LOGIN婚約者の浮気現場を目撃したその夜―― 橘美月(たちばな みづき)は迷うことなく婚約破棄を宣言した。 だが、失恋の傷を抱えた彼女の前に現れたのは、元婚約者の親友であり、帝都を支配する財閥御曹司・神崎蓮(かんざき れん)。 「俺と結婚しないか?」 一年十億円。 二年間の契約結婚。 ただし条件はひとつ―― 「俺に惚れるな」。 破格の条件に惹かれ、勢いで契約結婚を受け入れた姜曦。 しかし、冷酷無情と噂される蓮は、なぜか彼女だけには甘すぎる。 実は彼には誰にも言えない秘密があった――。 裏切られた令嬢と、彼女を密かに想い続けていた財閥御曹司。 これは、運命のように始まった契約結婚が、本物の愛へと変わっていく物語。
View More第196話 必ずあんたを嵌めてやる美月は、この男に心底うんざりしていた。何か言おうとしたその時、少し驚いた声が響いた。「橘さん、偶然ね!」玉緒は、満面に喜色を浮かべていた。靖は、突然の割り込みにも不快そうな顔ひとつせず、ただ意味ありげな笑みを浮かべた。そして口を閉ざし、そのまま美月の隣に立っていた。美月は玉緒を見て、目を細めた。玉緒は早足で美月の前までやって来たが、その視線は隣に立つ男に釘付けだった。その瞳には、隠しきれないほどの感嘆が浮かんでいる。「こんにちは。私は橘さんの同級生です。烏丸玉緒と申します……」この男は、女より美しいのに、女々しさが微塵もない。全身から、気高さが滲み出ている。着ているものは、すべてオートクチュール……何より、彼の手首に嵌めた腕時計は、ちょうど公式サイトで見たことがある。値段は、一億五千万。つまり、この男、とんでもない金持ちだ。そう思うと、呼吸まで荒くなってくる。靖は微笑んだ。「烏丸さん、こんにちは。まさか君が美月ちゃんの同級生だったとはね。よろしく」玉緒は、彼が美月を親しげに「みづきちゃん」と呼んだのを聞いて、顔に浮かんでいた笑みが固まった。この男は、美月と何なの?一方の美月は、靖の言葉に、心底吐き気がした。彼女の顔色がたちまち冷え込み、鋭い視線を靖に突き刺した。「白井さん、ご自重ください!私はあ
第195話 煩わしい美月は、斜めに彼を見た。「何? あなたのトイレでも見物しろっていうの? 私たち、そこまで親しくないでしょう。人違いよ」「……?」靖は数秒間ぽかんとした。それから、突然大笑いした。「ははっ、まさか、こんなに面白い女だったとはな!」どうしたものか。ますます興味を惹かれてしまう。美月は、彼に構うのも面倒で、余計な視線を向けることすら惜しかった。目の前に差し出された手を無視し、そのまま横へずれた。だが、靖はわざわざここで待ち伏せしていたのだ。そう簡単に行かせるつもりはない。「待ってくれ。少し、話したいことがあるんだ」そう声をかけられても、美月の足は止まらなかった。靖はそれを見て、手を伸ばして掴もうとした。だが、その手が美月に触れる前に、ひらりとかわされてしまった。「……」ちっ、まったく、すばしっこい。もう一度、手を伸ばした時には、美月の顔色が沈んでいた。「白井さん、ご自重ください!」靖は、片眉を上げ、ふてぶてしく笑った。「橘さん、俺がどこを自重してないっていうんだ? キスでもしたか? 痴漢でもしたか? どっちもしてないだろ? 俺はただ、ちょっと話がしたいだけだ」美月は、そのまま歩き続けた。
第194話 行く手を塞いだ「本当に、付き添わなくていいのか?」蓮は、どうにも心配で仕方がない。美月はその言葉を聞いて、思わず口元を引きつらせた。――トイレに行くだけよ。あんたが付いてきて、どうするっていうの?「……いいわ! ほら、翔太があなたを探しに来てるじゃない。早く行ってあげなさい」一晩中、べったりだったせいで、翔太の顔に浮かぶ恨みがましさは、今にも実体化しそうなほどだった。蓮は翔太に目をやると、心底嫌そうな顔をした。「分かった。何かあったら、俺に電話しろ」美月は頷いた。さっき、白井家の使用人に公衆トイレの場所は聞いてある。このまま、まっすぐ行けばいい……蓮は、美月が角を曲がって見えなくなるまで見送ってから、ようやく視線を戻した。「おい、いい加減にしてもらえないか?」いつの間にか、翔太がすぐそばに立っていた。その声には、苛立ちが滲んでいる。蓮は振り返って彼を見た。「何の用だ?」「……」翔太は言葉を失った。――いっそこのまま引き返してしまおうか……この男――どんだけ俺を邪魔扱いすれば気が済むんだ?……まあいいや。こいつがこういう奴だって、今さらだし。
第193話 ついにチャンスが巡ってきた雨子は、雪乃のあからさまな不機嫌さを見て取り、すぐさま胸の内で算段を始めた。「そういえば、優香ちゃんは大丈夫だった?」雪乃は彼女を見た。「優香が、どうかしたの?」「大丈夫ならいいんだけど……さっき、優香ちゃんが蓮を出迎えに行ったでしょう? まさか、あんなふうに恥をかかされるとは思わなくて。優香ちゃんは、ある種の人たちみたいに図々しい子じゃないから、きっと傷ついてしまったんじゃないかと思って。慰めてあげようかと思っていたところなのよ」雪乃は、その言い方に少し眉をひそめた。「優香は、おじいさまに言われて、来客の出迎えをしていただけよ。あの子はおおらかな性格だから、そんなこと、いちいち気にしたりはしないわ」「それもそうね。優香ちゃんは名門のお嬢様ですもの。市場育ちの人たちと一緒にされては困るわよね」雨子はふと何かを思いついたように、目を輝かせた。「優香ちゃんには、今、お付き合いしている方はいらっしゃるの?」帝都中の名門を見渡しても、優香ほど名門の嫁にふさわしい娘はいない。家柄も申し分ない。海外の名門大学を卒業しているうえ、本人も非常に美しい。まさに、自分の息子にふさわしい相手だ。雪乃はその言葉に、ちらりと雨子を見た……その瞳の奥に込められた意味を、瞬時に悟った。胸の内で、何かが動いた。瑛士も、婿として申し分ない。雪乃の口元に浮かんだ笑みが、わずかに深くなった。&nbs
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