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第6話

Auteur: 月下
萌々花は唇を噛んだ。邸宅ですって?蒼介が文月に邸宅を?

それに、あの電話で聞こえてきた言葉が頭から離れない。「婚前契約書も忘れないで。結納として、深津家の株式をいただくのよ」

萌々花は、もう我慢の限界だった。

それは彼女の子供のものになるはずのもの。どうして文月なんかに渡してなるものか。

怒りに任せて、彼女は画廊を飛び出した。

文月はそれを見て、口元をほころばせた。

案の定、その夜、蒼介は安眠を得られなかった。

萌々花は妊娠してからというもの、以前にも増してわがままになっていた。かつては蒼介を立て、何でも言うことを聞く素直な女を演じていたが、女には野心というものがある。

深津夫人の座は一つしかない。そして今、その場所には文月という邪魔者が居座っている。

蒼介が文月に邸宅と株式を与えたと知った今、萌々花は完全に行動を抑えられなくなっていた。

蒼介が仕事から戻り、疲れ切った体で萌々花を抱きしめようとした途端、彼女は目を真っ赤にして彼を責め立てた。「あなたの心には星野さんしかいないのね。私なんてどうでもいいんでしょ!

お金も邸宅もあの人にあげて、結婚までするなんて。蒼介、私のこと、お腹の子のこと、本気で考えたことあるの?」

蒼介の顔が、一瞬にして冷たくこわばった。だが、すぐにいつもの表情に戻ると、萌々花をなだめ始める。

「俺が一番愛しているのは君だけだ。結婚は、あいつが六年もそばにいたから、責任を取らないといけないだけなんだ。

萌々花、もう少しだけ我慢してくれないか?今すぐ蒼月湾の邸宅を君の名義にする。明日からそこに住んでいいから!」

萌々花は唇を尖らせたが、男を追い詰めすぎるのは得策ではないと知っている。彼女はただ、こう急かすだけだった。「じゃあ、早く行ってきて」

文月は、蒼介がこの邸宅に戻ってくるとは思っていなかった。

彼の目元には、うっすらと隈ができている。体からは強い酒の匂いがした。

あまりにも疲れているのか、演じる気力さえないのだろう。纏った香水の匂いが鼻をつく。

彼はソファに身を投げ出し、そのまま動かない。周囲は奇妙なほど静まり返り、やがて文月が彼のために白湯を一杯持ってきた。

彼女がただ蒼介を見つめていると、男は突然起き上がり、彼女をその腕の中に閉じ込めた。

「文月、会いたかった。あいつらが無理やり酒を飲ませるんだ。どうして助けに来てくれないんだよ」

文月は無表情だった。蒼介が何を言おうと、彼女の心はもう微動だにしない。

彼女は恋愛において潔癖だった。一度でも裏切った男は、もういらない。

「蒼介、お水を飲んで。少し休んだら?」

その言葉を発した瞬間、文月自身も、自分の声があまりにも冷たいことに気づいた。蒼介も、何かおかしいと感じるかもしれない。

しかし、彼はただ子犬のような目で見つめ返すと、こう言った。「なあ、文月。蒼月湾の邸宅、海外から帰ってきたばかりの友達にしばらく住まわせてやってもいいか?住むところもなくて困ってるんだ」

「いいわ」

文月はためらうことなく頷いた。蒼介のその見え透いた嘘を暴く気力さえ、彼女にはなかった。

どんな友達が、わざわざ人の新居に住む必要があるというのか。

深津家には他にいくらでも邸宅があるのに、よりによって二人の新居を選んでくるなんて。

蒼介はすぐに文月の顔に近づき、その唇を奪おうとしたが、文月はさっと身をかわした。

「何か食べたから、口の匂いが気になるの」

蒼介は一瞬動きを止め、眉をひそめた。「文月、もしかして、機嫌が悪いのか?

もし君が嫌なら、蒼月湾の邸宅は……」

「いいえ」文月は目を伏せた。「蒼介、知っているでしょう?あなたが望むことなら、私は絶対に断らないわ」

蒼介の心に、何かが触れたような気がした。結局のところ、文月はいつも彼を甘やかしてくれる。

その時、ポケットの携帯がまた鳴り出した。

蒼介はすぐに携帯を手に取ると、文月の反応を窺うことを忘れなかった。

だが、文月はすでに部屋の中へ歩き始めており、こんな夜更けに誰から電話があろうと、まったく気にする素振りを見せない。

彼は知らず知らずのうちに安堵のため息をつくと、ベランダへ出て電話に出た。

「萌々花、明日、もっといい邸宅を用意してやる」

蒼介の言葉は明らかだった。蒼月湾の邸宅を萌々花に与えるつもりはない、と。

萌々花は呆然とした。「蒼介……奥さんが、嫌がってるの?大丈夫よ、私、いらないから」

泣き声交じりの声が聞こえ、蒼介の口調が少し和らいだ。

彼は甘い言葉をいくつか囁いて萌々花をなだめ、電話を切ろうとした。その時、萌々花が不意にこう言った。

「お腹の子が、パパに会いたいって言ってる。蒼介、今夜、家で待ってるから」

蒼介の胸が、温かくなった。

彼は急いで上着を羽織り、家を出ようとする。だが、テーブルの上に置かれた白湯のグラスを見て、ふと足を止めた。

文月が、玄関に立って彼を見ていた。

「文月、会社で急な仕事が入った。ちょっと処理してくる」

言い終えると、蒼介は水を飲み干し、そのまま出て行った。

文月は、そのグラスをためらうことなくゴミ箱に捨てた。

蒼介が触れたもの。汚らわしい!

あの絵は、萌々花の住まいに届けられた。彼女は使用人に命じ、壁の一番目立つ場所にそれを掛けさせた。まるで自分の戦利品を眺めるかのように。

蒼介が帰宅し、その絵を目にした瞬間、彼の瞳孔がわずかに収縮した。

萌々花は、彼の視線の揺らぎに気づくこともなく、自慢げに蒼介のそばに寄り添った。

「蒼介、どうしたの?」

すぐに、萌々花は異変に気づいた。

蒼介は彼女の手を振りほどくと、代わりに彼女を抱き上げて自分の膝の上に座らせ、こう尋ねた。「この絵はどこで手に入れたんだ?」

「画廊で買ったの。愛を記念するための絵なんだって。素敵だと思って、買っちゃった」

萌々花は微笑みながら、蒼介の胸にすり寄った。

「これで、私たちの愛を記念しましょう」

その夜、珍しく蒼介は眠れなかった。頭の中は、あの絵のことでいっぱいだった。

彼は携帯を手に取り、そっとベッドを抜け出すと、時間を確認した。

言い知れぬ不吉な予感が彼を襲う。だが、目前に迫った結婚式の日付を見て、彼はふと安堵のため息をついた。

万全のはずだ、そうだろう?

蒼介は萌々花の顔に身を寄せ、軽く口づけを落とすと、部屋を出て行った。

澄川市は雨が降っていた。文月は窓辺に寄りかかっている。手にした画板には、描きたいものがどうしても描けなかった。

六年間、彼女はひたすら「感情」を描き続けてきた。今、別のものを描こうとしても、それは文月にとって、あまりにも難しいことだった。

その時、玄関のドアが開く音がして、文月は固まった。蒼介が、また戻ってきた?

彼女の体が、知らず知らずのうちに震える。部屋のドアが開けられ、蒼介がそこに立っていた。彼は、低く掠れた声で言った。「文月」

文月が反応するより先に、蒼介は彼女を強く抱きしめ、何度も何度も問いかけた。「なあ、文月。俺たち、結婚するよな?必ずするよな?」

文月は自嘲した。この期に及んで、彼はまだ彼女を騙している。

蒼介のたった一度の抱擁と、哀れな一言で、心が揺らいでしまうなんて。

「ええ、結婚するわ。必ず。

私は、あなたを騙したりしないわ、蒼介」

文月は嘘をつくのが下手だった。だが、そんな彼女が、蒼介との関係において、嘘をつかなければならなかった。

「文月、今夜は……」

蒼介の瞳が、熱を帯びてきらめく。彼の手が、文月の腰を強く掴んだ。

文月には理解できなかった。ついさっきまで萌々花のベッドにいたであろう男が、次の瞬間には自分にこんな言葉を吐けるなんて……
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