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第3話

Author: セイ
状況を呑み込む間もなく、背後から女の声がした。

「清瑟のお庭は、ずいぶんとみすぼらしいのね」

清瑟が振り返ると、まだ目立たない腹に手を添えた流蛍が、華やかな衣装を身に纏い、陽光の下に立っていた。

「あら、私としたことが」

流蛍はわざとらしく口元を覆って驚いてみせた。

「忘れておりましたわ。殿下が東宮の立派な品々を、すべて私の所に送ってしまわれたことを。清瑟の所には飾り立てるものが何もなくて、少々みすぼらしく見えてしまいますわね」

清瑟の指先は微かに震え、胸の奥で渦巻く刺すような痛みを必死に抑え込みながら、流蛍を見つめた。

「何をしに来たの?」

流蛍は腹を撫でながら、媚びるように笑った。

「最近つわりが酷くて、無性に酸っぱいものが食べたいのです。お聞きしたところ、清瑟の作る梅の菓子が一番食欲をそそるとか。ぜひ一ついただきたくて」

清瑟の指先が震え、口を開くよりも早く、そばにいた侍女の青吟が怒りを露わにして彼女の前に立ちはだかった。

「慕殿!うちのお嬢様は未来の皇太子妃であらせられます。たかが側妃の分際で、皇太子妃殿下に下働きをさせようというのですか!東宮の掟を何と心得る!」

パァン!

不意に強烈な平手打ちが青吟の頬に飛んだ。流蛍は手を引っ込め、その目に冷酷な光を宿した。

「主が話しているのに、下賤な奴婢が口を挟むとは何事?誰か、この者に往復百回の平手打ちをお見舞いしなさい!」

清瑟の瞳に冷ややかな光が宿り、即座に青吟の前に立ちはだかった。

「やらせるもんですか!」

流蛍は唇を微かに吊り上げた。

「私がやれないとでも?」

彼女は低く呼んだ。

「夜梟(やきょう)!」

黒い影がふいに出現し、清瑟の瞳孔が収縮した。

それは長離の傍に仕える最も腕の立つ隠密であり、十数年もの間影のように彼を守り続けてきた者だ。長離は、その男までも流蛍に与えていたというのか?

夜梟は無表情のまま清瑟の両腕を拘束し、下働きの老婆二人が進み出て青吟を押さえつけると、雨霰のごとく平手打ちが振り下ろされた。

青吟の口角からはすぐに血が滲んだが、それでも彼女は頑なに流蛍を睨みつけていた。

「やめなさい!」

清瑟の声は震えていた。

「私が作るから、青吟を離して」

流蛍はそれで満足したように手を振り、刑を止めさせた。青吟は血まみれの顔で清瑟の足元にすがりついた。

「お嬢様、いけません!あなた様のように尊い身分の方が、あのような……」

清瑟は身をかがめて彼女の血を拭い、優しく言った。

「大丈夫よ」

厨房にて、清瑟は未だ癒えぬ胸の痛みに耐えながら、粉を捏ね、餡を作り、蒸籠に火にかけた。

最初の一籠が蒸し上がった時、流蛍は東屋に座って雪景色を愛でていた。

「甘すぎるわ」

彼女は一口かじっただけで、それを地面に投げ捨てた。

第二籠、流蛍は眉をひそめた。

「酸っぱくて歯が浮くわ」

第三籠、彼女は皿ごとひっくり返した。

「わざと私のつわりを重くさせようとしているの?」

清瑟の両手は火傷で真っ赤に腫れ上がっていたが、ただ淡々と尋ねた。

「一体、どんな味がご所望なの?」

「清瑟、どうしてそんなに自分を押し殺していらっしゃるの?」

流蛍がふいに近づき、彼女の耳元で囁いた。

「実は私、ただ見てみたかっただけなの。かつて長離様のために眉一つ動かさず剣を受けたあのお嬢様が、一体どこまで耐えられるのかをね」

清瑟は爪を深く手のひらに食い込ませた。

「もう食べたくないと言うなら、私はこれで失礼するわ」

彼女が背を向けて立ち去ろうとした瞬間、背後で突然ドボン!という巨大な水音が響き渡った。

清瑟が勢いよく振り返ると――

なんと、流蛍が自ら氷の張った湖に飛び込んだのだ!

「助けて!皇太子殿下、お助けを――」

流蛍は水の中で激しくもがき、悲痛な叫び声を上げた。

ほぼ同時に、玄色の人影が疾風のごとく駆け抜け、躊躇うことなく骨まで凍るような湖水へと飛び込んだ!

長離が流蛍を岸へ抱き上げた時、彼女はずぶ濡れの体を震わせながら彼の胸に丸くなり、大粒の涙を流して泣きじゃくった。

「殿下、清瑟を責めないで……彼女は、わざとやったわけでは……」

長離は顔を上げ、刃のような鋭い視線を清瑟に突き刺した。

「彼女が身籠っていること、知らなかったとは言わせんぞ」

清瑟はその場に立ち尽くし、指先は氷のように冷たくなった。

「清瑟、言っただろう。彼女を東宮に置いているのは復讐のためだと」

彼の声は低かったが、一言一言が心を抉るようだった。

「どうして彼女と同じ土俵に立とうとするのだ?」

清瑟はふと笑みをこぼした。笑っているうちに、涙がこぼれ落ちた。

「復讐?」

彼女は呟いた。

「子どもができるまで……復讐したと?」

「寒い……長離様、すごく寒いわ……」

流蛍が弱々しく彼の胸にすり寄ると、彼の眉間にたちまち痛切な色が浮かんだ。

再び顔を上げた時、長離は怒気を孕んだ目で清瑟を睨みつけた。

「その程度の度量で、どうして東宮の正妃が務まるというのだ!東宮の掟は破れぬ。事を構えた者が罰を受ける!」

そう言い放つなり、彼はあろうことか清瑟を氷の湖へと突き落としたのだ。

ドボン!

冷え切った湖水が一瞬にして頭上を飲み込み、骨の髄まで千本の針を刺されるような寒気が襲った。

清瑟が必死にもがいて水面に顔を出すと、長離の冷酷な命令が聞こえた。

「二時間、浸かってから上がれ」

真冬の凍てつく湖水は刃のようだった。清瑟は四肢が凍りつき麻痺していく中、流刑の道中での記憶が脳裏に浮かんだ――

吹き荒れる大雪の中、高熱で意識を失った長離を背負い、一歩また一歩と凍てつく川面を踏みしめて歩いたあの冬。

氷が割れ、極寒の淵に落ちた時も、彼女は必死で彼を庇い、人に助けられるまで決して離さなかった……

あの時、彼は彼女の手を固く握りしめ、咽び泣きながら言った。

「清瑟、俺はこの生において、決してお前を裏切らぬ」

彼が言った「裏切らない」とは、別の女のために彼女を氷の湖へ突き落とすことだったのだ。

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