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第9話

Author: みみ
しばらくのあいだは家にこもって、昔の出来事が本当に自分に何の影響も及ぼさなくなったって思えるまで、わざと外の世界から距離を置いていた。

ざわつきがやっと静かになった頃、ようやく外に出て仕事を探してみようかなって悠真に話したとたん、彼は本当にうれしそうに私の頭をくしゃっと撫でてきた。

「春菜も大人になったなあ。自分の考えを顔に出さないってことまで覚えたんだな」

こっちはとっくに成人してるんだけど、悠真の中の私はいつまでも「昔のちょっと生意気で可愛い近所の女の子」のままらしい。

だから、私がほんの少しでも成長したところを見つけると、それだけで全力で褒めてくれる。

そんなふうにいつも甘やかされてきた日々のなか、「ひとつ仕事を用意したよ」と悠真が言ってくれたときも、私は結局それを断らなかった。

ここ数年で、水川家の商売は一気に大きくなり、この街でもトップクラスの企業グループにまで成長したことくらい、私もわかっている。

彼と結婚すると決めた以上、その家で仕事をもらうことに、いまさら変な意地を張る必要なんてない。

……けど、その仕事が亮介と繋がっているなんて、夢にも思わなかった。

というか、海外から帰ってきたばかりの悠真も、まさか亮介が自分の会社で働いているなんて、さすがにそこまでは知らなかったらしい。

……

入社初日、私はかなり早めに本社ビルに着いた。人事部長が手続き一式をてきぱきと済ませ、そのまま私を自分のフロアの部屋へと案内する。

初めてそのガラス扉をくぐったとたん、その場に固まった男と目が合った。

亮介だ。

彼の手には、私に——つまり新しく着任した直属の上司のために用意されたらしいコーヒーカップが握られている。

驚きすぎて、指先から滑り落としそうになっていた。

あまりにもおかしい光景に、つい笑いがこみ上げる。

昔の彼は、私の給料が安いだの、彼の仕事のしんどさをわかっていないだの、散々こぼしていたのに。

その「給料の安い彼女」が、今は彼の直属の上司としてここに立っている。

人事部長は、簡単に私の経歴を紹介した。父の話を出したとたん、亮介の顔色がさっと変わる。

さらに「婚約者の水川悠真は、この会社のオーナー側の人間です」と一言添えられたとたん、彼は本気でふらつき始めて、今にもその場に崩れ落ちそうになった。

それでも、なんとか平静を装
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