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12.あか抜けた女④

Auteur: 鷹槻れん
last update Date de publication: 2026-11-01 09:06:45

「……なぁ、それどういう意味だよ」

「どういう、意味って……」

「相変わらず察しの悪い女だな。……じゃあ言い方変えてやる。お前、今どこに住んでるんだ?」

「今……?」

「そうだよ。マンションを出て行ってから、どこで暮らしてんだって聞いてんの」

「それは……」

「仕事はまだ前のまま続けてるんだろ?」

「はい。学校の図書室で、今も働いています」

「ふうん。まあ、お前にはああいう地味な仕事が向いてるよな」

 その言い方に、少しだけ引っ掛かるものを感じたけれど、私は何も言わなかった。

 それに気をよくしたのか、孝夫さんが小馬鹿にしたような視線を向けてくる。

「だったら尚更、だ」

「え?」

「お前の安やっすい給料じゃ、ボロアパートを借りるのすら無理だろ、って話」

「……」

 私のお給料を管理していたのは孝夫さんだ。毎月いくら振り込まれるのか知っているからこそのセリフに、私はギュッと鞄を持つ手に力を込める。

 悔しいけれど、今の私のお給料では、ひとりで生活していくのが難しいのも事実だった。

「どこに〝寄生〟してんの?」

「きせい?」

「俺と一緒に住んでた時もそ
鷹槻れん

いつも読んで下さって有難うございます。 『恋カレ』は毎週日曜に更新中です。 ※家人が入院中のため、更新時間はまちまちになりそうです。お許しいただければ幸いです。

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  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   12.あか抜けた女④

    「……なぁ、それどういう意味だよ」 「どういう、意味って……」 「相変わらず察しの悪い女だな。……じゃあ言い方変えてやる。お前、今どこに住んでるんだ?」 「今……?」 「そうだよ。マンションを出て行ってから、どこで暮らしてんだって聞いてんの」 「それは……」 「仕事はまだ前のまま続けてるんだろ?」 「はい。学校の図書室で、今も働いています」 「ふうん。まあ、お前にはああいう地味な仕事が向いてるよな」 その言い方に、少しだけ引っ掛かるものを感じたけれど、私は何も言わなかった。  それに気をよくしたのか、孝夫さんが小馬鹿にしたような視線を向けてくる。「だったら尚更、だ」 「え?」 「お前の安い給料じゃ、ボロアパートを借りるのすら無理だろ、って話」 「……」 私のお給料を管理していたのは孝夫さんだ。毎月いくら振り込まれるのか知っているからこそのセリフに、私はギュッと鞄を持つ手に力を込める。  悔しいけれど、今の私のお給料では、ひとりで生活していくのが難しいのも事実だった。「どこに〝寄生〟してんの?」 「きせい?」 「俺と一緒に住んでた時もそうだっただろ? 俺の稼ぎのお陰でいいマンションに住めてた。ある意味寄生虫みたいな生き方だったじゃねぇか」 相変わらずの物言いに、私は別れてもこの人は何も変わらないんだと思った。「で? 次の寄生相手はどんなやつ?」 「……」 「どうせ、男なんだろ?」 思いがけない指摘に、私は思わず目を瞬かせた。「……どうして、そんなこと言うの?」 「いや、だってお前、随分雰囲気変わったじゃねぇか。なぁ、穂乃。お前、新しい男が出来たから、俺から離れたんだろ?」 そう言って、孝夫さんは探るように私の顔を覗き込んできた。 新しい男。 その言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだのは一臣さんの顔だった。 一緒に暮らしている。  毎日顔を合わせて、ご飯を食べて、他愛のない話をして。  ……キスだって、した。 だけど……。(……一臣さんは、私の……なに?) 恋人、と言えたら嬉しい。  だけど、竹中さんには話せた〝弟さんのこと〟を、私は打ち明けてもらえなかった。  それはきっと、私がまだ、一臣さんにとってそこまで踏み込んでいい相手ではないからなのだろう。 そう考えたら、胸の奥がきゅっと締め

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   12.あか抜けた女③

    聞き覚えのある声だった。 けれど、まさかこんなところで聞くとは思っていなかった声でもある。 恐る恐る振り返った私は、そこに立っている男性を見て、思わず息を呑んだ。 「……孝夫さんっ」 そこにいたのは、元夫の〝杉岡孝夫〟だった。 最後に顔を合わせたのは、離婚の手続きをした頃だっただろうか。 彼は以前と同じようにスーツを着ていたけれど、どことなくくたびれて見えた。 シャツには以前のようなパリッとした張りがなく、ジャケットやネクタイにもところどころ皺が寄っている。 結婚していた頃は、私が毎晩欠かさずシャツにアイロンを掛けていたし、スーツは定期的にクリーニングに出していた。 それこそネクタイの手入れに至るまで、すべて私の仕事だった。 孝夫さんは、そういうことを自分では一切しない人だったから……。 (……もしかして、困ってる?) そんなことを考えてから、私は慌ててその思いを打ち消した。 私と孝夫さんはもう夫婦じゃない。 今さら私が気にすることじゃなかった。 それよりも気になったのは、私を見る孝夫さんの表情だった。 「……本当に、穂乃か?」 「……? そうです……けど……」 「いや、お前……」 孝夫さんは何か言いかけて口を閉じると、私を上から下まで眺めた。 その視線が妙に居心地悪くて、思わず買い物袋を身体の前に持ってくる。 「眼鏡は?」 「コンタクトにしました」 「へえ……」 孝夫さんは感心したように声を漏らすと、今度は私の顔をじっと見つめた。 「お前って、そういえば眼鏡外すとそんな顔だったよな……」 「……え?」 「いや、眼鏡外したら随分印象が違って、可愛くなるじゃん? ってびっくりしてさ。……化粧も変えた?」 「変えたりはしてない……です、けど……」 「ふうん、そうなんだ。ホント、前からそうしてりゃよかったのに」 その言葉に、私は思わず瞬きをした。 ――前から、そうしていればよかった? 確かに、結婚していた頃の私は今ほど身なりに気を遣っていなかった。 でも、それは孝夫さんが、私がお洒落をすることを許してくれなかったからでもある。 少し明るい色の服を着れば、年齢を考えろと呆れられた。 美容院へ行きたいと言えば、そんなこと

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   12.あか抜けた女②

     それからも、一臣さんとの関係は変わらなかった。  相変わらず優しくしてくれるし、私もできるだけ今まで通りに接するようにしている。  ただ、ふとした瞬間に、あの日の言葉を思い出してしまうことだけは、どうにもならなかった。 そんな日々が続くうちに、九月のお給料日がやってきた。  仕事を終えてスマートフォンで銀行口座の残高を確認した私は、思わず頬を緩めてしまう。(……ちゃんと入ってる) もちろん、お給料が振り込まれるのは初めてのことじゃない。  だけど、以前とは違う。 孝夫さんと結婚していた頃、私のお給料はすべて孝夫さんが管理していた。  生活費も貯金も、全部任せておけばいいと言われて、私は自分で稼いだお金を自由に使うことが出来なかった。 離婚してから振込先を変更してもらい、今では働いた分のお金を自分で管理できる。 当たり前のことなのかもしれないけれど、まだそのことに慣れていない私にとっては少し不思議で……同時に、とても嬉しいことだった。 もちろん、全部を好き勝手に使うつもりはない。 一臣さんの家でお世話になっている以上、本当は家賃や光熱費も折半すべきだと思っている。  でも、一臣さんは決してそれを許してくれなかったから、私はせめて……と頼み込んで、食費だけは出来るだけ負担させてもらっていた。(でも、いつか……) 一臣さんに大きなお返しが出来るように、少しずつでも貯金している真っ最中だ。 それに、うなちゃんのためにも必要なお金は取っておかなくちゃ。 動物を飼うということは、その子の一生に責任を持つということだ。  病気や怪我をすればちゃんと動物病院へ連れて行きたいし、フードやおやつだって買ってあげたい。  お金はいくらあっても、多すぎて困るということはないと思う。 そもそも、あのマンションを出た時、私は自分の荷物をほとんど持ち出せなかった。  洋服はもちろん、うなちゃんの飼育用品さえ、ろくに持ってこられなかったのだ。  そんな私たちのために、一臣さんは色々なものを買い揃えてくれた。  うなちゃんのベッドや食器、お散歩用のリードに、おもちゃまで。 私の洋服についても、何度か一緒に買いに行こうと誘ってくれたけれど、さすがにそこまで甘えるわけにはいかなくて。  それだけは、ずっとお断りしていた。  だから今まで、足りない

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   12.あか抜けた女①

     竹中亜里沙さんが学校へやってきてから、数日が経った。  あの日以来、一臣さんとの間に何かが変わったのかと聞かれたら、私はきっと首を横に振ると思う。  だって、一臣さんは今までと何も変わらないから。「ただいま、穂乃」 仕事から帰ってくれば、いつものように私の名前を呼んでくれるし、夕飯を食べれば「美味い」と褒めてくれる。  食後の片付けだって、私が何も言わなくても進んで手伝ってくれるし、うなぎとのスキンシップも相変わらず楽しそうにしてくれている。 何も変わっていない。  変わってしまったのは、たぶん私の方だ。「穂乃、今日は俺が皿、洗うよ」 そう言って、一臣さんが食卓から運んだ食器を引き取ってくれる。「あ、ありがとうございます」 「ん。じゃあ、穂乃は拭く係な」 にこっと笑ってスポンジを手に取る一臣さんを見ながら、私は小さく息を吐いた。 以前なら、こんな何気ないやり取りが嬉しかった。 一臣さんが私の名前を呼んでくれることも、当たり前のように家事を分担してくれることも。 この家で一緒に暮らしているうちに、少しずつ距離が縮まっているような気がしていたから。 だけど今は――。『穂乃には関係ないんだよ』 ふとした瞬間に、あの日の言葉が蘇ってしまう。 もちろん、一臣さんが私を傷つけようとして言ったわけじゃないことくらい、分かっている。  竹中さんとの間に何があったのかは知らないけれど、きっと簡単には話せない事情があるんだと思う。  だから、無理に聞き出そうなんて思っていない。  ただ……。(私、一臣さんのことを、どこまで知っていいんだろう) そんなことを考えるようになってしまった。 同じ家に暮らしている。  一緒にご飯を食べて、他愛のない話をして、時にはふざけ合って笑うこともある。  それに、キスだってした。  なのに私たちは、恋人同士というわけじゃない。  そのことを、あの日の一件で改めて思い知らされたような気がしていた。「……穂乃?」 「えっ?」 名前を呼ばれて顔を上げると、一臣さんが少し心配そうにこちらを見ていた。「どうした? ぼーっとして」 「あ、いえ。何でもありません」 「そう?」 そう言いながらも、一臣さんはすぐには視線を外さなかった。「あのさ、

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   11.私は全部知っている(11)

    「昔の話だ。ホント、穂乃が気にすることじゃねぇんだよ」 「でも……」 「俺の! ……問題だから」 そこで一度、言葉を切る。「穂乃まで背負う必要はない」 ――背負う必要はない。 その言葉に、胸が締め付けられた。 竹中さんには話せたことなのに、私には話せないと線引きされたようで。  それが、堪らなく辛かった。(……やっぱり私は、一臣さんにとって〝話すに値する相手〟じゃないのかな) そう思ったら、胸の奥がズキンと痛んだ。「でも、私……」 「穂乃?」 「一臣さんが苦しかったことなら、私だって……」 少しくらい、一緒に背負いたい。  そんなふうに思うのは、いけないことなのだろうか。「私だって、一臣さんのこと――」 「だから!」 思いのほか強い声に、身体がびくりと震えた。  一臣さんもハッとしたように目を見開く。 それでも、もう口から出てしまった言葉は止まらなかった。「これは俺の問題なんだよ。穂乃が背負うようなことじゃない。だから――」 一臣さんが、苦しそうに眉根を寄せる。「穂乃には関係ないんだよ」 「……」 ――関係、ない。 その言葉だけが、やけにはっきりと耳に残った。「……そっか」 「穂乃?」 「そう、ですよね」 何とか笑おうとした。  ちゃんと笑えたかどうかは、自分でも分からない。「ごめんなさい。変なこと聞いて」 「いや、そういう意味じゃ――」 「ジョギング、行くんですよね?」 「あ……」 「引き止めてごめんなさい。行ってきてください」 「穂乃」 「私、大丈夫ですから」 大丈夫。 また同じ言葉を使ってしまった。  今日、何度そう自分に言い聞かせただろう。 一臣さんは何か言いたそうに私を見ていた。 だけど

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   11.私は全部知っている(10)

    「……マジか」 「一臣さんのせいじゃありません」 「実は途中で受け持ちクラスの保護者から電話が入ってさ。そこであの人と別れなきゃなんなかったんだ。さすがに校長か教頭にあいさつして帰ってくれたとばかり思ってたんだけど……図書室へ行ってたって知ってたら俺も後を追いかけたのに。気付かなくてすまん」  一臣さんは、やたら申し訳なさそうな顔をして頭を下げてくる。  それは、彼女が私に敵意を持っていることを知っているの前提みたいな態度に思えて――。  私はギュッと拳を握りしめた。「で?」  こちらを見つめる一臣さんの眉間に、わずかに皺が寄る。 「なんか変なこと言われたんだよな、きっと」 そんな一臣さんに、私は意を決して口を開く。「あの……、竹中さんって、一臣さんの……元恋人、なんですか?」 一瞬。  ほんの一瞬、一臣さんが黙った。 でも、否定はしなかった。 やがて、ふうっと短く息を吐く。「……ああ」 分かっていた答えだったけれど、肯定された途端、胸の奥がちくりと痛んだ。「確かに昔、ほんの一時期付き合ってたことがある」 「そう、……なんです、ね」 「……あの人が言ったのか?」 「はい」 「余計なことを……」 一臣さんが面倒くさそうに髪を掻く。「黙ってて悪かった」 「いえ!」 思わず強く否定した。「謝らないでください。そんなの、私に謝ることじゃないです」 「でも」 「本当に大丈夫です」 そこは、ちゃんと伝えておきたかった。「私にだって孝夫さんとのことがありますし。一臣さんに昔付き合っていた人がいたからって、それをどうこう言うつもりはありません」 ――言える立場でもありませんし。  その一言は寸前のところでグッと喉の奥に押し込めた。「穂乃」 「本当です」 竹中さんが元恋人だったことは、苦しい。  嫉妬していないと言った

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   4.さよならの雨と、拾われた夜①

    五月に入ったばかりという今日、まだ梅雨ではないけれど、外はあいにくの雨模様だった。 「ごめんなさい、孝夫さん。今日は月に一度の委員会活動の日で残業なの」 私の勤め先の青葉小学校では、毎月大体第四月曜日の五時間目が、各委員会の定例集会になっている。 校内にいくつもある様々な委員会所属の五・六年生たちが、各々定められた場所へ集まってイベントの取り決めをしたり、日々の反省会をしたり……。月によってやることはまちまちだ。 私が担当する図書委員会の児童らは、図書室に集まって定例会をする。 基本的には教員免許を所持している司書教諭の白石先生が主体になって議事進行をなされるのだけれど、図書

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   3.ヤクザさん(?)の正体⑤

    「あの、そういえば私、梅本先生からお預かりした手袋をお返ししたくて。あれからも毎日同じ時間にうなちゃんと散歩してたんですけど、あれっきりお会い出来なくなっちゃいましたよね? あれって……もしかして」 ――私と出会いたくなくて避けていらっしゃいましたか? なんでかな? その言葉は肯定されるのが怖くて続けられなかった。 だって、それまではずっと変わらずその時間帯に梅本先生(と思しきランナー)と毎日のように出会っていたの。なのに、あの一件以降、ぱったりと会えなくなってしまったんだもん。

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   3.ヤクザさん(?)の正体④

    一瞬の沈黙のあと、彼がぽつりと続けた。 「……双子の姉妹とか、いる?」 思いもよらない質問に、私はぽかんと口を開けて目を瞬いた。 「……へ?」 「いや、こないだ公園で……。あー、いや、いい。なんでもない」 言いよどむ彼に、私は彼が例の片手袋紛失事件のことを言おうとしているんだと悟って、ブワリと頬が熱を持つのを感じた。それを誤魔化すみたいに、私は慌てて口を開いたの。 「そ、その節は、本当にごめんなさいっ! あのときはあんな形で怖いお顔の男性が落っことした手袋を拾ってしまったりしたから……その……〝既存の知識〟と合わせて、私……てっきり……」 慌てる余り、眼前の教師こ

  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   3.ヤクザさん(?)の正体③

     ふと時計を見遣ると、タイムリミットまであと20分。 (とりあえず1年1組だけ。できるかな?)  中途半端な状態になるのは避けたい。1年1組は全員で23人だから、頑張ればギリギリいけるかな?  そんな算段を付けながら、クラス担任の名前を見るとはなしに見遣って、私は小さく吐息を落とした。 (梅本先生……)  ああーん、彼から預かりっぱなしになっている手袋、どうしよう?  朝の職員会議の後、彼とバッチリ目が合ってしまったのを思い出した私は、小さく吐息を落とした。  一度は目を逸らした問題だったけど、いつまでも放置ってわけにはいかないよね? *** 始業式や着任式へ

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