LOGIN私は、おそらく世界で一番ギャップのある、大器晩成型の絶世の美女だ。 両親は筋金入りの面食いで、声フェチなのだ。しかし不運なことに、生まれたばかりの私は、まるで進化の途中にある猿のような顔をしていた。 おまけに泣き声まで警報装置のようで、看護師さえ思わず耳を塞ぎたくなるほどだった。 そんな私につけられた名前は「たらい」だ。両親は厄介者をたらい回しにするように、生まれたばかりの私を祖母の菅原万葉(すがわら かずは)が暮らす田舎へ預け、そのまま自分たちの生活へ戻っていった。 最難関大学に合格したことで、ようやく実家に戻ることを許された。 大物俳優の父・菅原正臣(すがわら まさおみ)は、私を一目見るなり、眉間に深いシワを寄せる。 「帽子にサングラス、それにマスクまでしてるのか。 頭のてっぺんから足の先まで隠して……人前に出られないような顔なのか?」 国民的歌姫の母・菅原綾音(すがわら あやね)は、鼻で笑った。 「きっと、美玲がテレビに出ているのを見たのね。初対面から妹と顔を比べられて、恥をかくのが怖いのよ。 外見だけでなく、内面まで醜いわね」 そこへ、妹・菅原美玲(すがわら みれい)が嬉しそうに駆け寄ってきて、私の手を取る。 「お姉ちゃん、外見が全てじゃないよ。私の前では、そんなに卑屈にならなくていいからね」 マスクを外そうとしていた手が、ぴたりと止まった。 祖母はこの数年間、毎月のように両親へ手紙を送っていた。 【早く迎えに来なさい。この子はどんどん美しくなっていて、壁をよじ登って覗きに来る連中を追い払うのに、番犬を何匹飼っても足りないくらいなんだよ!】 祖母は毎年、私の写真も送っていたはずなのに……まさか、この家の誰一人として、一度も写真を見ていなかったの?
View More美玲は勝ち誇ったようにこちらをちらりと見た。「お姉ちゃん、自分の家に監視カメラなんてつける人いないよ。お姉ちゃんが悪いことをしなかったら、私たちだって身内に泥棒がいるなんて、思いもしなかったわ!」美玲がいい気になって私に濡れ衣を着せようとしているそのとき、使用人が突然、ぽんと手を打って声を上げる。「あっ、そういえば、監視カメラならあります!奥様に言われて、急きょ取りつけたんです。田舎育ちのお嬢様が、もし何かよからぬことをしでかしたら困るからって……廊下や階段の踊り場にも小型カメラを仕掛けて、少しでも怪しい動きがあれば、すぐに屋敷から出すようにと言われていました」母が監視カメラをこっそり設置させたのは、もともと私を監視するためだった。それが思いがけず、私の無実を証明することになる。美玲の顔から、さっと血の気が引いた。「もうネックレスは見つかったんだから、監視カメラまで確認しなくてもいいんじゃない?家族なんだし、これ以上追求するのもお姉ちゃんに悪いから……」私は振り返り、警察官に向かって言う。「見るかどうかを、彼女が決めることではありません。私は泥棒扱いされ、濡れ衣を着せられた被害者です。監視カメラの映像をしっかり確認して、私の無実を証明してください」結局、映像には、美玲が昨夜こっそり自分でネックレスを私のマットレスの下に隠す様子がはっきりと映っていた。そして今日になって見つからないふりをし、わざと通報して私に罪をなすりつけたのだ。警察官は険しい顔で美玲を振り返る。「まだ若いんだから、これからは勉強や、人としてどうあるべきかを考えることに時間を使いなさい。実の姉を陥れるなんて、あまりにもひどすぎる!」両親はひどく気まずそうな顔をしていたが、この時ばかりは美玲をかばおうとしなかった。警察官は申し訳なさそうに私を見る。「すみません、菅原風歌さん。被害総額が大きかったから、大学からそのままこちらへ来てもらって、事情を確認することになりました」その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員の体が強張った。「菅原風歌?今、菅原風歌って言ったのか!?あの帝都大学の菅原風歌だと!?」父が何度も問いただしている間に、母はふらつく足取りで慌てて物置へと駆け込んでいた。そして、埃をかぶった未開封
父は失望したようにため息をつき、ぼそりと呟く。「少しは役に立つかと思ったんだがな。あの子を見つけられたら、俺にとっても手柄になったはずだ。今後の仕事だって倍になったかもしれないのに」母も悔しそうな顔をしている。「絶対にあの子を見つけて、私の弟子にするわ。私はもう若くないけれど、あの子なら間違いなく全国、いや世界中で大スターになれる。私の誇りを受け継いでくれるはずよ」そのとき、父のスマホが鳴った。電話に出た途端、父の顔色がさっと変わる。「すがわら、ふうか?あの子の名前が、すがわらふうかだって!?」胸がざわついた。気づけば、父と母は揃って私の目の前まで来ていた。「おい、たらい。お前が知らないならそれでいい。ただ、その名前をどこかで聞いたことはないか?」口元がわずかに引きつる。まさか今まで、両親は私の本当の名前すら知らなかったのだ。二人にとって、私はいつだって、好き勝手にたらい回しにされる「たらい」にすぎない。「お二人が知らないなら、私に分かるはずもないでしょう」それを聞いて、なぜか美玲がほっとしたように胸をなでおろした。「お姉ちゃん、私てっきり、勉強くらいは得意なのかと思ってた。いざってときには役に立って、人探しくらい手伝えるのかなって。まさか、ただの役に立たないガリ勉だったなんてね。だったらお姉ちゃんも、少しくらい見た目に気を遣ったら?女の子にとって、一番大きな武器はやっぱり美貌だもの。見た目が悪いと、生きていくのも大変よ?でも、勉強ができるんだから、将来はきっと役に立てるよね」美玲の言葉を聞き終えると、両親は私を一瞥しただけで、背を向け、そのまま人探しへ戻っていく。彼らが血眼になって探している「菅原風歌」本人が、すぐ後ろで彼らを見送っていることなど、知る由もない。両親をやり過ごしたのも束の間、今度は瑞城が大学に押しかけてきた。メッセージを何度も送りつけ、電話までかけてくる。「今、大学の正門前にいるけど、一緒に食事でもしないか?上村エンターテインメントに入りたくないなら、それでも構わない。ただ、君と友達になりたいだけだ。駄目かな?」迷うことなく冷たく突き放した。「そちらの事務所には入りませんし、友達になるつもりもありません」まさか、あれほど人を見下してい
先生は自分のことのように喜び、興奮した様子で聞いてきた。「どの事務所に入るか決めましたか?」私は首を横に振る。「どこにも行きません。興味がないので……」それを聞いた先生は、困ったように笑った。「ここはひとつ先生の顔を立てて、ちょっとだけ話を聞きに行ってもらえませんか?さっき学長から直々に電話がかかってきたんです。あなたが行ってくれないと、私はどう返事すればいいか……」仕方なく、私はスリッパのまま自分で外へ出て、さっさと話を終わらせることにした。寝間着にすっぴん、スリッパという格好で現れた瞬間、何十台ものワゴン車から、大勢の人が一斉に飛び出してきた。「嘘だろ……本人は動画で見るより、ずっときれいじゃないか!」「菅原さんはこの世界でトップに立つために生まれてきたんだ!うちに来てくれれば、必ずトップまで押し上げます!」あまりの勢いに、目まいがする。そのとき、不意に見覚えのある人影が人混みを掻き分けて近づいてくる。「上村エンターテインメントの代表だ。菅原さんが頷いてくれさえすれば、どこよりもいい条件を提示する」瑞城が、ようやく私を正面から見た。けれど、私は思わず冷ややかな視線を返してしまう。「私はまだ大学に入ったばかりです。せっかく帝都大学に合格したのに、どうして真面目に勉強もせず、そちらの事務所に行かなきゃならないんですか?」瑞城が虚を突かれたように言葉を失っていると、隣にいた秘書が小声で耳打ちした。「菅原さんは、今年の帝都大学の首席合格者です」その言葉に、周囲の大人たちの目がさらにぎらついた。「ルックスも、声も、頭脳も、学歴も、すべてがトップクラスだぞ」「彼女と契約できれば、金脈を掘り当てたようなものだぞ!」皆が一斉に私のもとへ押し寄せようとしたそのとき、本郷監督の威厳に満ちた声が雷鳴のように響き渡る。「待て。本人に決めさせろ」映画界の重鎮が自ら姿を現したのを見て、スカウトマンたちは自然と道をあけた。監督は興奮を抑えきれない様子で、まっすぐ私の前まで歩いてくる。「やっと見つけた。ずっと君を探していたんだ。俺のヒロイン。安心しろ。今は学業を優先したいというなら、無理にとは言わない。何しろ、俺はもう5年も君を待っているんだ。あと4年くらい、どうってことない。俺にと
私が出てくるのを見た父の目に、わずかな嫌悪が浮かんだ。「出ていくのか?」「ええ、早めに学生寮へ入ることにしました」それを聞いても、両親はそれ以上何も聞こうとしない。「あ、そう。ならさっさと行きなさい。ちょうど美玲のメイクルームを空けられる」まるで私と一言でも多く話すことさえ、人生の無駄だと言わんばかりだ。美玲は堪えきれなくなったように顔を覆い、泣き声を上げる。「お姉ちゃん、わざと笑いに来たの?」父はそんな美玲の頭を、優しく撫でる。「気にするな。あんな醜い奴に、美玲を笑う資格なんてない。ほら、もう泣くな。今月の小遣いを20万円増やしてやるから、な?」母も美玲を抱きしめ、目に入れても痛くない娘をあやすように、甘い声をかける。「そうよ。自分の顔を人に見せることすらできないくせに、美玲のことをあれこれ言う資格なんてないわ。今日で出ていくんだから、今からお母さんと買い物に行こう。新しいお洋服も、アクセサリーも、化粧品も、家中いっぱいになるくらいたくさん買ってあげるからね」その瞬間、私は「さようなら」とさえ言うことができなかった。自分がこの家にとって、完全に余計な存在だったのだと思い知らされる。ただ黙って背を向け、その場を離れるしかない。……大学に着くと、担当の先生が私を部屋まで案内してくれた。水の入ったグラスを差し出しながら、先生は不思議そうに私の姿を眺める。「どうしてそこまで顔を隠してるんですか?」私は真面目に答える。「癖になっているんです。余計な騒ぎを起こしたくなくて」先生は思わず吹き出した。「何それ、まるで芸能人みたいなことを言いますね。そんなに隠さなくてもいいでしょう。ちょっと外して、顔を見せてくださいよ」そして、私の素顔を目にした瞬間、先生の笑顔が固まった。視線すら動かせないように、じっと私の顔を見つめている。「あなたの考えは正しかったみたいですね。外に出るときは、やっぱりそのまま隠しておいたほうがいいと思います。そうしないと、大学中の男子学生があなたを見に教職員宿舎まで押しかけてきますよ。夜もまともに眠れなくなるし、あなたのために見張りまでしなきゃならなくなりそうです」言い終えるや否や、先生はふと何かを思いついたように、ポンと手を打った。「よ