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思い出の味

Auteur: るな
last update Date de publication: 2026-10-20 22:05:06

俺は、麗奈を連れて食堂へやって来た。普段、あまり社員の前に出ることがない俺が、麗奈を連れて登場したことにより、その場の視線を一身に浴びた。

「世那、なんだか視線を感じるのだけど……私、ここに来ていいの?」

「もちろん。だから、麗奈さんは俺の隣に居て」

「分かったわ」

麗奈は顔を上げ、背筋を伸ばし、俺に笑いかけた。俺は麗奈の表情に思わず見惚れた。その表情は、当時、高校生だった俺が一瞬で恋に落ちた麗奈と重なった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

麗奈は、メニュー表を手に取り、眺めた。そして、気づいた。

「私の好きなメニューって、もしかしてビーフシチュー?」

「そう!」

「よく覚えてたわね」

「麗奈さんの事なら、全部覚えてるよ」

「そっか……」

一瞬、麗奈の顔が曇った。しかし、すぐにいつもの彼女に戻った。

「じゃあ、ビーフシチューが食べたい」

「一緒に注文しよう。券売機で食券買って、カウンターの店員さんに渡して」

「分かった。こういうの初めてだから緊張する」

「麗奈さん、食券買ったことある?」

「ないかも」

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  • 婚約者の裏切りを知った夜、私は彼の実弟に奪われた   君を守り抜く

    俺は倉木との話を終えると、急いで自宅へ向かった。先程から、麗奈にメッセージを送っているが、未だに既読にならない。電話を掛けても繋がらない。俺は、麗奈のことが心配で堪らなかった。 「天野社長、警備会社によると、先程、マンション周辺の警備員の配置が完了したそうです」 桑山は運転をしながら、バックミラー越しに俺の顔を伺い報告した。 「そうですか」 俺はスマートフォンを握り締めたまま答えた。警備員が増えた所で、麗奈の安否が分からなければ意味がない。 トゥルルルルルル…… その時、俺のスマートフォンが鳴った。俺はすぐに電話に出た。 「もしもし」 「もしもし、世那。返信が出来なくてごめんなさい」 その声は、紛れもなく麗奈だった。俺は心から安堵した。 「何かあった?」 「あの……お風呂に入ってて。メッセージも電話も気づかなかったの」 俺は腕時計を確認した。すると、いつの間にか時計の針は20時を回っていた。麗奈が入浴していても不思議ではない時間だった。 「麗奈さんに何も無ければいいんだ。兄貴は来てない?」 「ええ。今日は宅配便すら届かなかったわ」 「そっか。良かった。もうすぐ帰るから」 「分かった。待ってる」 「早く麗奈さんに会いたいな」 「私も世那に会いたい」 麗奈とは毎日会っている。それなのに、数時間、顔が見れないだけで恋しくなる。 「世那、今からドライヤーするから切るわ」 「うん。今夜は寒くなるから風邪引かないようにね」 「それなら、寒くなる前に帰ってきて?一人で眠ると寂しいから」 「分かった。急いで帰るよ」 電話が切れた。それでも俺は、しばらくスマートフォンを耳に当てたまま、麗奈との会話を思い返した。麗奈が俺にくれる言葉の全てが、俺にとっては夢のようだった。 何年も恋焦がれてきた麗奈が、今、俺を愛してくれている。それは、俺にとって奇跡だった。何度も諦めようとした。だけど、俺にはできなかった。だから、どんな手を使ったとしても、麗奈を手に入れると決めた。 「天野社長、自宅に着きました」 「桑山さん、ありがとう。遅くまで付き合わせてしまって申し訳ない」 「とんでもございません。天野社長こそ、お疲れのご様子なので、ゆっくりお休みください。明日の会議は、昼からに調整してお

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    俺は、恭吾が帰るとすぐに麗奈に電話をかけた。「もしもし、世那。どうしたの?」「さっき、兄貴が会社に来たんだ」「え……世那、何もされてない?」「俺は大丈夫だから安心して。ただ、兄貴が俺のマンションに行くかもしれない。だから、兄貴が訪ねてきても、絶対に家の中に入れないで。マンション周辺の警備も強化するけど、麗奈さんも十分に気をつけて。今日は、外出を控えて欲しい」「分かったわ」「用が済んだら、俺もすぐに帰るから」「私の事なら大丈夫。世那は、世那のやるべき事をして」麗奈の言葉が、俺の胸に響いた。俺のやるべき事。それは、麗奈を愛し、守り、彼女の望みを叶えること。「分かった。行ってくる」「行ってらっしゃい」俺は決意を胸に、通話を切った。 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「天野社長、こちらの病棟の5階に倉木の娘は入院しているようです」「分かりました」 俺は、倉木が娘の面会に来る時間に合わせて、病棟へやってきた。いつ、恭吾が証拠を消し去るか分からない。俺は一刻も早く、倉木と接触する必要があった。俺は病棟の入口の名札を一部屋ずつ確認し、倉木の娘の病室を突き止めた。俺は、病室の前で倉木が出てくるのを待つことにした。「また明日来るよ」「お父さん、仕事忙しいんだから無理しないでよ」父と娘の仲睦まじい会話が聞こえてきた。すると、直ぐに倉木が病室から出てきた。「あの、倉木慎二さんですか?」「あ、はい。あなたは……!?」俺の顔を見た倉木は、俺が誰だか分かったようだった。倉木の顔は、みるみる青ざめ、両手は震えだした。それらは、やましい事がある証拠にみえてならなかった。「僕の事を知っているようですね。ならば、話は早い。静かな場所で、ゆっくり話しましょう。僕は、倉木さんを警察に突き出そうなんて思っていません。だから逃げないで。話を聞きたいだけです」俺は努めて冷静に、そして、できるだけ穏やかな口調で、倉木に語りかけた。「はい、分かりました」倉木は騒ぐことなく、俺に着いてきた。俺は病院の地下駐車場へ向かった。俺が車に近づくと、待機していた桑山が運転席から出てきた。そして、後部座席のドアを開けた。「お疲れ様です。天野社長」「桑山さん、お待たせしました。倉木さんも早く乗ってください」「は、はい……」俺は、固まって、動けなくなっている倉木を急

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    翌日、俺は出勤するとすぐに、桑山を社長室に呼び出した。 「例の件の進展はありましたか?」 「はい。天野恭吾と協力関係にある職員の身元が判明しました。名前は倉木慎二。40歳。10年前から天野恭吾の勤める法律事務所で、財務担当をしています。詳しくは、こちらの資料をご覧ください」 俺は桑山からファイルを受け取ると、一枚ずつ資料に目を通した。すると、そこには気になる記載があった。 「中学一年生の娘は、入院中」 「そのようです。倉木は男手ひとつで娘を育てています。その娘は、長期入院中です。治療費も莫大だと考えられます」 「だとすると、あの100万円は……」 「断定はできませんが、娘の治療費を盾に、倉木は天野恭吾に、加担させられている可能性も考えられます」 「憶測かどうかは、本人に会って直接確かめます。倉木が行きそうな場所は分かりますか?」 「毎日、18時に、娘の病室を訪れているようです」 「では、今日の18時に僕もお見舞いに伺うとしましょう。桑山さん、準備をお願いします」 「承知しました」 桑山が社長室を退出すると、俺は煙草を1本取り出し、火をつけた。そして、窓から外を見下ろしながら煙を吐いた。俺は、子供の頃から、恭吾の事が嫌いだった。恭吾は、俺のことを散々罵った。あの屈辱は、今でも忘れていない。だから、俺は恭吾がどうなろうが知ったこっちゃない。全ては身から出た錆。自業自得というやつだ。 トゥルルルルルル... 煙草を吸い終わった時、内線が鳴った。俺は、受話器を取った。 「はい、社長室です」 「お疲れ様です。天野社長。ただいま、天野社長のお兄様だと仰る方が受付にお越しなのですが、お通ししてもよろしいでしょうか」 恭吾が来たようだ。遅かれ早かれ、俺の前に来るとは思っていた。さて、どうやって、恭吾を追い詰め、揺さぶりをかけようか。考えると胸が高鳴った。 「はい、通してください」 「承知しました」 俺は内線を切った。そして、社長の椅子に座った。もうすぐ、恭吾が社長室の扉を勢いよく開ける頃だ。俺は心の中でカウントダウンを始めた。 「世那!!」 ほらやっぱり。恭吾は、俺の名を叫びながら、社長室へ入ってきた。 「兄貴、何か用?」 「分かってるだろ!麗奈だよ!」 「だから昨日、説明しただろ」

  • 婚約者の裏切りを知った夜、私は彼の実弟に奪われた   恭吾の疑惑

    「痛っ」 私は痛みで目を覚ました。外はまだ真っ暗だ。しかし、隣に世那の姿は無かった。私はベッドから起き上がり、世那を探した。すると、リビングに明かりがついていた。そっとドアを開け、様子を伺うと、リビングの床に散らばった複数の書類を、真剣に凝視する世那が居た。 「世那、何してるの?」 私の声に、世那は驚いた様子で振り返った。 「麗奈さん、眠れないの?」 「傷が痛くて……」 「え!?今すぐ病院に行こう」 「大丈夫よ。休めば治るから。私の鞄に入ってる痛み止めを取ってくれる?」 「分かった。麗奈さんは座ってて」 世那は私を支え、ソファーに座らせた。 「薬と水だよ。他に欲しいものはない?」 「大丈夫。ありがとう。ただ、世那が寝るまでここに居てもいい?」 「いいよ」 世那は私をソファーに寝かせると、丁寧にブランケットを掛けた。そして、私から離れようとする世那の腕を掴んだ。 「世那、これは何?」 私は、床に散らばった書類に視線を向けながら尋ねた。すると、世那は観念したように重い口を開けた。 「麗奈さんには、確信をもってから伝えようと思ってたんだ。今日の兄貴の麗奈さんへの行動を見て、すぐにでも証拠を突き止めないといけないと思った」 「どういうこと?」 私は痛む身体を無理やり起こして、世那が話すのを待った。 「これが、ここ2ヶ月間の兄貴の行動と支払い記録。高級腕時計にブランドバッグ、それから、スイートルームへの宿泊、装飾品まで購入してる。あまりにも羽振りが良すぎるんだ。それで、更に調べたら、数ヶ月前から毎月、100万円をある人物の口座に振り込んでた」 「ちょっと待って。どこでこんな情報を?まさか、世那。危険なことしてないでしょうね?」 「してないよ。麗奈さんも知ってるでしょ?俺の秘書の桑山さん。彼は、元探偵なんだ。今は俺の右腕として、その手腕を発揮してくれてるよ」 「そうだったのね」 桑山とは、先日、世那の会社で初めて会った。物腰の柔らかい、人あたりの良さそうな男性だった。まさか、桑山にそんな過去があったとは、私は驚きを隠せなかった。 「調査を進めると、兄貴の振込先が、兄貴が勤める法律事務所の職員だということが分かった。だけど、俺が掴んだ情報はここまで。兄貴が会社の金を横領していると仮定すると、まだ証拠は不十分だ。これでは、兄貴を完全

  • 婚約者の裏切りを知った夜、私は彼の実弟に奪われた   後悔先に立たず

    世那は私にスーツのジャケットを羽織らせ、支えながら玄関へ向かった。しかし、その途中で母が私達の行く手を阻んだ。 「麗奈、どこへ行くの?」 「帰ります」 「そんなわがままが、許されると思ってるの?」 いつでもそうだ。母には私の言葉は届かない。今、こんなに心も身体も痛いのに、これ以上、傷を抉らないでほしい。私は俯いたまま、何も言わなかった。すると、私の代わりに世那が答えた。 「お義母さん、麗奈さんは気分が優れないようなので、お先に失礼します」 「ちょっと!待ちなさい!」 母は私の肩を掴んだ。 「麗奈、顔を上げなさい」 「嫌です」 「どうして、私の言うことが聞けないの!」 母は、右手を振りかぶった。私は痛みに備えて目を閉じた。 「いい加減にしろ!」 母を止めたのは、意外にも父だった。そして、父は私の元へ駆け寄り、私に手を伸ばした。しかし、咄嗟に、私はその手を拒んだ。 「どうして、あなたまで麗奈を庇うのですか?この子はもう……あなただって知ってるでしょ?」 「黙りなさい!私もお前も勘違いをしていたんだ。麗奈は何も悪くなかった。それなのに、私は、麗奈を信じず、取り返しのつかない事をしてしまった」 父は、自責の念に駆られながら私を見た。その目には涙が滲んでいた。今更、父に泣く資格などない。あの時、その優しさを、ほんの少しでも私に向けてくれていたら、未来は違ったかもしれない。 「もう終ったことです。あの時、私を信じなかった時点で、親子関係は破綻しました。今更、私は、父にも母にも何も求めていません。ただひとつ、私の人生に干渉しないでください。今度こそ、私は自分の人生を生きたいのです」 私は痛む身体に鞭を打ち、背筋を伸ばして、父と母に言い放った。それでも、母の私を見る目は、相変わらず冷ややかだった。 「麗奈、行きなさい。麗奈が望んでいなくとも、父さんはいつでも麗奈を助ける。どうか、忘れないでくれ。今まで本当にすまなかった」 父は私に深々と頭を下げ、謝罪をした。しかし、私は決して振り返りはしなかった。その代わり、私は世那の手を強く握った。これから先、私の隣を歩く人は、世那一人だけでいい。 「世那、行きましょう」 「うん」 すると、父が世那に声をかけた。 「世那くん、麗奈を頼む。どうか、幸せに」 「はい。必ず、麗奈さんを幸せにします」

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