ANMELDENエリュシオンというバーで働く遊び人の大学生、秋元修也。骨折したオーナーに代わって代理できた女性が試しに作ったカクテルを飲んで気を失ってしまう。 起きたら見知らぬ青年と共に閉じ込められていた。 部屋には様々なアダルトグッズや拘束具……。そして100本の媚薬。その近くには「媚薬を飲み切るまで出られない部屋となっております。よき媚薬ライフを♡」の文字が。 途方に暮れていると、青年が媚薬を飲み始めて……?
Mehr anzeigenここはバー・エリュシオン。静かな雰囲気で、30代以上の男女に人気がある店。今は閉店後の片付けをしている。
「アキトくん、今ちょっといい?」
「はい、美奈子さん」
アキトと呼ばれた金髪の青年が、掃除の手を止めてカウンターに入る。彼の名は秋元修也。映画鑑賞と女遊びが趣味の大学生。ちなみにアキトというのは源氏名のようなもので、エリュシオンではストーカー対策で本名を呼び合わないようにしている。
「モクテル作ってみたの。味見してみてくれない?」
美奈子はにっこり微笑んで水色のモクテルを差し出す。彼女は骨折したオーナーの代理で来ている。オーナーとは古くからの付き合いで、結婚する前に小さな飲食店を経営していたため、代理を頼まれたと言う。
「うわ、可愛い色ですね。女子好きそー」
「でしょ? 味も女の子が好きそうな味になったと思うんだけど、どうかな? アキトくんはモテるから、分かると思って」
「あっはは、買いかぶりっすよ」
笑いながら、美奈子の胸元に目をやる。バーテン服に隠れた胸は、意外と大きい。私服姿を何度か見たことがあるが、手に収まりきらないほどのサイズに見えた。
(ちょっと年上だけど、たまには人妻とかも良さそうだよな)
美奈子をどう口説こうか考えながら、モクテルを傾ける。モクテルはほんのり甘く、後から柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を突き抜ける。
「美奈子さん、これ絶対女子ウケいい、……あ、れ……?」
強烈な眠気が襲いかかり、立っていられなくなる。
(一服、盛られた、か……?)
「アキトくーん、大丈夫ー?」
妖艶に微笑む美奈子の口元を認識するのと同時に、意識を手放した。
「て……、起きてください」
「う、うぅ……」
誰かに体を揺すられ、目を覚ます。何度がまばたきを繰り返してから見上げると、見知らぬ男がいた。男は華奢で、薄茶色のふわふわした髪をしていた。白いワイシャツに黒いスラックスというシンプルな出で立ちだ。
(なんだ、コイツ……)
寝起きで回らない頭で男の顔を見る。中性的な小顔で、小動物を連想させる。おそらく、年下か同い年。
「誰だ、テメェ……」
体を起こし、あたりを見回してぎょっとする。自分と男は同じダブルベッドの上にいた。室内にはAVでしか見たことがないような拘束具があった。異様な光景に一気に目が覚める。
「な、なんだよここ!」
「僕にも分かりません」
男は困惑した様子でうつむく。
「僕も少し前に起きて、気づいたらこのベッドで寝てて……」
「マジかよ……」
「まずは、自己紹介でもしませんか? それから状況整理でもしましょう」
「あー、だな……」
特にほかに案があるわけでもない。修也は同意すると改めて男を見た。彼と同じように座ってみると、やはり自分より小さい。もっとも、修也の身長は186センチもあるので、大半の人間は小さく見えてしまうのだが。
「では、僕から自己紹介をしましょう。僕は臙脂朱音、小説家です」
「園児? 幼稚園?」
「ふふ、園児ではなく臙脂。色の名前です」
「へぇ……。よく分かんねーけど、本名じゃないことは分かった」
「はい、ペンネームです」
「エンジ、シュオンねぇ……」
(エリュシオンに似てんなー)
修也は自分が働くバーのことを思い出した。そして、美奈子から受け取ったモクテルを飲んで眠くなったことも。
「あんのババア!」
腹が立って声を荒げると、朱音が小さく肩を震わせる。
「自己紹介もせずにいきなり怒鳴らないでください」
「思い出したんだよ! 俺、エリュシオンっていうバーで働いててさー。美奈子っていうババアに、モクテルの味見頼まれて、それ飲んだら眠くなったんだよ!」
「そうでしたか……」
修也の話を聞き、朱音は顎に手を添えて考える素振りを見せる。
「そう言えば僕も、渡されたドリンクを飲んで眠くなりましたね……」
「んだよ、誰かに仕組まれたってことか!?」
「えぇ、そうでしょうね。とりあえず、君の名前を聞かせてもらっても?」
朱音に言われ、まだ自己紹介していなかったことに気づく。
「あ、わりぃ。俺は……、アキトだ。よろしくな」
彼が本名を名乗っていないことが気になり、修也も源氏名を名乗ることにした。本名を明かさない相手に教える名前は、それしか持ち合わせていない。
「アキトくん、ですか。改めて、よろしくお願いします」
朱音は手を差し伸べて微笑む。この状況に似合わない穏やかな雰囲気に飲まれ、つい握手に応じる。
一方その頃、とある施設のスクリーンルームでは、多くの女性が感動の涙を流し、スクリーンに向かって拍手を送っていた。巨大なスクリーンに映し出されるのは、修也と雪久。ふたりは互いの手を握り、何度もキスをしている。「今回も最高のカプでしたね!」「えぇ、本当に。女たらしバーテンダー攻め、穏やかな小説家受け、ごちそうさまでした」「美奈子さんマジでナイスすぎた。朱音くんの相手、どんな人かずっと悩んでたもんね」 彼女達は金と権力を持て余したBL愛好家。街の監視カメラを一通り買収し、好みの美男子達を見つけては、媚薬ルームに閉じ込めて観察してきた。 今流れている映像も、買収した監視カメラや隠しカメラで撮れた映像を編集でつなぎ合わせ、1本の映画にしたものだ。 修也に睡眠薬をのをませた美奈子も、雪久に睡眠薬を飲ませた新しい担当も、愛好家達の一員だ。「ちょっと、私もいい仕事したと思わない?」 不満そうに言ってワイングラスを傾けるのは、修也のセフレのひとりで、彼の背中を押したエリ。もちろん彼女も一員だ。「そういうこと、自分で言っちゃう?」「まぁまぁ、いいじゃないの。エリさんの協力で、いつもよりいいものが見れたのは確かなんだから」 赤いドレスを身にまとい、シャンパンを傾ける女性が微笑む。「会長! 会長がそうおっしゃるのなら」「大きく貢献してくれたエリさんには、くじをひいてもらいましょうか。特別に2枚引いていいわよ」 会長はエリにくじ箱を差し出す。このくじ箱の中には、美男子リストに書かれた男達の職業と名前が書かれた紙が入っている。くじで選ばれたふたりが、媚薬ルームに閉じ込められ、映画の主役にされる。「ありがとうございます、会長」 エリはくじ箱に手を入れ、2枚の紙を引く。「会長、お願いします」 会長はエリからくじを受け取ると、マイクを片手に持った。「次のターゲットは、フリーターの井上誠と、資産家の雨宮祐介です」
「アキトくん、顔を上げてください」 言われて恐る恐る顔を上げると、朱音は優しく微笑んでいた。「僕も、謝らないといけませんね」「お前が謝るようなことなんて、何もないだろ」「いいえ。君が謝ろうとしてくれていたこと、分かってたんです。でも、怖くて拒絶して、謝罪の機会を奪ってしまった……。この1ヶ月、君を苦しめてしまいましたね……。すいません」 深々と頭を下げる朱音の肩を慌ててつかみ、体を起こさせる。「やめてくれって……」「アキトくん……。僕としては、このまま曖昧な関係は続けたくありません。ですので、僕と付き合ってくれますか?」「俺も、お前と付き合いたいって思ってた……」「では、これから恋人として、よろしくおねがいしますね」 ふたりはどちらからともなく唇を重ね、暗黙の了解と共に契約を破棄した。「朱音……!」 感情が高ぶり、思わす彼を押し倒す。朱音は一瞬驚くも、妖艶に微笑んで見せる。「僕は逃げません。だから、焦らないで?」 その仕草で修也の理性は完全に崩れ、朱音の服を剥ぎ取るように脱がせ、1ヶ月ぶりにその体を貪った。 喧嘩の後の仲直りセックスは気持ちいいと、昔誰かが言っていた。どうやらそれは事実なようで、ふたりは時間を忘れ、互いを求めあった……。 翌日の昼、修也は目を覚ました。辺りを見回すと、見慣れない部屋。そして自分の膝を枕にして寝ている、愛しい恋人。「はぁ……。俺って成長しなすぎじゃね?」 気持ちよさそうに眠る朱音の髪を撫でながら、がっくり肩を落とす。若さのせいなのか、朱音があまりにも魅力的だからなのか、つい加減を忘れて朱音が失神するまで抱いてしまう。「でもまぁ、エロ過ぎるコイツも悪いし……」 そっと朱音の頬に触れると、彼の頭をゆっくり持ち上げて自分の膝を抜き、そのかわりにクッションを挟む。 台所を探して冷蔵庫を開けるが、食材はほとんど入っていない。修也はリビングに戻って服を着ると、近くの店で食料品を買い、調理を始める。 朱音は少しやつれていた。きっと、しばらくまともに食べていないのだろう。それは間違いなく自分のせいだ。だったら、少しでも美味しいものを食べさせて罪滅ぼしがしたい。「アキトくん……?」 食材を煮込んでいると、朱音が目をこすりながら台所に入ってくる。「いいにおい……」「今飯作ってるから、もう少し待っててくれ
「ここ。さ、降りた降りた」「いや、まだ心の準備が」「いいからいいから」 晴太に無理やり降ろされ、玄関の前まで引っ張られる。身長こそ大差ないが、筋肉量が圧倒的に多い晴太に叶うわけもなく、がっしり腕を掴まれたまま、晴太がインターホンを押してしまった。 玄関は数秒後に開き、少しやつれた朱音が出てきた。朱音は修也を見るなり、目を丸くする。「海道急便でーす。返品不可でーす」 晴太は修也を玄関に押し込み、ドアを閉めてしまう。朱音は避けることも修也を受け止めることもできず、ふたりで玄関に倒れ込む。「いってぇ……」「なんて強引な……。僕の上から退いてもらえますか?」「え? あ、悪い」 朱音に言われて彼の上に倒れ込んでいたことに気づき、慌てて退く。朱音は立ち上がって服の埃をはらい、ため息をつく。「まさか、晴太が君を連れてくるとは……。帰ってくれますか? 君が来るだなんて聞いていませんので」 冷たく言われ、ショックを受ける。こんなに冷たい朱音は、見たことがなかった。(怯むな、俺) 自分に言い聞かせると、朱音の腕を掴む。「海道さん越しで来たの、ホントごめん。でも、こうでもしないと会えないと思って」「残念ながら、作品を書き終えたので、あなたはもう用済みなんですよ。残念でしたね、金づるがなくなって」 嫌味っぽく言う朱音だが、その目には涙が溜まっていた。そのいじらしさに胸が締め付けられ、気づけば彼を抱きしめていた。「ごめん、本当にごめん……。俺、サイテーだった……」「離してください」「頼む、話を聞いてくれ!」 少し体を離し、朱音の目をまっすぐ見つめる。しばらく見つめ合った後、朱音は諦めたようにため息をつく。「……分かりました。ここでは冷えるので、こちらへ」「ありがとう……」 朱音の案内でリビングに行くと、ソファに座るように促される。「お茶を淹れてきます」「お茶なんていい。聞いてくれ」 このまま逃げられてしまう気がして、反射的に腕を掴む。朱音はため息をつきながらも、隣に座ってくれた。「それで、話って?」「あの日のこと、本当にごめん! あの女に言ったのは、全部ウソっていうか……」「へぇ……」 軽蔑の目に気づき、ただでさえ焦っているのに、余計焦ってしまう。「本当はお前のこと好きで、でも、今まで男同士なんて気持ちわりーって思ってたから、
男が来たのは有料駐車場だ。黒い普通車の鍵を開けると、修也に振り返る。「先に乗ってて」「あ、はい……」 呆気にとられながらも助手席に座る。程なくして、支払いを終えた男が戻ってきた。「なんで車なんすか? バーに来たのに」「今日はモクテルを飲もうと思ってたんだよ。俺、バーの空気は好きだけど、酒はそんな強くないからさ」「そうだったんすね。あーっと、名前……」「はは、名乗ってなかったっけな。俺は海道晴太。シマちゃんとは同級生なんだ」「それでペンネームにかすらない呼び方だったんすね」 胸のつかえがひとつ取れて安堵する。「でも、なんつーか……」「気が合うように見えない?」「まぁ、そんな感じです。アイツ、インドア派じゃないですか。海道さん、アウトドア派って感じですし、雰囲気とか、全然違うし」「だよねー。ま、実際趣味とか合わないし」「じゃあ、なんで一緒に?」「今でこそ、俺のがシマちゃんよりデカいけどさー。昔は逆だったんだよね」「昔?」「そ、小学生の頃」「それもう、昔の同級生っていうより、幼馴染じゃないっすか」「そういえばそうかもね。俺さー、ガキの頃は体弱くて、体育は見学してたんだよ。休みも多いし、体も小さいし、クラスメイトにからかわれてた。そんな俺を助けてくれたのが、シマちゃん。昔っから毒舌キレッキレでさー。俺の代わりに言い負かせて助けてくれてたんだよ」「海道さんがやられてるのは想像つかないけど、朱音が毒舌キレッキレなのは、なんか想像つきます」「はは、だろうね。まー成長して、体も丈夫になってからは、そういう悩みもなくなったけど。そのかわり、別の悩みが出てきちゃってさ」「別の悩み?」「俺、ゲイなんだよ。それに気づいたのが、高校の頃。初恋相手は、よくつるんでた親友。いいなって思うような女優とかいたし、まさか自分がゲイだったなんて思わなかったから、なかなか受け入れらんなくてさ。それでずっと悩んでた」「気持ちは、分からなくもないっす……」 今まさに、修也も同じことで悩んでいる。当時の晴太の気持ちは痛いほどよく分かる。「君はやさしーね。シマちゃんが気に入るわけだ」「え? 朱音が?」「そー。バーから出てから、アキトくんってこういう子なんだって、嬉しそうに話してたんだよ。あんな楽しそうなシマちゃん、久しぶりに見たよ」「そう、だったんすか
エリュシオンで会ってから、修也は朱音を避け続けた。デートの誘いを受けても、大学や女遊びを理由に断ってばかりだ。朱音は『そうですか』や『またの機会に』と返信してくるだけで、修也を探ってくる様子はない。程よいはずのこの距離感がもどかしく思う。「はぁ、クソ……!」 最近の修也は、朱音と連絡をした後に荒れ気味だ。どうしてこんなにイライラするのか、その理由すら分からない。それが更にストレスを生み、イライラを増長させていく。 そんな矢先、友達と呑んで解散した後、修也はひとりで夜道を歩いていた。すると、ふたりの酔っぱらいに絡まれた朱音を見つける。「お前、男のくせにかわいー顔してんな」「やべぇ、
「なぁ、久しぶりに抱いてもいいか? 今度は、優しくする」「えぇ、もちろんどうぞ。それを期待して、汗を流して待ってたんです」「なんだよ、それ……」 朱音のいじらしさに頬が緩みそうになり、彼の首筋に顔を埋めてごまかした。「お前が女だったらいいのに」「そればかりはどうしようもありません」「分かってる」 首筋を甘咬みすると、朱音は甘い声を零す。もっと聞きたくてバスローブをはだけさせて乳首を吸い上げると、朱音は体を小さく震わせた。「あ、んんっ♡ ふ、はぁ……♡」「お前、その辺の女よりよっぽど色っぽいよ」「それはどうも。んっ♡」 朱音の薄い胸を揉み上げるが、掴めるものなどほとんどな
大学を終えて早めにバイト先のエリュシオンに行くと、マスターがパソコンに向かい合っていた。「おはよう、アキトくん。はやいね。忘れ物でもあった?」「いや、シフトできてるかと思って」「ちょうどできたところだよ。これでいい?」 マスターはオフィスチェアごと横にズレ、修也に画面が見やすいようにしてくれた。修也のシフトは3日のみ。女の子と遊ぶ日が欲しいから、基本的週に3日しか入らない。「はい、大丈夫です」「じゃ、これで印刷しちゃうね」 マスターが印刷している後ろで、朱音に空いている日をラインで伝える。すぐに既読がつき、返事が返ってくる。『水曜日でいいですか?』『了解』『6時半待ち合
気づけば夜になり、外はネオンできらびやかに彩られていた。「はぁ、あぁ……♡ ふふ、若い子は、すごいですねぇ」「意識ぶっ飛んだかと思った」「かろうじて、起きてますよ。それにしても君、女の子相手にもああなのですか?」「ちげーよ。女だったらもっと丁寧に扱うっての」「そうですか。ならいいのですが。こんなに余裕のないセックスは、いつ以来でしょう……」 朱音は目を細め、過去を懐かしむように言う。当たり前ではあるが、彼も過去に複数の人間と関係があったようだ。「男相手か?」「あの部屋でも言ったでしょう。本物を相手にするのは、君が初めてだと。まぁ、男性の恋人がいたことはありましたが」「へぇ