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第10話

Penulis: 匿名
若葉の体がすっかり元に戻ったころには、祐介との結婚式がもうすぐそこまで来ていた。

まだ渡していない婚約解消の書類をながめながら、ちゃんとお別れをしようと決心した。

住所を頼りに祐介のアトリエの前に着き、ドアを開けようとした瞬間、中からくぐもったあえぎ声が聞こえてきた。

若葉がドアの隙間からのぞきこむと、祐介がこちらに背を向けて座っているのが見えた。彼の手はリズミカルに上下していて、目の前のモニターには、愛奈とのベッドシーンの動画が再生されていた……

祐介は愛奈の名前を呼びながら、動画をおかずに自分を慰めていた。

若葉は必死に自分の口をふさぎ、静かに涙を流した。

心はとっくに痛みに麻痺していたはずなのに。それでも若葉は、祐介が愛奈に向ける狂おしいほど深い愛に、胸が張り裂けそうだった。

だったら、どうして自分とのお見合いを受けたの?

どうして、期待させるようなことをしたの?

もし医者から直接聞いていなければ、決して信じられなかった。自分が死にかけている時に、祐介は自分を見捨てただけじゃない。その上、愛奈の気持ちまで心配していたなんて。

ここまで来て、若葉はついに一つの事実を認めざるを得なかった。

心の中にいた祐介、あの頃、自分をどん底から救ってくれた少年は、もういなくなってしまったのだと。

そう思うと、若葉はすぐにその場を立ち去った。

考えてみれば、明後日は「あの人」が迎えに来てくれる日だ。

祐介が帰ってきたのは、もう夜も更けたころだった。若葉が荷造りをしているのを見て、怪訝な顔で言った。

「どこに行くつもりだ?」

「あなたには関係ないでしょ」

「もうすぐ結婚するんだぞ。いつまで機嫌を損ねてるんだ?」

「私が、機嫌を損ねてる?」

若葉は皮肉な笑みを浮かべると、祐介の顔を指さして、はっきりと言った。

「私がハイエナに襲われていた時、あなたは何してたの?

私が死にかけていた時、あなたは何してたの?

あなたは、愛奈に向ける優しさの、ほんの少しでも私にくれたことがあった?

あなたに私をとやかく言う資格なんてない」

「あれは本心じゃなかったんだ。誤解しないでくれ……」

「そう?もしあの時、ハイエナに襲われていたのが愛奈だったら?あなたはどっちを助けた?」

祐介は黙りこくった。

答えは、火を見るより明らかだった。

若葉が出て行こうとするのを見て、祐介は初めて自分から彼女の手を掴み、優しい口調で言った。

「俺が悪かった、それでいいだろ?

機嫌を直してくれよ。次の作品には、君の名前もちゃんと載せるから。それから……

愛奈は今、別のことで忙しいんだ。だから、彼女の代わりに論文を書いてくれないか?」

若葉は、とんでもない冗談を聞いたかのように、目を大きく見開いた。

「今、なんて言ったの?」

「後で、愛菜からちゃんとお礼をさせるから」

その悪びれない様子を見て、若葉はあの胸くそ悪い動画のことを思い出し、にやりと笑って言った。

「いいわよ」

愛奈に、一生忘れられない論文をプレゼントしてやろう。

祐介は満足げに去っていった。若葉は冷たく鼻を鳴らし、翌日には家を出ることを決意した。

翌日、若葉は朝早く起きた。すぐに出発できるように、必要な手続きを済ませに行くつもりだった。

だが、家を出て間もなく、後ろから誰かに口をふさがれた。

……

「な、何するの!?」

若葉が閉じ込められたのは、廃工場だった。犯人の男たちはマスクを外すと、得意げに愛奈に電話をかけた。

「ほら、こいつで間違いないか?」

愛奈は満足そうに、わざとスピーカー越しに聞こえるように甲高い声で言った。

「そうよ。

若葉、あなたみたいな女を、祐介先輩と結婚なんてさせないから!」

その声は、まるでナイフのように鋭かった。

「どう思う?祐介先輩が助けに来るのは、男に弄ばれたそっち?それとも、好きでもない男と無理やり結婚させられる、この私?」

「どういうこと?」

愛奈はクスっと笑って言った。「祐介先輩に電話してみればわかるでしょ?」

犯人はわざとらしく若葉にスマホを渡した。

しかし、若葉が何度かけても、祐介は一向に電話に出なかった。

若葉が絶望に打ちひしがれていると、裕介はポケットの中のスマホに誤って触れてしまい、偶然にも電話がつながった。

「祐介さん、本気で結婚式に乗り込むのか?

明日、あなたは若葉さんと結婚式だろ?彼女が騒ぎ立てたらどうするんだ?」

電話の向こうから、遠くてはっきりしない祐介の声が聞こえてきた。

「愛奈が、どこの馬の骨ともわからない男と結婚するのを、黙って見てるなんて……

俺にはできない。

だけど、若葉は違う。あいつは9年も俺のことだけを想ってきたんだ。問題を起こしたりしない。

昨日だって、愛奈の論文を手伝うって約束してくれたしな」

それを聞いて、周りにいた人たちが口々に言った。

「筋金入りの追っかけだな!」

その言葉を聞いて、若葉は皮肉な笑みを浮かべた。

涙が、予期せずこぼれ落ちた。

若葉は自ら通話を終了した。

電話の向こうで、愛奈が得意げに最後の指示を出した。

「その女はあなたたちで好きにしていいわ。私は祐介先輩が迎えに来てくれるから」

犯人たちは電話を切ると、下卑た笑みを浮かべて襲いかかってきた。

若葉は絶望し、固く目を閉じた。

しかし、しばらく経っても何も起こらない。おそるおそる目を開けると、見慣れた姿がそばに立っていた。目の前には、苦しみもだえる犯人たちが転がっていた。

「どうして、そんなボロボロになってるんだ?」

男は若葉の手錠を外し、心配そうに言った。「若葉、大丈夫か?」

若葉は、命が助かった喜びに満たされながら尋ねた。「どうして私がここにいるってわかったの?」

男は短く答えた。「GPSだよ」

若葉は深呼吸して、興奮をなんとかおさえた。「行こう」

「そうだ、さっきの通話、ちゃんと録音できてる?」

若葉は目を細めて答えた。「もちろん」

愛奈と祐介には、必ず報いを受けさせてやる。

でも、その前に。若葉はあの二人への復讐の始まりとして、ちょっとしたプレゼントを贈ることにした。

若葉は「論文」と動画をひとまとめにし、愛奈のアカウントから大学のサーバーに投稿した。タイトルは『先輩との恋愛日記』だ。

祐介、愛奈を心から愛しているんでしょ?

だったら、その報われない愛を、みんなに祝福してもらいなさいよ。

もう、二度とあなたを愛すことはない。
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