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第二章:ルイスの嫉妬

Auteur: Kaya
last update Dernière mise à jour: 2025-10-20 19:20:00

私たちの異様な様子に、ユリが躊躇いがちにエルミニオに報告をした。

リーアが?

何でもいいからいいタイミングだわ。

さっさとこの男を、私の前から連れて行って。

「何、リーアが?

ここへは来るなと言っておいたのに。」

これで、ようやく解放されると思ったのに。

「仕方ない。入り口付近で待たせておくように。」

訝しげに吐き捨てると、再びエルミニオは私に冷たい視線を向けた。

ユリは不満げに私を見たが、小さく頭を下げて、その場を去ってしまった。

「逃げられると思ったのか?ロジータ。」

「ふふ。本当に呆れますね。

ですから逃げるも何も、殿下こそご自分が何をやっているのか自覚はあるのですか?」

言われっぱなしは癪に触る。

私もエルミニオに刺々しく言い返すが、全く通じてないようだ。

愛しいリーアを放っておいて、憎い私に構っている場合ではないでしょう?

どうしたら納得するのよ、この男は!

そんなあからさまな殺意を向けないで欲しいものだわ。

憎らしいのはこっちだって同じよ!

「エルミニオ様……!」

その時、エルミニオの背後に勢いよく何かが飛び込んできた。

使用人とは思えない、美しいローズピンク色のドレスを着たリーアだった。

もうすっかり王太子妃気取りね。

彼女は甘えた様子でエルミニオの背後に隠れ、私に怯えたような視線を向けた。

「あ……!ロジータ様もご一緒だったのですね。」

「一体どうしたのだ?リーア。

図書室には来るなと言っておいただろう?」

やっとエルミニオが私から離れ、代わりに宥めるようにリーアの肩を叩いた。

「だって、エルミニオ様がいないとつまらなくて。」

「困ったな。

君が退屈しないよう、使用人をつけたじゃないか。」

「ええ、でもやはり、エルミニオ様のそばにいたいんです。」

純真な雰囲気を匂わせて彼女はエルミニオに抱きつき、目は私を憐れんだ

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