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第24話

Author: 苦崎うり子
「もしあなたが前世で20年以上も裏切られ、待ち続けたのに、最後にはその人の身勝手で殺されていたら」

玲子は呆然と立ち尽くす隆司を見つめながら、一語一語区切って言った。

「今世で、またその人にチャンスを与えたいと思う?まだ時間を無駄にしたい?」

隆司の顔から血の気が引いた。立ち尽くしたまま、一言も返せなかった。

「あなたの表情が答えよ。どうか私の気持ちも理解して」

玲子は静かに続けた。

「隆司、もう二度と私を探さないで」

そう言い残し、玲子は振り返らずに去った。

隆司はその場に取り残され、魂が抜けたようだった。

あの夢が妙に現実的だと感じていたが、まさか玲子が経験した真実だったとは。

突然、隆司は崩れ落ちるように膝をついた。目には絶望が広がっていた。

あの夢は警告だとばかり思っていた。自分の本心に気づかせるためだと。

だが実際は、玲子が耐え忍んだ現実だったのだ。

そんな経験をした玲子が、二度と自分を許すはずがないだろう。

隆司は顔を覆い、声を上げて泣いた。

……

時は流れ、あっという間に7年が過ぎた。

有人宇宙船の着陸成功とともに、玲子ら研究者たちから歓声が上がった。

10年間のプロジェクトがついに完結したのだ。

「やっと家に帰れる。子供は私を覚えているだろうか」

「母の腰痛は治ったかな……」

皆が帰宅を心待ちにしている中、玲子だけは平静だった。

もはや帰る家などない。

両親は亡くなったし、隆司とも縁が切れた。

戻っても、ただ静かな日々が待っているだけだ。

しかし帰宅すると、意外にも隆司の母親が待っていた。

「玲子、やっと帰ってきたのね」

友江は彼女の手を握り、涙声で言った。

「来るのがもう少し遅ければ、隆司の最後の顔も見れないところだったわ」

「えっ?」

玲子は凍りついた。
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