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第3話

Author: ベリーラディッシュ
彼も笑った。

「この子、本当に君にそっくりだな」

私はその小さな顔を見つめながら、心は驚くほど穏やかだった。

この3回のチャンスは、彼に逃げ道を与えるためのものじゃない。

私自身と、この子のために引いた最後の一線だ。

3回目を過ぎたら、私はもう絶対に振り返らない。

……

産後3日目の午前4時、私は傷の痛みで目を覚ました。

切開したところが焼けるようにずきずき痛み、張り詰めた胸は硬くなった母乳のせいで重苦しい。

暗闇の中、ナースコールを押そうと手を伸ばす。けれど、隣には何もなかった。

付き添い用のベッドには誰もいない。

掛け布団はすっかり冷え切っていて、きれいに畳まれていた。

スマホの画面には、五十嵐家の親族のグループチャットから数十件もの未読メッセージが表示されている。

姑の五十嵐歩美(いがらし あゆみ)が午前2時に送った写真だった。

仁がコートを羽織ったまま志舞の家のリビングに座り、その隣では志舞が俯いて泣いている。

その写真には、一文が添えられていた。

【仁くんは志舞ちゃんのことが心配で、こんな夜中にもわざわざ駆けつけて付き添ってくれている。本当に優しいね。志舞ちゃんのご両親も、あの世から見て安心していることでしょう】

その下には、親戚たちが口々に同意するメッセージが並んでいた。

責任感がある、恩を忘れない、立派な男……そんな言葉ばかりだった。

私は時間を計算した。

昨夜10時から午前4時まで、仁は志舞のところに6時間もいた。

その一方で、私は生まれたばかりの子どもと一緒に、誰にも気にかけてもらえず病院に取り残されていた。

痛みが少し引くのを待って、私は携帯電話を手に取り、彼に電話をかけた。

1度目は出なかった。

2度目は10回近く呼び出して、ようやく繋がった。

電話の向こうはひどく静かで、かすかに女のすすり泣く声が聞こえる。

「知夏?どうして起きたんだ?傷が痛むのか?」

彼の声はひどく小さく、わずかに焦りが滲んでいた。

「どこにいるの?」私は尋ねた。

彼は一瞬黙り、何でもないことのように答えた。

「ちょっと急な用事が入ったんだ。今、救急の患者を受け入れたから、こっちに来て様子を見てる。すぐ病室に戻るから」

彼は、私が出産を終えたばかりで、家族のグループチャットを見る余裕などないと思っていた。

まさか私に嘘を見抜かれるなんて、考えもしなかったのだろう。

私は何も言わず、淡々と告げた。

「熱が出たみたい。今、赤ちゃんが吐き戻してる。傷が痛くて私じゃどうにもできないし、介護士もまだ来てないから、一度戻ってきて」

彼はすぐに緊張した。

「大丈夫か?むせたりしてないか?今すぐ……」

その言葉を遮るように、突然、電話の向こうから歩美の泣き叫ぶ声が響いた。

続いて、何かが床に落ちて割れる音がした。

「仁くん!志舞ちゃんが手首を切ったの……!早く来て……!」

そこへ玲央の切迫した声も重なった。

「兄さん、早く止血用の包帯を持ってきて!」

周囲が一気に騒がしくなる。

しばらくして、仁の声が聞こえる。明らかに焦っていて、早口になっている。

「知夏、先に看護師さんに君と赤ちゃんの様子を見てもらって。こっちはどうしても離れられないんだ。慌てるな。こっちが片付いたら、すぐ戻るから」

そこで電話は一方的に切れた。

もう一度かけ直しても、もうつながらなかった。

私はベッドの背もたれに寄りかかり、ゆっくりと息を吐いた。

傷はまだ痛んでいる。胸も張って、石のように硬くなっていた。

私は痛みに耐えながら体を起こし、赤ちゃんに授乳後のげっぷをさせ、口元を拭いて、身の回りを整えた。

そして携帯電話を手に取って初めて、10分前に彼からメッセージが届いていたことに気づいた。

【急きょ合同カンファレンスが入ったから、ちょっと対応してくる。すぐ戻る。痛みがひどかったら我慢せず看護師さんを呼んで】

その下には、さらに一言。

【胸が張ったら、温かいタオルで温めて。ひどい時は、介護士にすぐ伝えるんだ】

私はそのメッセージをじっと見つめた。

すると、付き合い始めたばかりの頃をふと思い出した。

あの頃、私は病気になっても、いつも一人で我慢する癖があった。そんな私のそばで、彼は目を赤くしながら付き添ってくれた。

「もっと甘えていいんだよ。俺に頼ればいい。何も我慢しなくていいから」

そう言ってくれたのだった。

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