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第2話 ​

Autor: オレンジよ​
翌朝、ドアが静かに開かれた。

琉太が近づき、慣れた手つきで私の額にそっと口づけを落とした。

「今日はお母さんの命日だ。墓参りの支度はできてる」

その声は低く、穏やかだ。

この三年間、毎朝私を安心させてくれたあの声と変わらない。

私は小さく頷き、何も言わなかった。

出かけようとしたとき、琉太のスマホが鳴った。

画面に【美帆】という二文字がはっきりと浮かび上がり、私の目に映った。

彼の瞳が激しく揺れ動き、繋いでいた私の手を瞬時に離した。

「ちょっと待っててくれ」

琉太は急ぎ足でバルコニーへと向かった。

十分後、戻ってきた彼の顔には、焦りの色がにじんでいる。

「天音、会社で急なトラブルが起きた。今日は一緒に行けそうにない」

私と目を合わせることさえせず、彼は背を向けようとした。

私は手を伸ばし、彼の袖をぎゅっと掴んだ。

「琉太……お願い、今日だけはそばにいて。今日だけでいいから」

消え入りそうな声だったが、ありったけの力を振り絞った。

心の中で自分に言い聞かせた。

もし彼がここに残ってくれるなら、もし私を選んでくれるなら、昨夜聞いたすべてのことを、悪い夢だったと思い込もう、と。

彼は一瞬だけ動きを止めたが、やがて私の指を一本ずつ引き剥がした。

「わがままを言わないでくれ。本当に急用なんだ。

車は手配してあるから、それで向かって。俺はできるだけ早く戻る」

彼は一度も振り返らなかった。

ドアが閉まる音が、私の心に残っていた最後の望みを奪い去った。

私の指は、引き剥がされたときの形のまま、氷のように冷たく固まっている。

――琉太、チャンスをあげたのよ。

それを捨てたのは、あなた自身。

私はスマホを取り出し、大金持ちの父に電話をかけた。

「実家に戻って、跡を継ぐわ」

電話の向こうから、隠しきれない驚きと喜びの声が聞こえてきた。

「本当か?向こうでの暮らしを、すべて捨てて戻ってくるんだな?」

私は窓の外に広がる、灰色に沈んだ空を見つめた。

「三日後に迎えを寄越して」

車は墓地へと向かっている。

スマホが震え、見知らぬメールアドレスから一枚の写真が送られてきた。

写真の中で、美帆は満面の笑みを浮かべ、真ん中に立っている。

彼女の左隣には、私の元夫である覚。

そして右隣には、今しがた出て行ったばかりの琉太。

二人の男は、忠実な騎士のように、深い情愛を湛えた瞳で美帆を見つめている。

美帆を見つめる琉太の瞳は、私がこれまで一度も見たことのないほど、優しさに満ちている。

時折、彼が本当に私を愛しているのだろうかと不安になった理由が、ようやくわかった。

彼の愛する人は、最初から別にいたのだ。

続けて、美帆からメールが届いた。

【五年前も五年後も、あなたは私に勝てないわ。

私が必要とさえすれば、彼らはいつでもすべてを放り出して駆けつけてくれるもの】

私は返信せず、そのまま彼女をブロックした。

琉太とは幼馴染だった。

けれど大学進学を機に、私は北へ、彼は南へと離れ離れになった。

新しい町で、私は美帆と覚に出会った。

覚と付き合い始めた私が浮かれて、琉太を美帆に紹介したのが、すべての始まりだった。二人をくっつけようとして。

それ以来、四人で遊ぶことが増えた。

けれど、二人の男はいつも美帆のために私を叱りつけていた。

一吹きの風が、私を思い出の中から呼び戻した。

車が止まり、墓地に到着した。

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