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第2話

Penulis: 黒川 種子
レストランを出ると視界は涙で滲んでいた。

後ろから晴加が追いつき、天音の腕をつかんだ。

彼女は険しい目つきで天音を睨みつけた。

「私のこと、不倫相手だと思ってるの?言っとくけど、瑛司君とは何もないわ。瑛司君からもらったお金だって、一円も使ってない」

「目も耳も悪くないから、全部わかってるよ」

天音は晴加の手を振りほどいた。

そのとき、ワゴン車が天音の背後で急ブレーキをかけた。

「きゃっ……」

天音が悲鳴を上げる暇もなく、目出し帽をかぶった屈強な男たちがワゴン車から飛び出してきた。一人が彼女の口を塞ぎ、もう一人が両脇から抱え上げて車内へ押し込んだ。

ほんの数秒で、天音の姿は消えていた。

晴加はその場に立ち尽くした。体をよろめかせ、そのまま冷たい地面に倒れ込んだ。肘を階段の縁にぶつけ、義足も外れて遠くへ転がった。

店内にいる者たちが出てきた頃には、晴加は地面に倒れたまま、みっともない姿をさらしていた。

二人が慌てて彼女を起こした。

晴加の肘の皮膚が大きく擦りむけ、義足も遠くへ飛んでいったのを見て、二人は怒りを爆発させた。

「天音に突き飛ばされたのか?あの女ほど好き勝手やってるやつ、A市中探しても他にいないぞ!」

「あの女は?晴加さんを突き飛ばして、そのまま逃げたのか?絶対に謝らせてやる。ひどすぎる!」

晴加の唇が小刻みに震えた。「あの人が……」

「脅されたのか?大丈夫。俺たちがついてるから。絶対に晴加さんの味方だ」

「あの人が……」

晴加は何度か瞬きをして、こみ上げた涙を飲み込んだ。それから小さく首を振った。

「もう大丈夫です。入りましょう。まだ仕事があるので」

「晴加さんは優しすぎるんだよ!こんなことをされても、何もしないなんて。あいつが瑛司に振り向いてもらえないのも当然だ。あんなに腹黒い女、晴加さんの足元にも及ばないよ」

二人は晴加を支えながら個室に入り、瑛司に訴え始めた。

瑛司は靖紀の皿に料理を取ってやり、彼が食べ始めたのを確かめてから、ようやく口を開いた。

「天音に電話して」瑛司は険しい顔つきのまま、普段より低い声で言った。

晴加が眉を寄せた。「……もういいの。私は大丈夫だから」

「晴加さん、あんな女に同情する必要なんかない。病院に運ばれるまで、黙って見てるつもりか?」

瑛司の友人の一人はすでに電話をかけている。天音を一刻も早く問いただそうとしているようだ。

「プルルル……」

何度呼び出しても応答はなく、しばらくすると通話は自動的に切れた。

「後ろめたいから電話にも出られないんだろ!」

晴加は伏し目がちになり、長めの前髪がその表情を隠していた。袖口に引っ込めた細い手は微かに震えている。

彼女はそっと瑛司に視線を向けた。

瑛司は靖紀が食事をする様子を眺めながら、煮豚を一切れ、少年の皿へ取り分けた。背筋を伸ばしているが固くはなく、動作はゆっくりだが確かで、無駄がなかった。

晴加は唇をきゅっと結び、かすかな笑みを作って、靖紀の反対側へ回る。

「靖紀、おいしい?ほら、おじさんにありがとうは?」

ずっと俯いて食べている靖紀が顔を上げ、目をくるりと動かした。

「ありがとう、パパ」

瑛司は箸を持つ手を一瞬止め、淡々とした視線を向けた。平静な表情の下に何かを隠しているかのように、低く抑えた声で言った。「たくさん食べな」

その様子を見ている友人たちが、こらえきれずに笑い出した。

「瑛司、これこそ家族三人だな!天音には4年も無駄にされたんだ。明日でも、さっさと離婚しろよ。もうぐずぐずするな」

翌日の午前、市役所。

車内では、秘書の神谷直人(かみや なおと)が助手席に座っている。電話をかけては切ることを何度も繰り返した末、彼は困ったように後部座席を振り返った。

「奥様に何度かけても、つながりません」

晴加は瑛司をちらりと見た。瑛司が黙ったままなので、彼女は中央に座る靖紀の頭を撫で、慎重に口を開いた。

「まだ寝ているのかもしれないね」

瑛司は腕時計をちらりと見て、淡々と言った。

「先に晴加をレストランに送れ」

レストランに着くと、晴加は車を降りる前に靖紀にペロペロキャンディーを渡し、その小さな頬を優しく撫でた。

「今日は……瑛司おじさんと一緒にいて、いい子にして。ママは仕事が終わったら迎えに行くから」

靖紀は頷き、俯いたまま包み紙を剥がし始めた。その淡々とした様子は、隣にいる瑛司とどこか似ている。

市役所に戻ると、さらに何台かの高級車が停まっている。昨夜レストランにいた者たちだけではない。その噂を聞きつけ、二人の離婚を見届けようと集まった者も多い。

天音は、その界隈では気ままに振る舞う派手な女として知られている。騒ぎを起こすたび、尻拭いをするのは瑛司だ。

離婚すれば、二人の関係は完全に切れる。瑛司はもう天音の後ろ盾にはならない。

そうなれば、羊の皮をかぶっている狼たちもようやく牙を剥ける。

直人は最後にもう一度電話をかけた。だが、やはりつながらない。

瑛司は目の前のテーブルに置いたノートパソコンで仕事のメールを処理している。その合間に、靖紀のミネラルウォーターの蓋を何気なく開けてやる。

外がどれほど騒がしくても、彼には何の関係もないようだ。

直人は眉をひそめた。

「奥様、何かあったんじゃないでしょうか。以前なら、どれだけ腹を立てていても、社長からの電話に出ないことはありませんでした」

直人から着信があれば、瑛司が自分を呼び出しているのだと天音にはわかる。

以前の彼女なら、どれだけ怒っていても、電話に出て黙り込むのがせいぜいだった。

瑛司はネクタイを緩め、無造作に背もたれへ身を預けた。

低く落ち着いた声には起伏がないが、一言一言が重く響いた。

「あいつの我儘に午前中いっぱい付き合ってやったんだ。もう十分だろ。会社に戻る」

そのとき、車の窓が軽く叩かれた。

窓の外に、赤い服をまとった細身の人が立っている。

あんな派手な色を好んで着るのは天音くらいしかいない。

直人は驚いて目を見開いた。

天音が来た。

しかし、彼女の様子はどこかおかしい。いや、あまりにも無惨だと言えるほどだ。

靴を履いておらず、赤いペディキュアを施した素足は泥だらけだ。両足には何か所も擦り傷があり、足首はひどく腫れ上がっている。

髪は乱れ、化粧もすっかり崩れている。

それでも天音は、瑛司と離婚するために力を振り絞ってここまで来たのだ。

直人が振り返ると、瑛司はすでに車の外へ出ている。

全身から冷気を漂わせながら、瑛司は天音のすぐ前で足を止めた。半歩ほどの距離を保ったまま、彼女を頭の先から足元まで見回した。

「またどこで遊び呆けていたんだ」

天音は唇の端をわずかに持ち上げた。

「そう。遊び呆けてた。もう気が済んだから、ちょうど離婚に来たの」

瑛司は眉間を軽く押さえた。動きはゆっくりで、かろうじて怒りを抑えているようだ。

場の空気が、見えない力に押しつぶされたように重く沈んでいく。

「天音、離婚するなんて何度も言って、俺の限界を試すな」

瑛司の声はいつもより低く、かすかにしゃがれていた。それでも、一言一言がはっきりと響く。

「これが最後だ」

瑛司は怒っていると天音にはわかっている。

以前の天音なら、瑛司の機嫌を取るため、ためらうことなく折れていた。

しかし今の彼女は、瑛司の怒りを無視したまま、振り返って市役所の中へ入っていった。

市役所の窓口受付が終了まであと一分しかなく、職員たちは業務を終えようとしている。

天音は頭を下げた。

「申し訳ありません。お手数をおかけします」

職員は再び席につき、彼女を一瞥して、ハッと息を呑んだ。

天音は以前、メインダンサーとしてテレビに出演し、一時期話題になったことがある。その頃は息を呑むほど美しく洗練されていたが、今の薄汚れて無惨な姿とはあまりにもかけ離れている。

その落差に職員は言葉を失い、小さく咳払いをした。

「はい……ご主人は?」

天音は眉をひそめ、外へ目を向けた。

瑛司は、まだ入っていない。

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