に答えた。「嬉しいわ」『……そっか』 ほんの一瞬、美月の声が止まった。 けれど、すぐにいつもの調子に戻る。『いいなあ。私も理央には大切にしてもらってるけど、九条先生みたいなタイプも素敵だよね』「そうね。美月は理央ともずいぶん親しくしているのに、遥臣のことも随分気になるのね」『え?』 美月の声がわずかに上ずった。「最近、ずっと遥臣のことを聞いてくるでしょう? 連絡先も知りたがっていたし、昨日は病院まで行ったから」『病院は、本当に具合が悪かったからだよ』「そうなのね」 綾香はそれ以上追及しなかった。 ただ、静かに続ける。「理央とのことをあれだけ楽しそうに話していたから、少し不思議に思っただけよ」『もう、綾香ったら』

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