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第6話

Author: ベリーラディッシュ
私は自嘲気味に笑うと、目を閉じて言った。

「最後に一度だけ、あなたを信じる」

午前中いっぱい、仁はずっと私と赤ちゃんのそばにいた。

病室から一歩も出なかった。

彼は私たちの赤ちゃんを抱き、まるで誇らしげに見せつけるように笑った。

「知夏、見てくれ。俺だってできるんだ。これからずっと、君と子どものそばにいる。

もう意地を張るのはやめよう。これからはずっと仲良くやっていこう。な?」

私は何も答えず、窓の外へ視線を向けたまま、心の中で静かにカウントしていた。

今回は、どれくらいもつだろう。

午後になって、突然胸が苦しくなり、動悸がして、血圧が急激に下がった。

医師を呼んだ直後、仁のスマホが鳴った。

歩美からの電話だった。

その甲高い声は、スマホ越しでもはっきり聞こえた。

「仁くん!早く来て!志舞ちゃんの元夫が病院に乗り込んできたの!しかも刃物まで持ってる!」

仁の体が強張った。そして、青ざめた私を見た。

「知夏、俺……」

「約束を忘れないで」

私は息を切らしながら、彼の服の裾を掴んだ。

「分かってる。でも聞いただろ?あの男、刃物を持ってるんだぞ!本当に人が死んだらどうする?」

彼は私の手をほどき、そのまま背を向けた。

「ここには医者も看護師もいる。大丈夫だから。ちょっと様子を見て、すぐ戻ってくる」

バタン。

ドアが閉まった。

彼の足音が、廊下の奥へと消えていった。

私は自嘲するように笑った。

次の瞬間、目の前が真っ暗になり、意識を失った。

次に目を覚ましたとき、私はすでに集中治療室にいた。

体中に管がつながれ、胸が苦しくて息をするのもままならない。

母がベッドのそばで泣いていた。

目は泣き腫らして、まるでクルミのようになっている。

私が目を覚ましたのに気づくと、母はしゃくり上げながら言った。

「産後の痙攣で、肺に羊水が流れ込んでしまって、誤嚥性肺炎を起こしたの。もう少しで……本当に危なかったのよ。3時間も救命処置をしたんだから……」

私は口を開いた。けれど、出てきた声は掠れていた。

「彼は……?」

母は顔を背け、さらに激しく涙をこぼした。

聞かなくても分かった――彼は戻ってこなかった。

枕元のスマホが震えた。

私は力を振り絞って手に取り、画面を確認した。

志舞からのメッセージだった。

【知夏、仁くんからあなたがひどく具合を悪くしたって聞いた。ごめんなさい。今日は私の元夫が騒ぎを起こして、また彼に迷惑をかけちゃったね。

彼を責めないでね。彼は優しいから、私が可哀想な目に遭っているのを見ると放っておけないの。

私の体調がもう少し良くなったら、あなたのお見舞いに行くね】

私はそのメッセージを見つめ、ふいに笑った。

なんて聞き慣れた台詞だろう。

彼が彼女のために私を置き去りにするたび、彼女は決まって後からこんな「謝罪」を送ってきた。

一見、申し訳なさそうにしている。

けれど、その実、ただの当てつけだった。

私は返信した。

【来なくていい】

そして、写真アプリを開いた。

3年間の思い出が、すべてそこに残っていた。

年越しの花火の下、彼が俯いて私にキスする瞬間を撮った写真。

婚姻届を出した日に、婚姻証明書を握りしめて馬鹿みたいに笑っていた彼のスクリーンショット。

初めて胎児の心拍を確認したとき、震える手で撮ったエコー写真……

私は指先を滑らせながら、一枚も迷うことなく、すべてのツーショット写真を選択して削除した。

プログレスバーがゆっくりと最後まで進んでいく。

まるで、この3年間に抱いていた期待も執着も、すべて一緒に消していくようだった。

そのとき、集中治療室のドアが開いた。

仁が入ってきた。

服は乱れ、目には隠しきれない狼狽が浮かんでいる。

目を覚ましている私を見つけると、彼は数歩で駆け寄ってきた。

「知夏、死ぬほど心配した。大丈夫か?痛くないか?」

「仁」私は彼の言葉を遮った。声は小さかった。

けれど、一言一言ははっきりと彼の耳に届いた。

「3回のチャンス、あなたは全部使い切った。私たち、離婚しましょう」

彼は呆然と立ち尽くした。

手に提げていた保温容器が、ガシャンと大きな音を立てて床に落ちた。

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