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2-2 伯爵令嬢の憂鬱

Auteur: 文月 澪
last update Dernière mise à jour: 2025-07-25 10:20:02

 幻瞳迦。それは、太古に世界を満たしていた魔法の名残りだ。かつて魔石と呼ばれたそれは、この世界に当たり前にあった。普段の生活にも利用されていたその石も、現在では遺跡でごく稀に出土する物しか入手経路は無い。希少価値が高く、目が飛び出でるような値が着く幻とも言われる宝石。

 競売に出されるさえも稀で、幼い頃に外商の宝飾屋が一度だけ、持ち込んだ事があった。それも小指の先程の小さな粒で、金貨百枚は下らない。その外商も商品としてではなく、客引きの道具にしているようだった。それでも、一目見た美しさは脳裏にこびりついている。間違えようもない。

 それは国宝にも劣らない代物。周りを縁取るダイヤだって、粒が大きく透明度が高い。一体幾らするのか、想像するだけで頭が痛くなる。殿下には申し訳ないけれど、こんな高級なもの身につけるなんて怖くてできない。でも、贈られた物をつけて行かないのも失礼になってしまう。

 そしてもうひとつ、大きな問題が。それはどの指に嵌めるのが正しいのかという事。

 婚約を打診されているのだから、左の薬指にするべきなのか。でもそれは図々しい気もする。父の言葉では既に婚約は結ばれているようだけれど、まだお会いした事さえ無いのだから。

 私は悩んだ挙句、指輪を右手の薬指に嵌める事にした。なんと言っても国宝級の指輪なのだもの。すんなり嵌った宝石を見ると手が震えてしまう。

 その間にも準備は着々と進む。

 髪を編み込み、シニョンに纏めると頂いた髪飾りを刺す。これもクルクマの花の意匠にアメトリンが散りばめられていた。耳飾りも揃いの意匠。

 姿見の前に立つと、全身殿下色に染まった私がいた。この国では、特に瞳の色を重要視する。それは家系によって色濃く現れるから。紫は王家の色。我がフェリット家は暗褐色が多い。父も赤みを帯びた褐色の瞳だ。

 煌びやかなドレスには、私の地味な容姿は釣り合っていない。せっかく用意してくださったのに、申し訳なさが込み上げてくる。もっとこのドレスに見合う姿なら良かったのに。殿下も衣装に負けている私を見れば、婚約を破棄するかもしれない。ただでさえ歳が離れているのだから、それも覚悟しなければならないだろう。

 王族に見限られれば、私の人生は暗い物になる。最悪一人で生きていかなければならない。実家である伯爵家は従兄弟が継ぐ事になっているから、両親にいつまでも世話になる事もできない。

 まず思い浮かぶのは、事業を立ち上げ独り立ちする事。父の領地経営を手伝うつもりで勉強してきたけれど、商才となるとまた話は違ってくる。商売には伝手つてが物を言う。付き合いのある商家はあるけれど、家を離れ、なんの取り柄も無くなる私では門前払いが関の山だ。

 それならば、侍女として公爵家や侯爵家に仕えようか。でもそれも一時的とはいえ、王家の婚約者になった私は目の上のたんこぶかもしれない。仕えるなら令嬢のお世話を仰せつかるはずだ。これでも伯爵令嬢なのだから、下女になる事は無いと思いたい。しかし、きっと私は邪魔者だ。いつまた殿下の気が変わるともしれないのだし。

 ならば残された道は家庭教師か。ありがたい事に父はあらゆる学問を学ばさせてくれた。貴族令嬢には不要とされる歴史や算術、料理や裁縫まで。中々婚約が決まらない私に対する、せめてもの温情だったのだろう。これなら子供相手に十分教える事ができる。算術なら男の子に、裁縫なら女の子に需要があるはず。それが一番いいように思えた。

 うん。

 そうだ、それがいい。

 私の中では、既に婚約破棄される事が決まっていた。なんと言っても殿下はまだ十三歳。十八の私なんておばさんだろう。お披露目の夜会には、同じ歳の令嬢も多く参加する。それを見れば目が覚めるはずだ。

 今は浮かれて、こんなに素敵な贈り物をしてくれているけれど、もしかしたら返却を要請されるかもしれない。夜会用のドレスはまだ袖も通していないし、新品のままお返しできるだろう。だからこのドレスも、汚さないように気をつけなければ。

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