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帰れない愛は、夕陽に沈む
帰れない愛は、夕陽に沈む
작가: 夕子

第1話

작가: 夕子
妊娠がわかると、青木紗季(あおき さき)は早く白石颯真(しらいし そうま)にこの嬉しい知らせを伝えたかった。

けれど、オフィスのドアを開けた途端、颯真に腕の中へ引き寄せられ、深いキスをされた。

熱を帯びた手が服の内側へ滑り込み、シャツのボタンも外されていく。

紗季は受け止めきれず、慌てて彼の悪戯な手をつかんだ。「颯真、今日はだめ。私……」

颯真は片眉を上げ、低く艶めいた声で言いながら、紗季の手を取って自分の腰元へ導いた。「生理?でも、君の顔を見るだけで苦しくなるんだ」

紗季の顔は一瞬で赤くなった。颯真の瞳の奥に、抑えきれない欲情が渦巻いていたからだ。

紗季は数秒ためらってから、小さな声で言った。「じゃあ、別の方法で……してあげる」

そう言うと、紗季は素直に膝をつき、颯真のベルトを外した。

颯真は、紗季が懸命に受け入れようとする姿を見つめ、目を細めて低く息を漏らした。

すべてを吐き出したあと、颯真はスマホを置き、紗季の唇の端をそっと拭った。その声は満ち足りた愉悦を帯びていた。

「なあ、紗季。俺のためなら、何だってできるくらい好き?」

紗季は颯真の手を取り、そっと指を絡めた。見上げる瞳には、どうしようもないほどの想いがあふれていた。

「うん。颯真のこと、本当に大好き」

颯真は笑い、紗季の髪をやさしく撫でた。その眼差しがかすかに揺れる。

颯真の胸から響く力強い鼓動を聞いて、紗季はようやく今日ここへ来た目的を思い出した。

口を開こうとした瞬間、颯真のスマホがまた鳴った。

颯真は画面を一瞥すると、一言だけ残して足早に出ていった。

「会議がある。先に帰ってて」

紗季はまだ甘い余韻の中にいて、急に冷えた颯真の声に心が追いつかなかった。

しばらく呆然としたあと、紗季は立ち上がって帰ろうとした。けれどオフィスを出たところで、颯真が休憩室へ入っていくのが見えた。

紗季は吸い寄せられるように足を向けた。後を追った途端、中から低く押し殺したすすり泣きが聞こえてきた。

「颯真、紗季に本気になったんじゃないでしょうね?私、見たのよ。あなたたちがベッドで抱き合ってるところ。約束したじゃない。紗季を惚れさせて、最後に惨めに捨てるだけだって。それなのに、どうして何度も抱いたのよ!」

たったそれだけの言葉に、紗季は全身を打たれたように立ち尽くした。

惚れさせて、最後に惨めに捨てる?

惨めに捨てるって、どういうこと?

紗季は息を詰め、颯真の返事を待った。けれど颯真は胸ポケットからスマホを取り出し、困ったように笑った。

「喜ぶと思ったんだけどな。これがあれば、これからいつでもあいつを笑いものにできるだろ」

綾瀬莉緒(あやせ りお)は画面をちらりと見て、たちまち瞳に喜びを浮かべた。

一方、紗季はそれを見た瞬間、全身の血の気が引いていった。

颯真のスマホに映っていたのは、ついさっき紗季が膝をつき、彼に応じていた写真だったからだ。

「颯真、ごめんね。私、勘違いしてた。だって怖かったの。昔、青木遠志(あおき とおし)が母を弄んで捨てたりしなければ、私はこんな惨めな人生を送らずに済んだのよ。

同じ血が流れているはずなのに、紗季はみんなに大事にされて、お姫様みたいに育てられた。私はずっと、誰にも認められない隠し子のまま。

だから復讐するために、胸が張り裂けそうなのを我慢して、あなたを紗季のそばへ行かせたの。紗季をあなたなしでは生きられないくらい夢中にさせて、最後にあなたの手でぼろぼろにして捨てさせるために。

颯真、紗季を好きにならないで。お願い。私には、あなたしかいないの……」

颯真は低くため息をつき、莉緒をやさしく抱き寄せた。

「もちろん、好きになんかならない。俺が好きなのはお前だけだ……」

親密に抱き合う二人は、外に立っている紗季の存在に気づかなかった。

紗季は一瞬で血の気を失った。足元から凍りつくような寒気が這い上がり、指先まで感覚が消えていく。今聞いた言葉を、どうしても信じることができなかった。

莉緒は、父の隠し子だったの?

颯真が自分と付き合っていたのは、莉緒のために自分をもてあそぶためだったの?

妊娠を知ったとき、胸いっぱいに広がっていた喜びは、この瞬間、鋭い刃へと姿を変え、紗季の心臓を容赦なく突き刺した。痛すぎて、息の仕方さえわからなくなった。

四年前、紗季は数人のチンピラに路地裏で取り囲まれ、危うく襲われそうになった。

絶望の中、通りかかった颯真が紗季を救ってくれた。

黒いシャツにスラックス姿の颯真は、数人を相手にしても少しも怯まず、無駄のない動きであっという間に片づけてしまった。危うさをまとった奔放な雰囲気と、どこか手の届かないような色気。そのすべてに、紗季は一瞬で心を奪われた。

白石颯真という名前は、そうして紗季の心の奥に刻まれ、根を下ろし、芽を出し、枝を伸ばしていった。

颯真が上流階級でも特別な家柄の御曹司だと知ってから、紗季はさまざまなパーティーや集まりに足繁く通い、偶然を装って彼に会う機会を作り続けた。

回数が重なれば、颯真もさすがに気づく。笑みを含んでこちらを見つめるその目元は、潤んだような色気をたたえ、人を惹きつけてやまなかった。

「お嬢さん、毎日俺のそばに現れるなんて、助けたお礼に身を捧げるつもり?」

その瞬間、紗季は顔を赤くし、人生でいちばんの勇気を振り絞って言った。「はい。だめですか?」

そのとき颯真がどう答えたのかは、もう覚えていない。ただ、彼がゆっくりと唇の端を上げて笑ったことだけは覚えていた。

その夜、二人はそのままベッドを共にした。

それから四年間、二人は人目を忍ぶ恋人同士だった。関係を隠そうと決めたのは、颯真だった。

理由はわからなかった。それでも紗季は、言われるままに従った。

誰にも言えない関係ではあった。それでも、この四年間、颯真は紗季をこれ以上ないほど大切にしてくれた。

どんな記念日にもサプライズとプレゼントを用意してくれた。紗季の願いをすべて叶え、デートに付き合い、買い物へ行き、旅行にも連れていってくれた……

自分が手に入れたのは、颯真の偽りのない愛だと思っていた。

いつか颯真は自分と結婚し、周囲のすべての人に二人の関係を告げてくれるのだと思っていた。

この子を授かったことは、二人の人生にとって新しい転機になるのだと思っていた。

それなのに、そのすべてが最初から最後まで、周到に仕組まれた復讐でしかなかったなんて。

幸せだと信じて疑わなかった日々が、今知ったばかりの残酷な真実に塗りつぶされていく。紗季の頭の中では、過去の記憶が次々と浮かんでは崩れていった。

ポケットの中のスマホが突然震えるまで、紗季は絶望の底から抜け出せなかった。

画面に父からの着信が表示されているのを見た瞬間、空っぽだった紗季の瞳に、ようやく焦点が戻った。彼女は慌てて頬を濡らす涙を拭い、よろめきながら外へ駆け出した。

ビルを出てから、ようやく電話に出た。

「紗季、前に話した昔からの縁談のことだが、考えはまとまったか?」

父の重い声を聞き、紗季の胸がずきりと痛んだ。

颯真と付き合うようになってから、彼と結婚するために、紗季は幼い頃から決まっていた縁談を断った。

けれどこの数年、颯真は一度も二人の関係を公にしようとせず、さまざまな理由をつけて紗季の実家に挨拶へ行くことを拒み続けた。

それが何度も重なるうちに、父は紗季の恋人を信用できない相手だと思うようになり、何度も心配して説得してきた。

「もう四年になる。なのに相手は、いまだに一度も正式な挨拶に来ない。それでもまだ、あの男に人生を預けるつもりか?前にも言ったはずだ。この縁談の相手は、私が慎重に見極めて選んだ男だ。若くして才覚があり、人柄も家柄も申し分ない。お前が彼と結婚してくれれば、私もようやく安心できる」

紗季は黙って聞いていた。頭の中には、さっき聞いたばかりの言葉が浮かんでいた。

紗季は赤く腫れた目を閉じ、長い時間をかけて息を整えてから、かすれた声で父に答えた。

「お父さん、私……お父さんの言うとおりにする」

紗季が承諾したと知り、父は最初こそ驚いたものの、すぐに喜びを隠しきれなくなった。

「そうか。わかってくれたならいい。結婚式のことは私が手配するから、お前は何も心配しなくていい。式は来月の16日に決めた。相手は白石家の長男、白石怜司だ」

その名前を聞いた瞬間、紗季はその場で凍りついた。

白石怜司(しらいし れいじ)……

颯真の実の兄ではないか!

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