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第7話

Penulis: 黒川 種子
四年前、継母は天音を年寄りの男のもとへ無理やり嫁に出そうとしていた。彼女は日の当たらない地下室に閉じ込められ、スマホも取り上げられて、祖父母と連絡を取ることもできなかった。

そんなとき、瑛司の祖父母が天音の実家を訪れ、瑛司が天音との結婚を望んでいると正式に申し入れた。継母はそれでようやく彼女を地下室から出した。

外に出た天音は、真っ先に瑛司のもとへ向かった。そこで目にしたのは、血の気を失った顔でベッドに横たわる瑛司の姿だった。全身傷だらけで、まだ血がにじんでいる。高熱にうなされ、意識もなかった。

天音は、瑛司が自分と結婚するために家族に逆らい、命が危ぶまれるほど追い詰められたのだと思っていた。

結婚してからの四年間、瑛司がどれほど冷たくても、天音は一度も気にしなかった。ただひたすら彼を愛し続けた。瑛司が自分のために家族と衝突し、意識を失うほど追い詰められていた姿を見た時、一生彼を裏切らないと誓ったからだ。

しかし、彼女は間違っていた。

あの時瑛司が罰を受けたのは、彼女と結婚するためではなく、晴加と結婚するためだった。

指先からすっと力が抜けた。胸が見えない手でつかまれたように苦しくなった。突然の不安に襲われ、手首まで力が抜けていく。

手にした白磁の椀がぐらりと揺れ、天音は慌てて握りしめようとした。だが、指先は冷たい器の表面をかすめただけだ。

椀が滑り落ちた瞬間、ガシャン、パリンパリンという甲高い音が響いた。白磁の器は床の上で粉々に砕け、スープが一面に流れ出した。

天音の指先は、何かをつかもうとするような形のまま固まった。心臓が早鐘を打ち、呼吸さえ震えている。

「天音ちゃん、どうしたの……」

真恵子が引き止めようと彼女の腕を掴もうとしたが、天音は挨拶もせず、逃げるようにその場を離れた。

背後から、真恵子が瑛司に追いかけるように告げる声が聞こえた。

瑛司はいつもと変わらぬ淡々とした声で言った。「遠くへは行かないだろ」

そうだ。以前の天音は、腹を立ててもせいぜい玄関まで出ていくくらいだった。その気になれば、すぐに見つけられる。それどころか、瑛司が探しに来なくても、天音はいつもおとなしく戻ってきた。

相手に尽くしすぎると、それがいつか当たり前だと思われてしまう。

天音は広い屋敷を飛び出した。外には、どこまでも続く大通りが広がっている。中心街から遠く、タクシーもなかなかつかまらない。天音は呆然と歩きながら、美奈に電話をかけた。

「もしもし?天音?」

「美奈……」

その名前を口にした瞬間、彼女は我慢しきれず、子どものように声を上げて泣き崩れた。

「どうしたの?今どこ?迎えに行くから」

天音はしゃくり上げながら住所を伝えた。美奈はすぐに答えた。

「分かった。今から行くから」

美奈は電話を切らなかった。天音の耳に、車のドアを開け閉めする音が届いた。

車に乗り込むと、天音の気を紛らわせるように、美奈は取り留めのない話を振ってきた。

天音は道端にしゃがみ込み、さっき起きたことを話した。

それを聞いて、美奈はたちまち口汚く瑛司を罵った。

「何それ。あいつ、まだ人間なの?四年もあなたを騙し続けて、獣以下じゃん。あなたはいつも瑛司はただ見た目が冷たいだけなんて庇ってたけど、言わせれば頭の先からつま先まで、骨の髄まで冷血な男だよ!でも、やっと目が覚めたね。あんなクズとはさっさと離婚しなよ!」

その時、スマートフォンの画面に、エド教授からのメッセージが表示された。

【EJ、研究室で重大なトラブルが起きている。事態はかなり切迫していて、突然の連絡ですまないが、見に来てくれないか。もしこの問題を解決できれば、君がすぐこちらで研究できるよう、上も許可を出してくれるはずだ】

天音はすぐに気持ちを切り替え、今から向かうと返事をした。教授に場所を聞き、美奈が来たら、そのまま研究室へ向かうつもりだ。

その時、天音の前に黒いマイバッハが停まり、ゆっくりと車の窓が下りた。

瑛司はわずかに顔を傾け、光と影の中にその横顔がくっきりと浮かび上がっていた。ややくぼんだ目元から、底の見えない冷たい眼差しが向けられた。その端正な顔立ちには、近寄りがたいほどの威圧感がある。

「乗れ」

瑛司は何事もなかったかのように、淡々と言った。まるで彼女がすぐ近くで自分を待っていると、最初から決めつけていたかのようだ。

天音はゆっくり立ち上がった。「いい。美奈が迎えに来るから」

美奈の名前を聞いても、瑛司は嫌な顔ひとつ見せなかった。だが、天音には分かっている。瑛司は、美奈のように仕事もせず好き勝手に生きている人間を、自分の周りにいる各分野のエリートたちとは別世界の存在だと思っている。

「天音、時間を無駄にするな」

瑛司の声は淡々としていて、感情の起伏がない。

「別に意地を張って、機嫌を取ってほしいわけじゃない」

天音は横を向き、わずかに顎を上げた。「美奈はもう来てるから」

その直後、急ブレーキの音が響いた。マイバッハの前に、ロイヤルブルーのフェラーリが滑り込んでくる。

瑛司はフェラーリを一瞥し、再び彼女を見つめてしばらく沈黙した。そして小さくうなずくと、意に介さない様子で運転手に車を出すよう指示した。

美奈は素早く車を降りると、まっすぐ天音のもとへ歩み寄り、その手首をつかんだ。瑛司を敵意のこもった目でにらみつけ、皮肉な笑みを浮かべる。

「天音は私が連れてくんで、藤川さんはもういいです。さっき誰を乗せてたのかは知りませんけど、天音はそういうの無理なんで」

瑛司は口論を好む人間ではないから、何も言わずに車の窓を閉めた。

美奈も天音の手を引き、素早く乗るよう促した。自分も運転席に乗り込むと、アクセルを踏み込んだ。

フェラーリは一気に加速してマイバッハを追い越し、排気ガスを残し、走り去った。

しばらく走り、人里離れた立ち入り制限区域に到着すると、美奈はそれ以上立ち入ることができず、外に車を止めた。

「行ってきな。終わったら電話して」

天音は頷いた。車を降りて入口まで歩き、教授に到着を知らせようとメッセージを打ちかけた。

その時、思いがけない人に行く手を阻まれた。

瑛司の友人である桐谷明人(きりたに あきと)だ。彼は天音を何より嫌っており、以前から、天音は瑛司に釣り合わないと会うたびに皮肉を言っていた。昔は二十代の若い女性研究者を瑛司に紹介して、「気に入ったら愛人にでもすればいい」とまで言っていた。

そのことを知られて、天音が激怒して大騒ぎしたため、二人の関係はさらに悪化している。

「ここで何をしてる?」

明人は眉間に深いしわを寄せ、嫌悪感を隠そうともしなかった。

「お前が来るような場所じゃない。さっさと帰れ」

「私が来ちゃいけないの?それはあなたが決めることなの?」天音はなるべく冷静に言い返した。

「ふん」

明人は鼻で笑い、指を差した。

「ここは国の機密を扱ってる研究所だぞ。舞踊科のおまえが、何しに来た?掃除でもするのか?」

「そうだとしても、あなたには関係ないでしょ」

天音は明人と口論する気にもなれず、エド教授へメッセージを送った。

【教授、着きました】

【分かった。今、入口に人を向かわせた。もう会えたか?その人について入ってきてくれ】

天音は振り返り、周囲を見回した。

この辺りにいるのは明人だけだ。

明人は瑛司に「天音を見かけた」とメッセージを送ってから、腕時計をちらりと見て愚痴をこぼした。

「まだ来ないのかよ」

天音は探るように尋ねた。「誰かを待ってるの?」

「お前には関係ない」

ただでさえ待ちくたびれていた彼は、彼女を見てさらに苛立ちを募らせた。

「さっさと消えろよ。警備に追い出されるまで居座るつもりか?ここは立ち止まり禁止だぞ」

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Komen (1)
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山下正子
えぇ、やば…!敵が仲間って...️付き合いたくないよね!w
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