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彼は想い人のために、死んだ私の心臓を奪う?
彼は想い人のために、死んだ私の心臓を奪う?
Author: 白雪遠江

第1話

Author: 白雪遠江

「いつまで隠れてるつもりだ!」

そう吐き捨てると、悠真は私が暮らしていたアパートのドアを乱暴に蹴り開けた。

長い間、人の出入りがなかった部屋には、埃がうっすらと積もっていた。

ドアが開いた拍子に、それが陽の光の中へふわりと舞い上が上がった。

悠真は思わず眉をひそめた。

その後ろには、一ノ瀬詩音(いちのせ しおん)が寄り添うようについてきていた。

悠真にかばわれるように肩を抱かれ、青白い顔で小さく咳き込んだ。

「悠真……もう、やめよう?私は大丈夫だから……」

悠真はすぐに振り返り、優しく微笑んだ。

「詩音は気にしなくていいよ」

その声は、私が一度だって向けられたことのないほど優しかった。

「美咲のやつ……どこかに隠れれば、俺から逃げられると思ってるのか」

悠真はそう言うと、部屋の中へゆっくりと視線を巡らせた。やがて、その目が机の上で止まった。

そこには、少し色あせた写真立てが置かれていた。

あれは、私と悠真が並んで写った、たった1枚の写真だった。

誰にも見つからないよう、私は5年間ずっと大切にしまってきた。

悠真は写真を手に取ると、小さく鼻で笑った。

「姿をくらましたつもりか……相変わらず安っぽい芝居だな」

そのとき、物音を聞きつけた隣のおばさん――佐藤節子(さとう せつこ)が玄関先から顔をのぞかせた。

「あら、どうしたの?」

悠真は写真から目を離さないまま答えた。

「白石美咲を探してる」

「美咲ちゃん?あの子なら、もう5年前に交通事故で亡くなったよ」

その言葉に、詩音の目がかすかに揺れた。

けれどすぐに視線を落とし、遠慮がちに口を開いた。

「そんな……何かの間違いじゃ……少し前まで、私と電話で話してたんです」

節子は2人をじっと見比べると、あきれたようにため息をついた。

「間違えるはずないよ。あの日のことは、今でも忘れられないよ。

警察の人と一緒に、ご家族へ何度も電話したんだ。でも、誰も来なかった。最後まで来てくれたのは、大学のお友達だけだったよ。

お葬式まであの子たちが全部やってくれてね……本当に、美咲ちゃんは気の毒だった」

悠真の表情は、みるみる険しくなっていった。

「お前に何が分かる!美咲が俺を置いて死ぬはずない!全部、俺を振り向かせるための芝居に決まってる!」

節子は思わず言葉を失った。

しばらく黙り込んでいたが、やがて深くため息をついた。

「その言葉、5年前にここへ来て言ってくれたらよかったのにね……

美咲ちゃん、自分のことなんて何ひとつ贅沢しなかった。毎日節約して、お金を貯めてたんだよ。あんたにブランドの腕時計を贈るためにね」

節子は小さく首を振った。

「それなのに、その時計は別の子に渡したんでしょう」

悠真の表情がわずかに強張った。

だが、それもほんの一瞬だった。次の瞬間には、冷たく言い放った。

「……お前には関係ないだろう。

美咲に伝えろ。3日以内に姿を見せなければ、あいつの荷物は全部処分する」

節子は一歩前へ踏み出した。

「あんたに、あの子の物を捨てる資格なんてない!

美咲ちゃんはね、雨の中、3時間もあなたを待ってた。あなたに渡す腕時計を、大事そうに抱えてね。その頃あんたは、今お隣にいるその子と一緒にいたんでしょう。

美咲ちゃんが待ってることなんて、これっぽっちも気づかなかった」

詩音は不安そうに悠真の腕をつかんだ。

「悠真……もういいよ。ねぇ、帰ろう?」

「帰る?」

悠真はその手を乱暴に振り払った。

「あいつが出てくるまで、俺は帰らない!こんな芝居で俺が揺らぐと思うな!俺が後悔するとでも思ったのか?笑わせるな!」

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