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第120話

Author: 墨香
明乃の体が、ほんの一瞬だけ強張った。

彼女はゆっくりと振り返り、複雑な眼差しで岳を見た。

自分は岳の冷淡さを恨んでもいいし、彼のえこひいきを責めてもいい。自分の世界から完全に彼を消し去ることだって、できたはずだった。

ただ、あの「命を救われた恩」だけは、どうしても突き放しきれなかった。

それは、自分を長年支えてきた信仰であり、希望の光でもあった。

たとえ今ではその光が冷たく刺すように変わってしまっても、最初の感謝の気持ちはまだ残っていた。

彼女は一度目を閉じ、再び開いたとき、そこに残っていたのは、疲れ切った諦めだけだった。

「岳、あなたは一体どうしたいの?」

岳は、ようやく正面から向けられた彼女の視線に、胸を無形の手で強く握り潰されるような痛みを覚え、息が詰まった。

自分が卑劣で恥知らずだとわかっていた。

自分には本来持つ資格のない恩義を盾に、彼女を縛りつけている。

今ほど自分自身を嫌悪したことはなかった。

だが……他に選択肢はなかった。

明乃をそばに留めておけるなら、たとえ一秒でも、どんなことでもする……

たとえ、盗んだ役割を演じ続けることになろうとも。

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