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第2話

Auteur: みみ
ぐっすり眠った翌朝、私はいつもより早く目を覚まして、黙々と荷物をまとめ始めた。

五年前、私と亮介が正式に付き合い始めた頃、二人で住めたのは、アパート一階の十畳ちょっとの半地下ワンルームだけだった。道路より少し低くて、隣のマンションに挟まれているせいで、夏は雨水が染み込んでくるし、冬はすきま風が止まらない。

それにベッドは狭いし、エアコンも古くてろくに効かないから、少しでも離れると、すぐ冷気が入り込んでくる。いちばんきつかった時期は、本当に抱き合って寝るしかなかった。

そのうち、私の指先はあかぎれだらけになった。それを見かねた父さんが、昔の仲間に頭を下げてくれた。

そして、亮介をSグループにねじ込んでくれたのだ。

彼はそこで少しずつ昇進して、気づけば営業マネージャーになっていた。私たちはようやくそのボロ部屋を出て、新築マンションへ引っ越した。

当然、シルクのベッドリネンセットも買えるようになって、冬の寒さに震えながら寝ることもなくなった。

……けれど、亮介はもう、寝るときに私を抱きしめてくれなくなった。

代わりに増えたのは、ベッドの上で背中を向けたまま、スマホを見てこっそり笑う時間だ。気になって覗いたら、表示されていた名前はいつも一つ──

林美紗。あの「異性のダチ」だ。

「あのバスケチームが調子いいよ」

「このプロ選手の調子が落ちてるよ」

そんなふうに、いかにも「男同士」みたいなノリで盛り上がっていた。

そんな二人は、たまに世界情勢の話までし始める。

どこの国の移民問題が深刻になっているとか、どこでデモやストライキが起きているとか。

でも、最終的に必ずたどり着く話題はひとつだけ。

──「なにしてるの?脚見せて?」

最初にそれを見つけてしまった夜、私は涙でぐしゃぐしゃになりながら「別れよう」と告げた。それでも気持ち悪さはおさまらなくて、洗面所で胃の中身までひっくり返しそうになりながらしゃがみ込んだ。

ところが亮介は、すぐさまスマホをタップして、美紗が足を骨折して入院している写真を見せつけてきた。

「お前さあ、心が汚れてると、なんでもエロく見えるんだよ?」

吐き捨てるようにそう言われて、いつの間にか責められる側は私のほうになっていた。

そのときのことを思い出して、荷造りをする手が思わず早くなる。

前みたいに、自分を安売りして笑ってごまかしていた頃とは違う。もうすぐ私は結婚する。

いい加減、自分で自分を踏みにじるのはやめないといけない。

ちょうどそのとき、玄関のほうで鍵の回る音がした。一晩ぶりに、亮介が帰ってきた。

彼の手には、冷え切った肉まんの袋がぶら下がっている。どうやら、ずいぶん前にコンビニで買ってきたらしい。

まさか、食べ残しを持って帰ってきたわけじゃないよね。

そう考えているうちに、亮介は淡々と語り始めた。

「昨日さ、親友と話が盛り上がっちゃってさ、そのまま近くのビジホで泊まった。

だから安心しろ。みさとは一緒じゃねえから」

私は顔を上げず、黙々と服を畳んではスーツケースに詰めていく。ついでのように、適当に返した。

「うん、わかってる」

どうでもいいんだ。

どこで寝ようが、誰と寝ようが、それは亮介の自由。

わざわざ私に報告する必要なんて、最初からなかった。

信じられない顔で、亮介は私を見つめた。何か言いかけて、結局最後は飲み込んだように口をつぐんだ。

「なあ、来週の水曜の夜さ、みんなで飯食おうぜ。おじさんとおばさんも呼んでさ。場所はこの前と同じくグランドパレスホテルでな。

あと二ヶ月で結婚だろ? そろそろちゃんと親に挨拶しねえと」

そこでいったん言葉を切り、私の様子をうかがうように横目で見てから、亮介は話を続けた。

「でさ、そのついでにみさも呼ぼうかと思ってんだ。昨日はアイツの親に付き合ってて、結果的にはるのご両親との約束をすっぽかした。俺も彼女も、ちゃんと謝らねえと、筋通んねえだろ?」

スーツケースの持ち手を握っていた私の手が、ぴくりと止まる。

……謝りたい、だって?

また怒らせたい、っていうほうが正しいでしょ!

結婚相手の両親と顔を合わせるとき、他の女を連れていくなんて、どういうつもり?

理不尽にもほどがあるよ!

怒りの最中、スマホの震えで現実に引き戻された。画面には、母さんからのメッセージが並んでいる。

【いつ帰ってくるの?春菜のために、婚約者は仕事休んで待ってるわよ。それに、ドレスの試着もあるし。

それとホテルね、いくつか候補を選んでくれたから、全部春菜に送ったって。どこにするか、春菜が決めていいってさ】

私はこの五年間を思い返す。

亮介と付き合ってから一度だって、彼が私のために有給休暇を取ったことはない。高熱を出してベッドから起き上がれない日でさえ、彼は自分の予定を変えようともしなかった。

むしろ決まって返ってくるのは、こんな言葉だ。

「今さ、仕事がノリに乗ってる時期なんだよ。一歩一歩がマジで大事なんだ。

わかってくれよ。頼むから、邪魔しないでくれ」

そんなの嘘だって、スマホを開けばすぐわかる。

美紗のインスタには、亮介と二人きりの写真がしっかりと映っていたから。

——時間は、ちょうど彼が仕事しているはずの時間。場所は、新しくできたタピオカ店の前。
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