LOGIN婚約者の浮気現場を目撃したその夜―― 橘美月(たちばな みづき)は迷うことなく婚約破棄を宣言した。 だが、失恋の傷を抱えた彼女の前に現れたのは、元婚約者の親友であり、帝都を支配する財閥御曹司・神崎蓮(かんざき れん)。 「俺と結婚しないか?」 一年十億円。 二年間の契約結婚。 ただし条件はひとつ―― 「俺に惚れるな」。 破格の条件に惹かれ、勢いで契約結婚を受け入れた姜曦。 しかし、冷酷無情と噂される蓮は、なぜか彼女だけには甘すぎる。 実は彼には誰にも言えない秘密があった――。 裏切られた令嬢と、彼女を密かに想い続けていた財閥御曹司。 これは、運命のように始まった契約結婚が、本物の愛へと変わっていく物語。
View More第286話 うちの娘を見下してるってわけ?とはいえ、胸の内に溜まった不満を吐き出してしまえば、気分がすっきりするのも確かだった。雨子も、昨日から抱えていた鬱憤をようやく晴らすことができた。二人はすっかり落ち着きを取り戻していた。「そういえば、兄さんと茜の件だけど……まだ会わせるつもりなの?」雨子は冷笑した。「もちろんよ。あとで志織に電話して、明日会う約束を取りつけるわ」「兄さんがそんな話、素直に聞くと思う?」詩には、兄が大人しく母の言うことに従うとは思えなかった。ところが、雨子は自信たっぷりに答えた。「承諾するわよ」詩は言葉を失った。……本当?あの兄が茜とお見合いするなんて、どうしても想像がつかない。詩は慎重に尋ねた。「どうして承諾するの?」雨子は得意げに笑った。「結婚する気がないなら、決まるまで毎週十回お見合いをさせるって言ってやったのよ」「それに、結婚すれば美月にはもうちょっかいを出さないし、これからあの女に会っても、にこやかに接すると約束してくれたわ」詩は目を丸くした。……なるほど、そういうことだったのか。「じゃあ、これから本当に美月に愛想よくするつもりなの?」
第285話 腹の虫が収まらない一方、桐生詩が帰宅したのは、翌日の昼だった。ここ数日、彼女は友人たちと一緒に海へ出かけ、遊び回っていたのだ。リビングのソファに座っている雨子の姿を見つけると、詩は思わず声を上げた。「ただいま!」だが、娘が帰ってきたというのに、雨子はさほど嬉しそうでもなかった。ちらりと一瞥しただけで、そっけなく答えた。「おかえり」詩は、雨子が不機嫌なのをすぐに察した。「どうしたの? 誰かにそんなに腹を立ててるの?」雨子はひどく不機嫌だった。何しろ、昨日の出来事で腹が立ったまま、まだ腹の虫が収まっていなかったのだ。「何でもないわ」それ以上、話すつもりはないという態度だった。詩はそんな雨子の隣に腰を下ろした。――今、帰ってきたばかりなのだから、母さんを怒らせるようなことをしたはずがない。母さんが一番かわいがっているのは兄さんだ。兄さんに腹を立てるなんて、まずありえない。となると……詩は目をくるりと動かし、探るように尋ねた。「昨日、気に入らなかったの?」――兄さんが三枝茜とお見合いする話は、母さんから聞いていた。昨日は自分が家にいなかったから、母さんに付き添えなかった。もしかして、会ってみたら何か気に入らないことでもあったのだろうか……
第284話 よりによって、こんなところで正直、美月はこれまで、こんなふうに大切に見送られたことなどなかった。家族全員がそろって空港まで見送りに来てくれるなんて。父が亡くなって以来、彼女は実の母にさえ疎まれ続けてきた。学費すら出してもらえなかったのだから、母親らしい気遣いや愛情を注いでもらえるはずもなかった。雅は相変わらず、あれこれと念を押していた。「着いたらすぐに電話するのよ。それから、もし蓮のやつが迎えに来るのに遅れたりしたら、それもちゃんと電話してちょうだい。あとで母さんがきつく叱ってやるから」清子も心配そうに、何度も繰り返し言い聞かせた。美月の胸は、じんわりと温かくなった。「分かりました。飛行機を降りたら、すぐに電源を入れて電話しますね。それに、ファーストクラスですから、少し眠っていれば、目が覚める頃には着いていると思います」頃合いを見計らい、源一郎が口を開いた。「さあ、そろそろ保安検査が始まる時間だ。もう美月を行かせてやりなさい」二人とも名残惜しくて仕方がなかったが、さすがに搭乗に遅れるわけにはいかない。「美月ちゃん、じゃあ、行ってらっしゃい」美月はうなずいた。「はい。皆さんも、もう帰ってくださいね」雅は少しでも長く美月と一緒にいたいようだった。「急がなくても大丈夫よ。保安検査場に入るまで、私たちはここで見送っているから」美月はそれ以上何も言わず、三人に手を振って別れを告げると、保安検査場へと向かった…&
第283話 自家用ジェットで送らせましょう蓮は、今日は本当にいいこと続きだと思っていた。――まず、美月が自分のところへ来てくれること。そしてもう一つは、瑛士がまたお見合いをすることだ。どちらも、この上なく喜ばしいことだ。「あいつらのことは本人たちに任せておけばいい。俺たちが口を出すことじゃない。そうだ、明日はそんなにたくさん荷物を持ってこなくていいぞ。こっちに来てから買えばいい。何でも揃うからな。荷物は少ないほうが楽だろ? 必要なものは全部、俺が用意しておくよ」――買えば済む話だ。できることなら、世界中のいいものを全部、彼女の目の前に並べてやりたい。ビデオ通話を終えると、蓮はさっそくデパートへ買い物に出かけた。美月はもともと、荷物をたくさん持っていくつもりはなかった。――お金に困っているわけでもないし、足りないものがあれば、向こうで買えばいい。「そういえば、いつ帰ってくる予定なの? こっちの予定も立てたいから」「半月くらいはどうだ? そうすれば、何日か多く遊べるだろ」蓮はすでに、どこへ遊びに行こうかと計画を立て始めていた。美月は少し考えてから答えた。「半月は長すぎるわ。十日にしましょう」――十日じゃ短すぎるだろ。だが、今ここで彼女に逆らうわけにもいかない。せっかく来てくれる気になったのに、また行きたくないと言い出されたら困る。どうせ、こっちに来てからでも説得する機会はある。まずは何と
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